第10章 第4話 仮想現実での爆破テロ
エリア015、エンシャント財団。
「最近ブラックエリアが不気味な程静かなんでスよね…」
そう報告しているのは、エリア013出身の種田花江だった。彼女は上司の指示で、アナザーアース全域の情報をチェックしていた。
「ふむ…別にテロ組織構成員のアカウントが一斉に凍結された訳でもない」
「多分、良くない事の前触れです」
花江は上司からの指示で、アナザーアースにログインして直接調査をする事になった。彼女は面倒くさいと思ったが、仕事なので仕方ない。
ーー
（ストリートを見て回っても、有力な手がかりはなし…）
花江は危険地帯であるブラックエリアには立ち入らずに調査していた。だがやはりテロ組織に関する有力な情報は流れてこない。
（そろそろログアウト…あれはデモ活動?）
彼女はデモを行っているユーザーの集団を目にした。どうやら、サリアンという人物の言動を批判しているみたいだ。
「テロ組織撲滅とか言ってないでちゃんと責務を果たせー!」
（なんだあれ。世界平和を掲げる人に文句言う前にやる事あるでしょ）
花江はサリアンの事を“世界平和を掲げる活動家”程度にしか認識していなかった。何で彼女の事を批判する人が現れるのか分からなかった。
彼女は彼らの存在を無視してログアウトしようとした。だが、ストリートの遠くの方から爆発音が聞こえてきた。
（…テロ組織が動き出した）
花江は素早くエンシャント財団の本部にメッセージを送った。そして彼女は素早く人の波から逃れて、落ち着いて爆発が起きた方角とは反対の方向へ向かい始めた。
ーー
「サリアンさん!アナザーアース内でテロ行為が確認されました!」
「今ログインするのは危険です!」
支援者達が押しかけて来て、次々と忠告をした。サリアンは困惑したが、それでもアナザーアースにログインしようとした。
「私の信念は偽りではありません。ここで逃げる訳にはいかないのです!」
「だからこそ、貴方に何かあったら手遅れになるのです。どうか、ここは抑えてください」
サリアンは支持者の意見を聞き入れて、仮想現実での演説を中止した。だが彼女は、心の内側では悔しさを滲ませていた。
（私は…無力なのでしょうか…）
ーー
「ストリートでテロが起きてるらしいぜ」
「兄貴ー俺達は何もしなくていいのかー?」
賭場に屯しているチンピラ達は、ストリートで起きている事件に興味がある様だった。一方彼らの兄貴分とも言えるハンターは、何かに苛立っていた。
（桃香のやつ…どこで何してんだ…?）
