第8章 第4話 ハートVS桃香 unreal survival編
「呼び出されたから来たよ〜エリシアさん〜?」
桃香はアナザーアースの中の、unreal survivalのプレイヤーが多く集う広場に来ていた。エリシアからの伝言があるのを確認して、彼女に会いに来たのだ。
「待たせたみたいね…ごめんなさい」
「またボクに用があるのかな?」
桃香は彼女が自分に何の用があるのか、気になっていた。もうエリシアがブラックエリアについて質問する事はないと思っていたからだ。
「アナザーアースの開発者について、知ってる事はある?」
「私はよく知らないし…あんまり首突っ込まない方がいい話題だよ」
桃香は適当な対応をして、この場をやり過ごそうとしていた。エリシアに危険な目に遭って欲しくないと思っていた。
「エリシアさん…こんな呼び出し方したら、周りの人にバレバレですよ」
「…彼女はハート、現実世界でのご近所さん」
エリシアは現実世界と容姿にあまり差がないハートが突然現れた事に内心驚いていたが、出来るだけ冷静に桃香に紹介した。一方既にハートの正体を知っている桃香は、うんざりした表情になっていた。
「今度は何の用?ボクはただの賭場の経営者なんだってば…」
「あなたは既に私の妨害をしています。放っておく訳にはいきません」
エリシアはこの事態に対処すればいいか迷っていた。少なくともこの場で争ってほしいとは思っていなかった。
「unreal survival…ログイン!」
エリシアは“unreal survival”に強引にログインした。それによって、周囲がunreal survivalにログインする為の領域に変わる。
「ちょっと…私はこのゲームやっていません!」
「手遅れだねハート!」
ハートに与えられた装備は、ゲストプレイヤー用の弱い物だった。桃香とエリシアは、既に強い装備品を身につけている。
「さてPvPタイムだよ!」
unreal survivalにはPvPコンテンツであるコロシアムがあり、プレイヤー同士の対戦も可能になっている。経験者がゲストプレイヤーにいきなり仕掛けるのはマナー違反だが。
（どうしよう…桃香に味方すべきか…）
エリシアは、アナザーアースの開発に関わっている人物を攻撃する事に躊躇していた。彼女を敵に回せば、取り返しのつかない事態になりかねない。
「エリシアさん大丈夫〜?どうしたのかな〜?」
桃香はかなり余裕があり、戦っている最中なのにエリシアの事も気にかけていた。このまま放って置いても、桃香が勝ちそうだった。
（ここはっ…!）
エリシアはハートに対して、魔法の炎を放った。彼女はアナザーアースの関係者を敵に回す決意をした。
「敵増えたねハートチャン…こっから逆転するつもり?」
「逃げるしかないですね」
戦況が圧倒的に不利だと判断したハートは、すぐに逃げ出した。桃香もエリシアも、後を追いかけたりはしなかった。
「…あなたは、何者なんですか?」
「怪しい賭場の経営者だよ」
正体が分からない桃香を、エリシアは警戒していた。桃香は彼女の視線を気にせず、デバイスでメッセージをチェックしていた。
（鼎サンから…今すぐオフィスブロックに来て）
「あっ…まだ聞きたい事が…」
エリシアが声をかける間もなく、桃香は走り去って行った。
