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番外編2 第2話 レイの悩み 身勝手な自称クリエイター

「それで?悩みって何です?」


ネネと敦也は近くにある公園のベンチで、ゲーム開発者であるレイの悩みを聞いていた。この自然公園は観光客はあまり来ないので、住民にとっての憩いの場だった。


「他のゲーム開発者が起こしたトラブルに巻き込まれて…」


「…はぁ?それで何で私に相談を?ネット上で起きたトラブル?」


「いえ、現実でのミーティング中に起きたトラブルです…」


「それなら他を当たればいいじゃないですか…」


ネネは呆れていて、レイも申し訳なさそうな表情になっていた。敦也は何とかネネの時間をこれ以上取られない様に、会話を終わらせるタイミングを図っていた。


「レイさん、今日はもう遅いので…」


「トラブルを起こしたゲーム開発者がどんな人間か教えなさい」


だがネネは、レイに対して強めの口調で相手についての情報を聞いた。レイは少しびっくりしていたが、トラブルの詳細を書いたメモを渡した。


「これでいいですか?」


「問題ないですね。気が向いたら調べてみます」


ーー


帰宅したネネは、レイから貰った会話の記録をチェックしていた。携帯電話から着信音が鳴ったので確認すると、敦也からのメッセージだった。


『ネネさん、本当にレイが言っていたゲーム開発者について調べるんですか?』


『はい、たまには現実世界の小さな問題を解決しようと思ったので』


メモによるとその開発者は、大手企業とコネがあると言って周囲を威圧しているらしい。その企業の本社はエリア003にあり、ネネも知っていた。


『碌でもない人物ですね…』


『私もそう思いますがこういう人間の話題は、まとめサイトの記事に載っていたりします』


ネネはすぐにパソコンを起動して、まとめサイトにアクセスした。今利用しているのは仮想現実とは繋がっていない、従来のインターネットだ。


『クソゲー作っただけで威張ってる奴www』


ネネはすぐにその記事を開いて、ネット上での書き込みをチェックした。そこにはトラブルを起こしているゲーム開発者の問題を指摘している書き込みもあった。


『ゲームを作るという気概があるのはいいが、商品未満の作品を売ってクリエイターを気取るのは他の開発者に失礼』


『クリエイターを名乗る事に異常にこだわってるだけの奴。多分コイツはゲーム自体は別に好きじゃない』


次にネネは記事のコメント欄をチェックする事にした。そこにはネットユーザーの攻撃的なコメントも多かったが、目を引くものがいくつかあった。


『あなた方は何も分かっていない。彼は可能性を認められている!これからどんどん完成度が高いゲームを作れる!』


『一つのゲームを作るのが大変か、有象無象のお前らに分かるわけない。この苦労が分かるのは一流のクリエイターだけだ』


やたら擁護しているコメントがあり、それに対して罵詈雑言に近い返信がされている。ネネはそれのコメントを見て、かなり呆れていた。


(本人降臨ですね…)


クリエイター本人と思われる人物と他のネットユーザーのレスバは明らかにヒートアップしていた。いきなり横槍を入れるユーザーまで現れる始末だ。


『塗装工の仕事をサボってる時点で論外。真面目に働け』


『ふざけるな。あんなのは僕の仕事に相応しくない。僕は才能あるクリエイターなんだ』


煽り耐性が余程低いらしく、降臨したユーザーは怒って返信していた。だが彼が塗装工である可能性が高いというのは、重要な手がかりだ。


ネネは今度は電子掲示板で塗装工に関する書き込みを確認した。エリア013に関する書き込みに、それらしいものがあった。


『頻繁に無断欠勤してる奴がいるんだけどどうすればいい?』


『自分は優れたクリエイターだからいずれこの仕事を辞めるし、今から無断欠勤しても問題ないとかほざいてる』


この塗装工がトラブルを起こしているゲーム開発者と同一人物である可能性が高くなってきた。ネネはエリア013の塗装工の業者に関する情報を、複数同時にチェックした。


(なるほど、ね…)


