番外編2 第1話 エリア045にて
(このゲーム…本当に売れるの?私が作ったキャラクターは可愛いけど…)
かつてアナザーアースの開発に関わったプログラマー、椎名ネネはエリア045でゲームのキャラクターデザインの仕事をしている。あまり儲かる仕事では無かったが、彼女は仮想現実の開発で既に十分すぎる程の資産を得ていた。
(仕事も終えたし、またアナザーアースの様子をチェックしましょう)
既にアナザーアースは開発者達の手を離れていたが、ネネは独自の活動を続けていた。彼女はユーザーのアバターを使って実験をしながら、テロ組織の活動をチェックしていた。
(何だか不審な動きが多い…)
ーー
「珍しいですね、ネネさん。私を現実世界で呼ぶのは…」
「たまには一緒に寿司でも食べませんか?」
ネネは井上敦也を連れてエリア045の閑静なストリートを歩いていた。045はリゾート地として有名だが、ネネが住んでいるのは観光客の声が届かない土地に建てた家だった。
「この寿司屋…結構高い店ですよね」
「ええ、私の奢りです」
エリア045でも歴史があるその寿司屋はいかにも和風といった見た目ではなく、モダンな雰囲気だった。ネネは敦也を連れて店内に入り、カウンター席に座った。
「のどぐろの炙り握り、焼きハマグリ、亀の手を」
「小肌と炙りのセットをお願いします!」
ネネと敦也はこだわり抜いて握られた寿司を、しっかりと味わっていた。しかし彼女達の近くの席には、寿司をガツガツ食べている品のない女性がいた。
(…寿司に対する感謝がないですね)
だが職人は特に気にせず、他の客の寿司を握っている。彼は満足のいく寿司を握る事で満足していて、客の食べ方にはあまり関心がないみたいだった。
「…あっ!」
(えっ…何?)
寿司をガツガツ食べていた女性客はネネがいる事に気づいた。ネネは彼女の事を覚えている様な気もしたが、思い出せなかった。
「ネネさんですね!お久しぶりです〜!描いていただいたデザインも評判良くて…」
だが彼女も周囲の客や職人の視線に気づいたみたいだ。静かになった彼女は会計を済ませて、寿司屋から去っていった。
「何だったんでしょう…ネネさん?」
「…思い出した」
ーー
寿司を食べ終えたネネ達が店を出ると、先ほどの女性が待っていた。あまり身嗜みに興味がないタイプみたいだったが、見苦しくはなかった。
「ネネさん、知り合いですか?」
「ゲーム開発会社の人…レイです。私がキャラクターデザインを担当したので、何度か会社に出入りしていました」
「こんなところで再会できて嬉しいです〜」
「私は嬉しくないです。夜ご飯も食べたので早く家に帰りたいのですが…」
そう言ってネネは足早に立ち去ろうとするが、レイに先回りされる。ネネはうんざりした様子で、何か用ですかと聞いた。
「実は…相談したい事があって…」