第7章 第3話 現実の桃香 仮想現実の鼎
「リカ…?あんた誰?」
「あたしが一方的にあなたを知ってるだけだよ」
桃香は賭場を破壊したリカに向けて、銃を構えた。リカはそれでも平然とした様子で、デバイスを操作し始める。
「ボウガンでボクと戦うつもり?」
「そっちこそ銃の形にしても、大した効果は無いと思うけど」
アナザーアースでの戦いはデバイスの改造具合だけでなく、やはり経験も大事となる。ブラックエリアで賭場を管理していた桃香は、かなり自信があったが…
「こっちから仕掛ける!」
「おっと…来たね」
リカはボウガンから光の矢を連射して、桃香とハンターは飛び跳ねて回避した。だがリカは正確にハンターを狙って、矢が彼の足に突き刺さった。
「痛え!何だこれ!」
ハンターが矢を受けた場所は、蛍光ピンクのペンキをぶちまけた様な見た目になっていた。痛がっているハンターを、リカは面白そうに見ていた。
「あたしの弓矢は痛さ十割増しだよ〜」
リカは笑いながら言って、さらにハンターを集中的に狙った。ハンターは何とか避けているが、既に防戦一方だ。
「くっ…おい桃香!ちゃんと手伝えよ!」
「ボクは楽しくゲームしてたのを邪魔されて、ご機嫌ナナメ」
桃香は明らかに戦いに乗り気でなく、やる気も無さそうだった。苛ついて退屈そうな彼女は、デバイスを操作し始めた。
「おいどうするんだ」
「ちょっと、視点を変えてみようかな」
そう言って桃香は、突然ログアウトしてしまった。これにはハンターもリカも驚愕して、一瞬固まった。
「…桃香ァ!」
ブラックエリアにハンターの叫びが空しく響いた…
ーー
(さてと、現実の方でリカについての手掛かりを探ろうかな)
ログアウトした桃香は、現実世界でリカの手掛かりを探す事に決めた。まず彼女は、エリア003の各学校のデータベースにアクセスした。
(さてパスワードは…よし、入れた)
桃香は015で巴から貰った機器を使って、強引にパスワードを解析した。
ーー
「お土産にそれ持ってくの?お菓子とかプレゼントしても良いんだけど…」
桃香達は003に帰る前に、巴の家に立ち寄っていた。鼎は015の名産品であるチョコレートやケーキを貰っていた。
「さくらんぼがのってるケーキだね。こっちはチーズケーキ、これは…?」
「ビーネンシュティッヒ。アーモンドとバタークリームが特徴のケーキだよ」
「どれもこれも、他のエリアじゃ中々無いケーキ…」
「さくらんぼが乗ってるココアのケーキはシュヴァルツヴェルダーキルシュトルテ。こっちのチーズケーキはケーゼトルテって言うの」
巴が015のケーキの名前を鼎に教えている横で、桃香は机の上に置かれた電子機器に興味を持っていた。市販品はなく、全て巴が自らの技術で作成した物だった。
「これの中にお土産として持っていって良い物ある?」
「え…まぁもう使ってないのもあるけど…」
巴は驚いていたが、特に桃香を止めようとはしなかった。面白そうに機械をチェックしていた桃香は、パスワード解析装置を気に入った。
「これも会社に頼まれて作ったの?」
「いやそんな事頼んでくる会社じゃないよ…それは現実世界で作ってみたい物の一つだったから」
興味深そうに巴が作った物を見ていた桃香は、パスワード解析装置が欲しいと頼んだ。巴は渡していいか迷ったが、彼女の事を信じて承諾した。
「変な事に使わないでね」
「大丈夫だよ〜」
ーー
そう言って巴から譲り受けた機器を使って、桃香は学校のデータベースに侵入していた。巴が知ったらショックを受けるだろうが、桃香にとっては別に悪い事ではなかった。
(リカの名前は…あった、これかな?)
桃香が見つけた名前は“リカ・アマミヤ”だった。桃香とは別の高等学校に通っている女子生徒だが、不審な情報は確認できなかった。
(ボクを襲ってきたリカとこの人が同一人物って確証はまだ無いなぁ…ってあれ?)
桃香は誰かからメッセージが届いている事に気づいた。知らない人物のメッセージではなく、担任の先生からのメッセージだった。
(ま、いいや。無視しよ)
桃香は担任からのメッセージに返信する事なく、調査を続行した。もはや桃香は、担任がどんな人物だったかも覚えていないのだ。
ーー
「すみません…遅れてしまいました」、
鼎の前のテーブルに座ったのは、ロングヘアの女性だった。遅れた事を本当に申し訳ないと思っている様子だ。
「相談したい事があるという事ですが…」
「はい、私はレイリー・ウィルソンです。ある学校で教師をしていたのですが…」