ーー


無限花興起はエリア013から、エリア045の公園に来ていた。その公園はゲームを開発している企業の近くにあった。


「…あなたですか?僕が作ったゲームについて聞きたい事があるって…」


「ええ」


エリア045まで興起を呼び出したのは、ネネだった。興起は自作のゲームに関する話と聞いて、疑わずにわざわざ別のエリアまで来たのだ。


「わざわざ別のエリアまで呼び出してすみません」


「いえいえ大丈夫ですよ。ここは013と違って空気もいいし」


敢えて下手に出たネネだったが、興起の対応も柔和だった。だがそれは本性を隠しているだけだと、彼女は察している。


「あなたは何度か、この近くにある会社に出入りしてますね」


「ええ…そうですが…僕と会った事ありましたか?」


「何度か顔を合わせていると思いますが…」


「覚えてませんね。シナリオ班の社員とは話しましたが…」


ネネはこの男は記憶力が弱い人物だという事を察した。もちろん積極的に話しかけた訳じゃないので、記憶に残っていないのも仕方ないかも知れないが。


「シナリオ班の社員の印象、どうでしたか?」


「彼女酷いんですよ?僕が一生懸命に作ったゲームの粗を探してケチをつけて!そりゃあ強い言葉で言い返したくなりますよ!」


突然興起はまくし立てる様に、鬱憤に満ちた言葉を放ち始めた。自分は被害者で一切悪くないと思っている人間の言動だ。


「003の大手企業に認められたと聞きましたが…」


「あの人達は僕の才能を分かってくれた!販売元として協力するって約束してくれたんだ!」


今度は嬉しそうな表情になった興起が、勝ち誇った様な大声を出した。彼は明らかにテンションの浮き沈みが激しいタイプだった。


「それを周囲に自慢したんですね」


「ああその通りだよ!少し強い言葉を使っちゃった時もあるけど、あれでみんな僕の才能の凄さが分かったはずだ!」


敢えて“威圧”という言葉を使わずに“自慢”という言葉を選んだネネだったが、彼は特に訂正しなかった。強い言葉を使っただけだと言う興起には、罪悪感はないらしい。


「後、個人情報が漏れてるみたいですよ。ネット上で晒されていました」


「何だと?!僕が作ったゲームを馬鹿にするだけじゃなかったのか…人のプライバシーを軽く見てる奴が多すぎます!」


興起は急に激昂して、怒りのままに大声を出していた。ネネは思わず耳を塞いでしまったが、彼は特に気にしていなかった。


「勤務先まで書かれていましたよ。塗装工というのは本当ですか?」


「本当ですよ…すごくキツイ職場で…」


「それで無断欠勤を繰り返しているという事ですね」


「…なっ?!それも書かれていたのか?!」


興起はまた異常なほどに驚いていたが、ネネにとっては予想通りだった。彼にとったらバレたらまずい、最大の弱点なのだろう。


「申し訳ありませんが、013の塗装工の業者に聞いてまわりました。確かにゲームクリエイターを自称している方が、無断欠勤をして困っているという話を聞きました」


「ま、待て!本当にキツイ職場なんだ!」


「塗装工を辞めるかはどうでもいいです。あなたは仕事をサボってまでゲームを作って大手企業とコネがあると言って、私の知人を威圧したという訳ですね」


「お、お前、あの女の手先か⁉︎」


立ち上がった興起は後退りをしながら、声を荒げた。怯えた様子でネネを睨んでいる今の姿が、彼の本性なのだろう。


「いえ、個人的に調べただけです。個人情報の流出については同情しますが、大手企業とのコネで威圧するのはいかがなものだと思います」


「僕は威圧なんかしてないし、先にケチをつけたのは向こうの方だ!」


『お前らみたいな何も分かんなやつが僕に指図するな!ちゃんと話題になる様な売れる広告にしろよ!』


「え…?!これって…」


「無限花興起さん、社外の人間であるあなたが随分威張っていたみたいですね」


公衆トイレの陰から現れたのは、ボイスレコーダーを持った敦也だった。彼は厳しい目を興起に対して向けていて、逃げ場が無い事を伝えていた。


「クソッ!僕をどうするつもりだっ!」


「別にどうこうするつもりはありません。が、態度は改めた方がいいと思いますよ」


「大手企業との繋がりで周囲を威圧すれば、いずれ噂が広まる。縁を切られても、自業自得だぞ」


「それから塗装工の仕事も無断欠勤を続けるくらいなら辞めて、別の仕事を探して転職した方がいいと思いますよ。そうした情報も、企業にとってはマイナスになるので」


ネネと敦也に厳しい意見を言われた興起は、反論できなかった。興起は明らかに怒っていたが、同時にネネ達を言い負かす事は出来ないと悟っていた。


「わ、分かったよ…あの会社の連中にもう関わらなきゃいいんだろ」


「他のクリエイターに対しても暴言を言ったら駄目です」


興起は後退りをして、そのまま公園から走り去って行った。ネネはその様子を見てから、家へ帰る事にした。


「…彼は大丈夫でしょうか?」


「ダメですね。もう彼の言っていた企業も、周囲に対する問題のある言動や無断欠勤の情報を掴んでいるはずです」


無限花興起は才能があると見込んでくれた企業の期待裏切っていた。彼の業界での信頼度は大きく下がってしまうだろう。


「さて、彼女に報告しましょう…寿司屋はふさわしい場所ではありませんね」


ーー


エリア045のセントラルステーションは、大勢の観光客で賑わっている。セントラルステーションから出る列車を利用して、他のエリアからやって来ているのだ。


そこの隅にあるお好み焼き屋は、大衆向けの店だった。普段は行かない場所だったが、今回のネネは待ち合わせ場所にしていた。


「何というかこの雰囲気は慣れませんね…鉄板がありますが、定員が調理してくれるんですよね…?」


「多分、こちらからお願いする必要があると思います」


ネネと敦也が使っているテーブルの横に、近づいてきた女性がいた。彼女は店員ではなく、先日ネネに悩みを相談したレイだった。


「助けてくれてありがとうございました〜!」


「暇だったから、調べてみただけです」


相変わらず桃香は、そっけない態度で返事をするだけだった。彼女はそれよりも、目の前の豚玉お好み焼きに興味があった。


「無限花も会社宛の謝罪のメールを送ってから、何もしてこないし。本当に助かりましたよ〜」


「…ネネさんはお好み焼きに夢中です。もう聞いてないと思いますよ」


敦也の言う通り、ネネは既にお好み焼きを食べ始めていた。彼女は久々のお好み焼きを、じっくりと味わっているみたいだった。


「本当にありがとうございました…では、私も注文します」


「私とネネさんは豚玉にしました」


一つの問題を解決したネネ達は、ひとまずお好み焼きを味わう事にした。


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