第11章 第3話 アイドルの在り方
「なんかどんどんライブ観に来る人減ってる気がするんだけど〜」
エンシャント財団がプロデュースしているアイドルである日笠美玲は、現状への不満を隠していなかった。彼女の言う通り、ライブの観客は減り続けている。
「巴さ〜ん…どうなってるの〜?」
「崩壊災害の影響で、アイドルに夢中になる人間が減っているみたい」
エリア666の崩壊が、人々に与えた心理的影響は計り知れない。平和に暮らしていたはずの数万人もの人間が、一瞬で吹き飛ばされて灰になったのだ。
「こういう時こそアイドルの歌で…とはならないんだね…」
美玲はアナザーアースのアカデミーブロックで、巴に対して愚痴を言っていた。巴はエンシャント財団の一員ではないのだが元々縁があり、成り行きで協力している。
「崩壊災害の原因ですらよく分かってないからね。ジオフロントへの過負荷がただの事故なのか、人為的なものなのか…」
「鼎さんもうちの代表も最近忙しそうだし…」
エンシャント財団代表の秋亜は、エリア666の生き残りが015で引き続き生活出来るように奔走している。鼎も引き続き、崩壊災害の調査に協力している。
「ライブに来るお客さんが増える、効果的な宣伝方法ってないかな…」
「今はそっちを手伝う余裕はないかな」
巴も崩壊災害の時にエリア666で何が起きたのかを解析するので忙しかった。設備の老朽化が原因なのか、外部から爆弾などの危険物が持ち込まれたのか調べる必要があるのだ。
「うーん…誰も見てくれないのにアイドルやるのも虚しいし…」
「挫折するの早くない?」
巴はツッコミを入れたが、美玲はうんうんおんおん小さく唸りながら悩んでいるだけだった。巴はそれ以上構わず、データの解析に集中する事にした。
「新曲書いてくれる人いるかな…」
「新しい作曲家探してみる?」
「いやそれも厳しいでしょ…」
「じゃあまた、前と同じ人を…」
美玲が歌う曲には新鮮味がないという意見も、多々あった。今の彼女に楽曲提供をしている作曲家も、第一線のアーティストとは言い難い。
「歌うだけじゃなくて、色んな活動をしてみるのもいいかもね」
「うーん…バラエティ番組に出るとか?」
「えぇ…その路線は…」
「色々やってみるのも、悪くはないと思うけど」
美玲はアイドルとして、ある意味での岐路に立たされているとも言えるのかも知れない。同じ路線を続けるか、全く別の事を始めてみるか。
「ファンがいなくなった訳じゃないんでしょ」
「うん…まぁ…」
美玲は最短距離で人気になる事を目指しているフシがあった。だが最近は、彼女自身もそれでは駄目だという事に気づき始めている。
「ファンが少なくてもアイドルであり続ける事に、意味はあると思う」
「聴いてくれるファン…」
美玲はライブに来てくれる観客達の事を思い浮かべた。最初期からいるファンは、今も美玲の事を応援し続けている。
「…もうちょっと、踏ん張ってみるよ」
「私はアイドルに詳しくないから…ちゃんとしたアドバイスできなくて、ごめん」
美玲はドアを丁寧に開けて、研究室を去って行った。巴は彼女に思うところがありつつも、調査に戻った。