第10章 第11話 テロ組織との戦い 鼎と桃香の信念
(何が起きた?!鼎サンは?!)
爆風で吹き飛ばされた桃香は素早く体勢を立て直した。既にオフィスブロックは吹き飛んで、建物の構造部分が剥き出しになっている。
「桃香!大丈夫?!」
「無事だよ!とにかく態勢を…」
だが爆発による煙のせいで、視界がかなり悪くなっている。テロ組織の構成員が何人いるのかも、確認できない。
「前の時の勢いはどうしたのかなー?」
ナガレは挑発する様なセリフを言いながら、鼎達を探していた。今回の彼女は、あまり真剣に戦うつもりが無いようだ。
「一旦引くよ!」
「ストリートは駄目だよ!せめて裏路地に行かないと…」
鼎達はビルを脱出して、人通りが少ない場所へ向かった。ストリートの方を見ると、爆発騒ぎでパニックに陥っている人々が何処かへ逃げようと走っている。
『巴、今はログアウトできないの?』
『その辺り一体が封鎖されてる。時間が経てば元に戻る様に設定されてるみたい』
仮想現実で怪我をしても、現実世界への影響はない。これ以上一般ユーザーに被害が及ぶ可能性は低いだろう。
『裏路地で戦うの?』
『大丈夫、こっちには桃香がいる』
鼎は閉所での戦闘に慣れていないが、桃香はブラックエリアの賭場を仕切っていた。多数を相手にする戦いにも慣れているし、テロ組織が相手でも勝機はある。
「って、袋小路だけど。本当にここで大丈夫なの?」
「大丈夫。ここなら一気に複数人から攻撃される事は無いよ」
桃香と鼎が待ち構えている路地に、テロ組織の構成員達が現れる。彼らは鼎達を見ると、すぐに銃型の武器を構えて発砲した。
だが彼らの弾丸は微妙に方向が逸れていたので、一発も当たらなかった。桃香は時折、やたら暑そうにしている鼎を確認していた。
「よし、ちゃんと作動しているみたいだね」
「…桃香、何仕掛けたの?」
痺れを切らしたテロ組織の構成員達が、突撃してくる。だが彼らは桃香達を攻撃範囲に入れる前に吹き飛ばされた。
「何あれ、地雷?」
「まだまだ、それだけじゃないよ」
後続のテロ組織の構成員達は、何故か派手に転んでいた。靴の裏に何かが貼り付いて、うまく動けないみたいだ。
彼らの勢いは止まらず、床に貼り付いて動けなくなった男達を飛び越えた増援が鼎達に襲い掛かろうとする。しかし彼らは着地した瞬間にツルッと滑って転倒してしまった。
「…何仕掛けたの?」
「接着剤敷いて、機動阻止システム撒いたの」
あっさりと言ってのけた桃香だが、あまりの早業である。接着剤はかなり強力な物を使ったらしく、テロ組織の構成員達はまだ剥がすのに必死そうだ。
機動阻止システムは地面に良く滑る液体を撒いて相手が立っていられなくする事で、殺さずに無力化する兵器である。現実世界の攻撃手段は、殆どがアナザーアース内でも再現できる。
「こうすればまともに動ける奴も減って、勝ち目が出てくるよ」
テロ組織の構成員はまだ襲い掛かってくるが、数が少なくなってきた。鼎はテーザー銃で攻撃して、桃香もスタンガンでテロ組織の構成員を倒した。
「2人ともかなりしぶといね…」
「これでも修羅場は潜り抜けて来てるから」
後からやって来たナガレは、ガトリングガンを鼎達に放つ。しかし鼎と桃香は、倒れているテロ組織構成員を盾にした。
「ぐああああっ!」
「結構ひどい事するね…」
そう言いつつも、ナガレはガトリングガンを連射し続ける。鼎と桃香は弾幕を凌ぎながら、反撃の隙を窺っていた。
「アナザーアースって、銃のリロードやチャージにどれくらい時間かかる?」
「武器の改造具合にもよるかな…」
ナガレが使っているガトリングガンはかなり大型だ。改造によって繋ぎ合わされていて、無理やり出力を上げている。
「高出力ならその内ガス欠すると思うんだけど…」
「その隙に武器を壊すしかないか」
少しずつ弾の出が悪くなっているのを、ナガレも気にしていた。形勢逆転を狙うには、武器を交換するタイミングを狙うしかない。
「隙を狙って飛び出すよ」
「分かった」
ナガレがガトリングガンのエネルギーのチャージを開始した。桃香達は気絶したテロ組織構成員を蹴飛ばしながら、ナガレとの距離を詰めた。
「甘いっ!」
ナガレはガトリングガンを鼎達に向けて投擲した。投げられたガトリングガンは鼎を庇った桃香に直撃した。
「構わず行って!」
桃香は叫び、鼎は無防備なナガレをナイフで攻撃する。ナガレは驚きながらも、ナイフによる攻撃を難なく回避する。
「健気に頑張るね…」
「貴方達が何者だとしても、破壊活動を許す訳にはいかない!」
鼎は強い決意を感じさせる眼差しで、ナガレを睨んでいた。彼女はそれを見て、僅かに表情を歪ませていた。
「貴方は本当に私が追い払われるべき悪だって、信じてるの?」
「ボクと鼎サンを惑わそうとしても無駄だよ。常識無いからね」
「ちょっとそれどういう意味?」
桃香の言葉につっかかる鼎だが、平常心は失われていなかった。ナガレの言葉を鵜呑みにしない彼女達は、いつも通りの2人だった。
「確固たる正義か…何言っても無駄みたいね」
ナガレはそう言って、他の構成員を放置してその場を立ち去った。鼎達も満身創痍だったので、追跡はしなかった。
「鼎サン、ナガレが言った事についてどう思う?」
「あんな事をした人だから無視してもいいと思うけど…」
鼎は然程気にしていない様子だったが、桃香は密かにナガレの事を心配していた。宇宙都市計画の犠牲者なら、あれ程の恨みを抱いていてもおかしくはないのだ。
「ボクは賭場の仲間達のアカウントについて、また問い合わせないと…」
桃香は運営に何度も問い合わせをしているが、向こうの対応は遅い。仲間がいないと動きづらい桃香にとっては厳しい状況だ。
「私は巴にどうするべきか相談するよ」
一先ず戦いは終わったが、予断は許されない状況だ。鼎も桃香も、この事態にどう対応するかを決めなければいけない。
「この先の世界…正直不安だけど、何もしないで見てる訳にはいかないから」