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7. 帰り道

職員室の前には、

既にななみを待っていたかのように待ち伏せていて、手に何枚か紙を持っていた。


「あ、ななみぃ~それにお友達も。来てくれたかい……」


葉山先生はそういうと光を見た。

光も葉山先生を見て、首を傾げてこう言った。


「もしかして、エリッピー先生?」


光の言った。エリッピーというのは中学とき学校のほとんどの男子が使っていた葉山先生のニックネームだ。


そのニックネームを聞いてか

先生は驚いたような顔をしてこう言った。


「あ、桜ちゃん。ご無沙汰。元気だった?」


「今はちょっと……」


光はそう思い出したかのように、

今さっきの驚いた顔から元のしんどそうな顔に戻した。


先生はそんな、

光を見て手に持っていた紙をななみに3枚紙を渡した。


その紙は入部届出、既に弓道部と書かれてあった。


ななみは、3枚くばられたので思わず首を傾げた。

でも、その意図はすぐに分かった。


「桜ちゃんも入りなよ」


先生はそう、笑顔を浮かべて光に言った。


ななみはそれを聞いて心の奥底から何かが盛り上がってきた。彼が入ったらきっと楽しくなる。


でも、光はため息をついて首を振ってこう言った。


「ごめん、

俺ボクシング部で掛け持ちは禁止だって言われてて……」


「へぇ~。そうなんだ」


先生もそれを聞いて残念そうに首を傾げた。


ななみはちょっぴりため息をついたが、

心のどこかではほっと息をついた自分もいたような気がした。


「なら、残り二人はよろしくね」


先生はそう言った。

光はそれを聞いて、ちょっと、待っててと言って職員室に入っていた。


光がいなくなったのを確認して先生は目の色を変えて、

分からなかった問題を解いたときのような表情でななみに聞いた。


「もしかして、ななみの片思いの相手って桜ちゃん?」


ななみは辺りを見渡して、

フミと先生以外がいないことを確認して、ばれているならと思って、静かに頷いた。


「もしかして、隣のお友達も?」


フミは、その言葉を聞いて頷いてこう言った。


「うん。ついでにあたし綾海文です」


「へぇ~。彼女の応援よろしくね。これでもだいぶ……」


 先生が何か昔の恥ずかしく思えるようなことを言いそうになったので、思わずななみは口を挟んだ。


「あ、あの!それ以上は言わないで!」


先生には唯一、

恋の相談に乗ってくれた人で、いろいろなことを知っているからだ。


膠着した雰囲気を見て、

ななみは顔を赤くして、思わず下を向いた。


「言わないよ」


先生はそう、軽く笑いながら答えた。

すると別の声が聞こえてきた。


「何をですか?」


光がそう職員室の扉を少し開けて、

顔をひょこりと出してそう言ってきた。 


ななみはそんな彼を見て、言葉が急に出なくなった。


息もしているかいないのか分からなくなって、

心臓が急に跳ね上がるかのように脈打った。


今の話、全部聞こえてた?


そう、ふと心の中で思った。

ななみは、血の気が引いて、今度は真っ青になった。

 

でも、案外そんなことはなかったようだ。

光は、後ろを振り向いてこう言った。


「だから。

今度からうちのオヤジがコーチしに来るとか言ってましたよ」


その声を聞いて、

フミがぽんと背中を叩いて耳元でこう言ってくれた。


「気づいてないから。落ち着いて」


ななみはその言葉を聞いて、

一気に空気が抜けたような風船のように緊張感が抜けていった。


職員室から男性の声が聞こえてきた。


「なら、オヤジさんによろしく頼む。

今日はゆっくり休んでおけ」


「了解。失礼しました」


光はそう言って職員室の扉を閉めた。

先生はこう首を傾げて光に聞いた。


「あれ、お父さんがこの学校にコーチに来るの?」


「そうみたいです……」


光はそう言って、ため息をついた。


用事を済ませた、三人はせっせと

学校を出て、下校し始めた。


フミは地元に住んでいるので駅に向かう道の途中で分かれた。


そのさい、

フミは笑みを見せてななみの肩を叩いて、光に聞こえないような小声で、


「がんばりな、緊張するなよ」


 と言って、手を振って行ってしまった。


がらりとした商店街を抜けて、

やっとのことで駅に着くことができた。


その間、ずっとななみの光も一言も声を掛けることはなかった。


ななみは、駅のホームにだって、ほっと息をついた。


「どうかしたの?」


そう、光が心配そうに声を掛けてきた。


心配そうな彼とは裏腹にななみ自身は、

心配されることでさえ、心の中を押しつぶそうとしている。


 ――なんで、こんなに緊張しちゃうの――


ななみは、首を振ってこう言った。


「どうもしてない」


思わず出した言葉が、怒ったような口調になった。


光は声を掛けようとしたが言葉を詰まらせて、

何か言いたげそうな顔をした。


そのまま、

沈黙の時間がすぎて、二人は電車に乗った。


沈黙の空間は、周りの騒がしい雰囲気とは孤立していて、二人だけ違う世界にでもいるような空気だった。


一個目の停車駅に止まったとき、

光がやっとその沈黙を破ってくれた。


「何かあったの?」


光はそう前を見ながら、ななみに聞いてきた。

ななみは誤解を解こうと即答した。


「うんうん。なんでもない」


光のほうを向くと、彼は黙って真っ直ぐ前を見つめていた。


そして、ほっとしたのかため息をついてこう呟くように言った。


「なら、いいけど」


ななみはそれを聞いて、やっと誤解が解けたことが分かって、彼の今の状況を思い出してこう聞いた。


「風邪、大丈夫。矢口から聞いたけど……

昨日休めばよかったのに」


「休むのはいやだった」


光はそう、ななみの目を見つめてそう答えた。

何かその言葉には意味が深くあるかのよう彼は言った。


「まあ、理由はいえないけど」


ななみはそれを聞いてこう言った。


「理由が何であっても、時には休まないとダメだよ」


光はそれを聞いて、軽く笑みを見せて笑った。


「確かにそうかもな」


光のきらきら光る太陽のような笑みを見てきた。

ななみはそんな彼を見て、思わず視線をそらしてしまった。


緊張が通りすぎて、体の自由が利かなくなった気がした。


今までこんなに一方的に男の子と楽しくしたことがなかったからからだろうか、

好きな人とこんなにも近くにいるからだろうか。


すっと、

手が伸びてきてななみの額にやさしく当たった。


そして、

ゆっくりと着地するかのようにペッタリと張り付いた。


ななみは思わず、はっとして息が一瞬できなくなった。そして、彼の声が聞こえてきた。


「熱、あるみたいだね、微熱だと思うけど」


そう心配そうな顔をして言う光の声が、

やさしく耳の中に入ってきた。


「俺たち。風邪を共有したみたいだな。

治ったのにうつしちゃってごめんね」


光はそう言って微笑した。


冗談とも取れれる彼の言葉を聞いてななみもそれに釣られて思わず顔がほころんだ。


「この調子だと、明日、俺ら二人は欠席になるかもな」


そう言ったと同時に電車が停車して、

光はすっと立ち上がった。


「着いたみたい」

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