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4.遠足だけど……

遠足の日の当日。ななみはぱっと目を開けて、いつもの通り顔を洗って、歯を磨いて、服を着替えて、家を出た。少し天候が悪そうだったので駅まで自転車でなく、バスに揺られて行った。


バスに揺られていると、だんだんと体がだるくなってきたのを感じ取った。ぼおっとしてきた。風邪でも引いたのかと思えた。でも、今日は休むわけには行かないとずっと心に留めていた。だから、足を止めることなく、とりあえず、電車の中に乗り込んだ。


 集合場所は、現地というだけで……光とは、話すことができず、同じ駅を使っているが、現地集合ということになった。そのため、彼がいるのかいないのか検討が付かなかった。


 乗り換えの駅について、メールのやり取りをやっているとフミがこの駅にいるというのを知って合流した。


 フミはななみの顔色を見るなり心配そうに声を掛けてきた。


「大丈夫?顔色悪いよ」


「大丈夫。平気だから」


 ななみはそう言って、つくり笑顔を見せると、洞察力の鋭いフミはそれを見破って、本当はキツイのを察しているように見えた。でも、答えは別に帰ったらという以外の言葉だった。


「ドリンク剤でも飲んだら?」


 フミはそう言ってくれた。どうやら、フミもその風邪のことよりも、ななみの願いのほうが勝っているのを見抜いていたようだ。


「なら、おごって」


 ななみは手を出して、フミにそう便乗した。すると、フミはこう言った。


「いいよ。桜さん」


 ななみはそれ聞いて頬を膨らませて、こう言った。


「やっぱりいい。自分で買う」


 フミはその答えを聞いてこう言った。


「これなら、問題なさそうね」


 ななみとフミは駅構内にあるコンビに向かって、ドリンク剤を買うことにした。


 ななみは、ドリンク剤の蓋を開けて、一気に飲み干してゴミ箱に空になったビンを投げ込んでフミにこう言った。


「そういえば、現地までってここから、どのくらい掛かった?」


「30分ぐらいだったと思うよ」


 それを聞いて、ほっと息をついたななみは、時計を見た。するとその時だった。遠くの方からフミを呼ぶ声が聞こえてきた。


「お~い!綾海!」


 声の主は、改札口にいる大きく手を振る矢田だった。隣にはポケットに手を突っ込んで、静かにたたずんでいる桜光がいた。


 それを見て、フミがこう言った。


「よかったじゃない。計算しなくても」


 フミの言葉は、ななみの心を完全に読んでいた。それは、なぜ時間を聞いたかだ。理由はフミの言葉通り、彼に会う時間を計算していたのだ。心を落ち着かせる時間がどのくらいか、知りたかったからだ。


