遡る事、30年前 フォース
コツコツコツ…
「どうもどうも!こんちゃ~。お兄ちゃんは遠いとこからやって来たミヒャイルってんだ、よろしくな!」
スイカの化け物の中から見慣れない格好の人間が出てきた事と、そいつがえらいフランクだって事で、若君は少々混乱した。
「ふっ…ふはは、わはははははどういう事じゃ意味が分からぬ!はははははははは!」
混乱して、何やら笑えてきた若君。
「おお、変な子供だぜコリャ。まあさ、中に入んなよ?おやつにしようぜ!」
訳の分からぬままミヒャイルの勧めに従い、若君は爆笑しながらスイカの化け物の中へ入っていった。
スイカの中は木と畳に囲まれて育った若君にとってまったくの異空間。
石のような床に鉄のような壁で、なにやらピカピカといたる所で赤だの緑だの色々な光が点滅している。
そして密室だというのに外のように明るい。
「聞きたい事は山ほどあるが、まずどういう訳でスイカが空を飛んでおるのだ?」
少し冷静になった若君が言った。
「う~ん、言っても分かんないと思うぜ?さっき会った大人にも聞かれてさ、色々説明したけど分かってくれなかったしねー」そう言いながら、ミヒャイルは次の部屋に向かっていった。
「こっちでお茶にしようぜ~。おれも聞きたい事とかあるし、ゆっくり話そう!」
「うむ、分かった」言われるまま若君はその部屋に入っていく。
「ところで君さ、いつまで馬に乗ってんだい?」
「む?おお、忘れておったわ」若君は馬を降りて、ミヒャイルの勧める椅子に腰掛けた。
茶を煎れに行ったミヒャイルを待つ間、部屋をじっくり見回していた若君は、部屋の隅に白に大きな黒の斑点模様の獣のような物がうつ伏せになって寝ているのを発見した。
「んお!?なんじゃありゃあ?」
「お待たせ~」茶を持ってきたミヒャイルにも気づかず、若君はその獣を凝視していた。
「ああアレはね、パンダってゆう動物さ!普段は大人しいけど怒るとすげえ凶暴なんだぜ~」
「ほおお、ぱんだというのか……」初めて見るツートンカラーの動物に、若君は少し感動していた。
「ふっふっふっふ驚くのはまだ早いぜ僕ちゃん。なんとあいつは人の言葉を喋れるのさ!」
ミヒャイルは自慢げに言った。
「喋る!?獣が言葉を話すのか!」
「そうだ。おれが喋れるようにしたのさ!おれの発明でな!すごいっしょ!?」
「ほほ~凄いではないか!是非喋ってみたいものだ」若君は子供らしく、目をキラキラさせている。
「でも今は寝てるからちょい待ちだな~。まあその内起きるだろうから、そしたらお話してみるといい」
超嬉しそうな顔で、ミヒャイルは言った。
それからはもう若君の興味は「パンダとお話」の一辺倒で、ここいらの取材に来たというミヒャイルの質問には「ああ」だの「うん」だの「まだ起きぬのか?」だの「分からん」だの、適当に流してひたすらパンダを凝視していた。
「も~ちゃんとお兄ちゃんの話聞いてくれよ~」
お手上げ状態のミヒャイルがそう言った時だった。
ビービービー!と耳障りな音が部屋中に鳴り響いた。
「む、何事じゃ!敵襲か!?」若君は腰に差した刀に手をかけた。
「うわっやべえ!ポリ公来やがった!!」なにやら焦っているミヒャイル。
「悪いお前ら、ここに置いてくぜ!!じゃあなーー!」
隣の部屋に走っていったはずのミヒャイルの声がビービーという音と共に響いた。
それと同時に一瞬で床が無くなり、若君と乗ってきた馬
それに部屋の隅で寝ていたパンダは外の山に落とされた。
ドシーン!「ぐうう!なんじゃいな!」上を見上げると、もう既にスイカの化け物は消えており
周りを見回すと馬とパンダが転がっているだけだった。
落ち着かない若君は、手に持っていた茶菓子で出されたスナック菓子を、無意識に口に入れた。
そしてその凄まじい苦さに
「ぐおおおおおおお!!苦いわ!!」
と思い切り叫び声を上げた。
その声に反応してか
「うるっさいのう、ほんで体が微妙に痛いのはなん……うおお!!なんじゃこの体は!?なんでや!なんで毛むくじゃらになっとんねん!?」
と、遂にパンダが起きたのである。
出会ってしまった運命の一人と一匹。
遡る事、30年前のお話である。