第10章 第6話 見捨てられた都市 シティOI
その都市の中心地は燃え盛り、外縁部は静まり返っていた。大気圏のうち中間圏に位置するその街は内乱の最中だった。
「また平民の奴らが反乱を起こした!」
「ガスで無力化しろ!早く用意するんだ!」
支配階級は暴れる民衆を鎮圧する様に、素早く指示を出した。彼らは皇族を自称しているが、不健康な痩せ方をしている。
「うわあああ」
「ぎゃあああ」
暴動を起こした民衆は次々とガスを浴びて倒れていく。このガスには致死性は無いが、それでも体へのダメージは大きかった。
ーー
シティOIは、宇宙都市開発計画の一環で造られた街だった。エリア014の軌道エレベーターの一部であり、地上の住民が強制的に移住させられた。
だが宇宙都市計画はすぐに実現不可能だと分かり、頓挫してしまった。だが宇宙都市の住民は口減らしの為に見捨てられてしまい、地上に帰れなかった。
他の宇宙都市の住民は他のエリアによって救助される事もあったが、シティOIに救いの手を差し伸べるエリアは存在しなかった。救われなかった宇宙都市は、人々の記憶から消えていった。
「今日から我々が諸君らを導く!」
急に一部の比較的裕福な人々が、地上からの独立を宣言した。人々は呆れたが、孤立した都市を支配できる程の実力はあった。
だが皇族を名乗る支配階級は、民衆を苦しめるばかりだった。食料を徴収し、クレジットではなく自分達にとって都合の良い独自の通貨を定めたりした。
さらに地上の人々の暮らしが分からない様に、インターネットの利用や仮想現実へのログインを禁じた。市民達の情報源は、支配階級にとって都合の良い情報しか載っていない新聞だけだった。
民衆の不安を暴力で抑えつけるだけの彼らだったが、決して裕福だった訳ではない。彼らの空腹に苦しみ、そのストレスで民衆に八つ当たりをしていた。
「くそっ…地上の奴らめ…」
「電波の悪さは相変わらずだな…」
支配階級の者達はインターネットにログインして、地上の様子をチェックしている。だが彼らは建設的な考え方が出来ず、地上に生きる大多数の人間への恨み節を言うだけだった。
支配階級は恨みを溜め込むだけで、地上に対して何も出来なかった。彼らに出来る事は、ストレス発散の為に民衆を苦しめる事だけだった。
虐げられる民衆は反乱を起こすが、彼らはほぼ素手で暴れる事しか出来なかった。いつも最低限の武器を蓄えている支配階級に鎮圧されていた。
何度も起きる内乱が何度も鎮圧される事が繰り返されるのがシティOI。そこで暮らす者の殆どがそう思い、未来に希望を持っていなかった。
ーー
ゴミ箱がひっくり返って中身が散乱し、真ん中で少女が漁っている。彼女の名前はキーリアと言い、ゴミの中で使える物がないか探していたのだ。
彼女の親や周囲の若者は、改革派を自称して支配階級に戦いを挑んでいた。だがキーリアは彼らと共に戦う気など無かった。
そのせいで改革派から嫌がらせを受けていて、さらに精神的に疲弊していた。元々だが、彼女は無力感に苛まれる一方である。
(こんな街に未来なんて…)
結局、ゴミを漁っても食べれそうなものは見つからなかった。キーリアは家に帰る気にもなれず、小さな広場の隅で蹲っていた。
「大丈夫?」
「……」
「何も食べてないなら、大丈夫な訳ないか。ちょっと待ってて」
「え……?」
キーリアに声をかけた少女は、近くにあった小さな屋台でお好み焼きを買った。チープな見た目だが豚肉もちゃんと含まれていて、ソースもかけられていた。
「あ…もっと胃に優しい物がいい?」
「すぐにはそんなの取って来れないでしょ…それ、分けて欲しい」
キーリアは少女に分けてもらったお好み焼きを食べた。味は意外と悪くなく、十分に味わう事が出来た。
「私は神谷流…名前以外に紹介する事はないな」
「キーリア…」
お好み焼きを食べ終えた彼女達は、しばらく広場で休んでいた。他の人間達も、皆希望を忘れた様な表情になっている。
「キーリアはどんな風に過ごしてるの?」
「どんな風にって言われても…ゴミを漁って生きてるとしか…」
「地上への興味は無いの?」
「無いよ…私の周りには改革派がいっぱいいるんだけど、そんな事しても意味があるとは思えない」
キーリアはどこまでも無気力そうな少女だった。流は少し迷ったが、彼女の事も計画に誘ってみる事にした。
「アナザーアースって知ってる?」
「何それ…」
「地上の人達が利用している仮想現実だよ」
「私には関係ないじゃん」
シティOIのインターネットは、支配階級が独占しているはずである。一般市民は新聞から情報を得るしかないのが、この街である。
「私達はアナザーアースにログインして計画を進めてるんだけど…」
「えっ…どうやってログインしてるの?」
「内緒」
「そこは教えてくれないんだ…」
キーリアは少し流達に対して興味を持ち始めていた。彼女達がどんな事を使用しているのか、気になるのだ。
「あなたはこのままでいいの?」
「分からない…」
「じゃあ、私達と一緒にどうしたらいいか考えてみない?」
「どうしたいか…」
キーリアは自分がどうしたいか、分からなかった。これに関しては彼女自身で決める事が、今は難しかった。
「…地上にも、私の親族がいるかも知れないのかな」
「可能性はあると思うよ。シティOIが出来てから十数年しか経ってないし」
キーリアは地上に親族がいるかも知れないと思い続けていた。顔も見た事も根拠も無いが、それが最後の希望だったのだ。
「…計画に協力したい。まず何をすればいい?」