でも、もうその時間がないのが分かって、ななみは大きく息を吸って、心を落ち着かせてこうフミに言った。


「行こ」


 4人は合流して、予定に電車に乗り込んだ。


 電車の中、さすがにラッシュとは違う方向だったから、乗っているのはごく数人だった。


 フミに着いたら起こしてと言って、イスに座って、そっと目を閉じた。


こうでもしないと、きつくてしょうがなくなっていた。ぼおっとして、ついに座っているのもきついと感じてきた。


 ちょっと、したらフミの声が聞こえてきた。


「着いたよ。ななみ」


「え、分かった?」


 ななみはそう言って、目を開けてイスから立ち上がった。電車から出たのはよかったけれでも、急に寒気がしてきて体が重たくなってきた。


「顔色悪いな。大丈夫か?」


 そう、矢口が言ってきた。ななみはそれを聞いて首を振ってこう言った。


「うんうん。大丈夫」


 そうは答えたが、大丈夫という言葉は、完全に間違っていたのだ。


 がんばってここに着た、ななみの素性を知っているフミも心配そうな顔をしてこう言った。


「帰ったほうがよくない。だいぶしんどそうに見えるけど」


 フミの言葉を聞いて、はっと今、置かれた状況を把握することができた。


 桜光と一緒にいたい思いを分かってくれている、彼女がそういうのだからきっと、これ以上は無駄足になるのだろうと察しられた。


 ななみは心の中で、ほっと一息をついて今回のことを中止して家に帰ることを決めて、こう言った。


「ごめん、なら帰る。フミよろしくね……」


 その言葉を聞いて、フミがこう言った。


「一人で帰れるの?」


 その質問を聞いてなのか、今までずっと口を閉じていた、彼……光が、


「俺が連れて帰るよ……家近いし」


 フミはそれを聞いて、じっと桜光を覗き込むように見つめて、こう言った。


「まじ、ならよろしくね」


 それを聞いて、光は軽く笑みを見せてこう言った。


「ああ、なら先生に連絡よろしく。海菜。一人で歩ける?」


 そい言って、そっとななみの方に近寄った。


ななみは思わず、こう答えた。


「うんうん。平気」


 すると、光の背中に見える。フミが首を振って、無理だと言えとアイコンタクトをとってきた。でも、そんなこと言うことは恥ずかしくてできなかった。


 フミと矢口が行ってしまってから、ちょうど電車が駅に到着した。


 電車の中は人が一人もなく、ドアが閉まった瞬間。その空間は二人っきりになった。


 満喫する余裕もなく、ななみはイスに座って、窓に頭を当てて何も考えずにそのまま目お閉じた。


 ずっと、意識がふらふらしながら、彼の先導がありながらゆっくり帰った。地元の駅について、光と一緒にバスに乗った。


「もういいよ。もう帰れるから」


 ななみはそうイスに座って、つり革を持って前に立っている光に言った。


「でもな、最後まで送る」


 光はそう言った。ななみはそれを聞いて、一緒にいたいということよりも、今さっきまでの状態を考えてこう言った。


「ごめん。ありがとう」


「いいや、別に……それより。海菜、家はどこの近く?」


 ななみはそれを聞いて答えた。


「夢ヶ丘小学校の近くのマンション」


 光はそれを聞いて間髪をいれずにこう言った。


「え、本当。実は俺、夢ヶ丘小の近くのリバティーコートってマンション」


 ななみはそれを聞いて、目を大きく開いて驚いた。声も出ないほど驚いてしまった。


「だ、大丈夫?」


 光は心配してか、黙ってしまった。ななみに声を掛けてきた。


 ななみが驚いた理由は簡単。ビバリーコートは、ななみも住んでいるマンションだからだ。そして、こう言ってみた。


「実は、私も…リバティーコートなんだ」


 光はそれを聞いて、ふ~んと落ち着いた様子で、何かひらめいたのかこう、なんだかうれしそうに言った。


「なら、帰り道も一緒だ。最後まで送ってやるよ」


 ななみはそれを聞いて、ほっと息をついて光にこう言った。


「あいがとう」


 バスに揺られている間に、彼が去年リバティーコートに引っ越したことを聞いた。今までは母校の中学校近くの賃貸マンションに住んでいたらしい。


 それを聞いて、中学校を卒業してから、彼を見かけなかったのを思って、近くにある事柄はあまり、目に付きにくいものだなとしみじみと思ったりしてみた。


 家の前まで、光はきちんと見送ってくれた。ななみはカバンから鍵を出して、鍵穴に入れたときだった、光が首を傾げて聞いてきた。


「もしかして、家に誰もいないの?」


「うん」


 ななみは頷いた。すると光はポケットから携帯を出して、


「携帯出して、アドおしえるから」


 ななみはそれを聞いて、おもわず拒みそうになった。


「いいよ。別に……」


 そう、口にした瞬間。光の目が急に暗くなった。きっと親切にしているのにこんな簡単にぶった切られたからだろう。


 ななみ自信もこの言葉で、ちょっとした、彼と接点を作るチャンスを逃すことになった。


 ――うんうん。今のは、なし――


 そう心の中で、呟いて光の顔を見て、こう言った。


「ごめん。い、今のは冗談……ありがとう。なら、赤外線で」


 ななみはそう言って、携帯を出した。すると光はほっと一息降ろした。相当、気にかけてくれているのが見えた。こんなに親切だとは思いもよらなかった。


 アドの交換も終わったところで、光は帰り際に階段に向かう途中振り返ってこう言った。


「あ、そうだ。俺3階の6号だから」


「あ、うん」


 ななみはそう頷いて答えた。すると、光はまたスターのようにウィンクをしてこう言った。


「ご近所同士、よろしく。あと、しっかり休めよ……じゃあ、またな」


 光はそう言って、手を軽く振って、ぱっと階段を駆け上がっていった。ななみは彼の背中に向かって、恥ずかしながら、手を振ってみた。


家に入って、急にどきどきし始めた、胸を撫で下ろした。今まではずっとしんどくて、こんなことを感じてはいなかったが、つい彼がいなくなってから、風邪なんか吹っ飛んで、今さっきまであったことが頭の中を飛び交って、胸を押し付けた。


こんなに心が締め付けられて、苦しいのにどこかそれを喜んでいた。


 カバンを置いて、何をすればいいのかを一瞬忘れて、そしてすぐに、自分が風邪だというのを思い出して、せっせと寝ないといけないと思いベッドの中に飛び込んだ。そして、目を閉じた。

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