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第10章 第1話 エリア700 外側の町

(メッセージ…学校から?)


桃香はデバイスが受信したメッセージを確認した。メッセージの送信主の欄には、学校名が記載されていた。


『リカという女性があなたの住所を特定したそうです。情報交換のためにエリア700に来て欲しいという内容です』


(いやいや…学校側も対処に協力しますとかは無いわけ?)


桃香はすぐに家にある固定電話を使って、学校に電話した。電話に出た相手は、大欠伸をしながら受話器を取ったみたいだ。


『何でしょう?』


『リカって奴は住所を特定したって、どんな手段で伝えてきたんですか?』


『電話でした』


『あなたは素直にその住所で間違いないですって言ったんですか?』


『言いました』


『生徒の個人情報を守ろうとは思わないの!?』


『眠かったので…』


『もういい』


桃香は無責任な男性教師にうんざりして、電話を切った。リカはエリア700に来て欲しいと言っているが…


ーー


「エリア700…」


「遠いし行くの面倒くさいんだよね〜」


桃香はアナザーアースで、鼎に対して相談していた。学校側のいい加減な対応を愚痴ってから、本題に入っていた。


「エリア700…確か003と同じくらい発展してるエリアだよね。エリア外に自然公園や農耕地、小さな町まであるみたい」


「エリア外…?ジオフロントの管理下に置かれていない土地ってこと?」


2120年では人類が暮らしている各エリアの地下に、管理用のジオフロントが造られていた。安定した電力や食糧の供給の為に、なくてはならない施設だった。


「エリアの外って、危なくないの?メッセージで指定された場所は明らかにエリア外なんだけど…」


「100年前は、管理用ジオフロントなんて無かった」


戦争が繰り返される地獄の時代の以前は、人々は地上に建物を建てて暮らしていた。そのせいで地震などの、様々な災害に見舞われていたという。


「鼎サンは興味あるの?」


「管理下に置かれて守られている都市の外側で暮らす人々の様子には、興味がある」


「そもそも何でエリア700まで呼んでんのかな〜アナザーアースならすぐ会えるのに」


「それは分からないけど…アナザーアースでは情報交換したくない事情があるのかも」


アナザーアースでは賭場を経営したり好みの少女に怪しい視線を向けている桃香だったが、一般常識は備えていた。システムによる管理下に置かれていない場所に行くのに、不安があるのは当然だった。


「珍しいものも見たいし、私は行きたい。でも主目的は桃香に関わっているから…」


「行けばいいんでしょ…ってか探偵の仕事は大丈夫なの?」


「何処からでも、アナザーアースにはログインできるでしょ」


「ジオフロント管理外…電波の調子はどうなんだろう」


桃香は電波の調子を気にしていたが、鼎はそこまで不安視していなかった。今回は一泊なので、持っていく荷物が多くなる事はなかった。


ーー


「高速鉄道使っても到着まで5時間かかるじゃん…」


「だから余裕を持って出発したの。昼ごはんは

車内で食べれば良いし」


鼎と桃香はエナジーバーを朝食に食べてから、家を出発した。10時発に乗るので、トラブルが起きなければ午後3時にはエリア700に着いているだろう。


ーー


「何か観光名所とかあんの?」


「003みたいなランドマークは無さそう」


桃香は退屈そうな表情で、車窓の景色を眺めていた。人が暮らせない荒野もジオフロントに管理されたエリアも、珍しいのは最初だけなのだ。


「もうすぐ昼だし、弁当買いに行こうよ」


「どんなのがあるかな…」


ラインナップは微妙だったが、牛すき焼き弁当は美味しそうだった。結局2人とも、牛すき焼き弁当を買う事にした。


「うまい!美味い!旨い!」


「分かったよ…それ流行ったの100年くらい前じゃなかったっけ」


弁当を食べてしばらくすると、エリア700が見えてきた。エリアそのものにはこれといった特徴がないが、その周囲には森林地帯や大規模な畑を見る事が出来る。


「へえ〜今の地球にあんな大きな自然公園あるんだ〜」


「エリア015も環境保護に力を入れてるけど、こっちは比べ物にならない程すごいね…」


桃香も鼎も驚いた様子で、車窓から見えるエリア700を眺めていた。車内アナウンスがもうすぐ到着する事を告げている。


ーー


「エリア700…市内は普通だね」


「取り敢えず自然公園を見に行こう」


鼎達は看板の案内に従って、エリア外の自然公園へ向かった。エリア外に出れる事自体が珍しいので、他の観光客もそれなりにいた。


「エリア外に出ても大丈夫なの?大気汚染が…」


「そこら辺はもう大丈夫になってるでしょ。まだ危険な荒野には入れない様になってるだろうし」


エリア内はジオフロントによって大気の状況を管理しているが、外側ではそうはいかない。時間をかけて、空気を綺麗にしていかなければいけないのだ。


「エリアよって汚染の差はあったんだろうけど、本当にエリア700の環境改善のスピードが早いね」


「普通に外に出て平気なエリアなんて他に聞いた事ないよ」


桃香も鼎も、自分がエリアの外を歩いている事にどうしても違和感を感じてしまっていた。自分達が暮らしているエリア003では、まずあり得ない事だからだ。


「でもエリアの外にこれ程緑豊かな場所があるなんてね…すごいという言葉しか出てこないよ」


「ええ…本当に」


大自然の緑に圧倒された鼎達は、言葉も出さずに森林を見回していた。それ程までに雄大で美しい自然の緑が広がっていたのだ。


ーー


「本当にエリアの外に町があるんだ…うん、指定された場所はあそこだね」


「ゴチャゴチャしてそう…」


エリアの内と外を区切る壁沿いを歩いている桃香と鼎は、エリア外の街を目指していた。人類が暮らすエリアの様な清潔感はなく、下町特有の活気に満ちている様子だった。


「あんまり治安良くなさそうだね〜気をつけた方がいいかな」


「そうだね…取り敢えずあの町の大通りに行こうか」


ーー


エリア外の町は雑然とした雰囲気で、常に騒がしかった。東の方向には、エリア700内の都市の光が見える。


「リカのアドレスにメッセージ送信してよ。いま大通りにいるって」


「ええっ?やだけど…仕方ないなぁ」


『ボクは知り合いと一緒にエリア外の町の大通りに来たけど…あんたはどこにいんの?」


桃香は学校から教えてもらったリカのアドレスにメッセージを送信したが、すぐには返信がなかった。しばらくすると、通りの向こうから1人の少女が歩いてきた。


「君は…」


「現実だとこんな感じか〜…さん付けよりちゃん付けが合いそうだね、桃香ちゃん。そっちの大人の女性は…」


明るい髪色の少女の顔は、桃香が見た事のあるものだった。彼女は間違いなく、現実世界のリカ・アマミヤだった。


「ようこそ、アタシの故郷へ」


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