第11章 第1話 エリア013の姉妹 前編
「お姉ちゃん無理しないで。まだ本調子じゃないんだから…」
「大丈夫大丈夫、そんな無理してないよ」
花野美来は長い間昏睡状態だったので、まだリハビリは続いていた。妹である汐音は多忙な両親に代わって、姉が無茶をしないか見ていた。
彼女達も崩壊したエリア666の中継映像を見ていた。災害とは無縁になったはずの世界を襲った悲劇を見て、彼女達も言葉に出来なかった。
(事前に避難していなかった人達は全員亡くなった…信じられないけど間違いなく事実なんだよね)
中継映像はどこまでも凄惨な内容で、爆発に巻き込まれた人がどうなったのか想像も出来なかった。エリア666の人々は、どんな風に死んでいったのだろうか。
666から遠く離れた013には、直接的な影響は無かった。自分達が住んでいる土地に不安を覚える人が増えたのは、他のエリアと同じだ。
(私達はここから移動できない…)
彼女達にも両親にも、移住する為のお金が無かった。013から抜け出すには、長い時間がかかるだろう。
そもそも他のエリアに移動しても不安が消える訳ではない。ジオフロントに管理されていない土地はかなり限られている。
(これからも危険なエリア013で暮らし続けるしかないの…?)
エリア013は他のエリアと比べても治安が悪い。しかも湿度がかなり高く、暮らしやすい環境とは言いがたい。
(そういえばあの探偵…鼎さんはエリア003で暮らしてるって言ってたっけ)
エリア003は013とは比べ物にならない程発展している。花の形をした超巨大ソーラーパネルが有名な都市だ。
元々エリア007に住んでいた鼎は、現在は桃香と共に行動している。彼女は007に対して、特に思い入れはないらしい。
(あの人はちゃんと自分なりのやり方で人生を生きてる…)
汐音は未来を救出した件で、鼎に助けてもらっている。姉妹には探偵に渡す報酬もなく、鼎もいらないと言っていた。
それからしばらくの間、汐音は鼎と連絡を取っていない。特に向こうから様子を確認する様なメッセージも送信されていないからだ。
(あの人は今もこの世界の事で頑張ってるのかな…)
汐音はリハビリ中の姉の様子を見るので忙しく、世界の事を気にしている余裕は無い。この世界の事で奔走している人達には、報われて欲しいと思っていた。
その時、テーブルの上に置いてあった汐音のデバイスから着信音が響いた。汐音はクラスメイトからの電話だろうと思って手に取った。
『久しぶりね。美来は元気?』
鼎からの電話だった。