3.やってみたいこと
朝、教室に入ってほっと一息ついて席に座れば先に来ていた、
フミが話しかけてきてくれた。
「やほぉ。ななみ」
「おはよう」
そう言って、簡単に挨拶を済ませて机の中に教科書類を突っ込んで、
ななみはほっとため息をついた。
「なんか、ずっとため息ばっかりだけど、何かあったの?」
「別に、何もないよ」
そう、ななみはつくり笑顔を見せてごまかした。
実際は問題がありありだ。
「そうだ、今度遠足があるじゃん。それ一緒に周らない?」
ななみはそれを聞いて、遠足があることを思い出した。
遠足は4人一組で回るのが鉄則になっている。
「いいよ。4人だけど?他は誰誘うの?」
ななみはそう聞くと、
フミは少し裏のありそうな笑みを浮かべてこう言った。
「そうね……去年同じクラスだった。矢口と桜かな……」
ななみはその言葉を聞いて、思わず息が止まりそうになった。
そして、少し黙り込んでからとっさに浮かんだ言葉をフミに言った。
「え、男子と……」
ななみはそう息を飲み込むように、
言ったあとフミが周りをちらちらと確認してこう言った。
「友には隠し事は無し……ななみ、桜のこと気になってるでしょ?」
「え、え……」
ななみは、
フミの言葉を聞いて言葉を詰まらせて口を摘むんだ。
今までずっと誰も言っていない、
一人だけの思いについての出すにも出すことができな問いかけだったからだ。
ななみはフミの顔を見て確信づいている彼女の目が、
答えろと答えろと連呼しるように思えた。
ななみは、フミと同じく周りを確認した。
すると、教室には、誰もいなかった。ついでに廊下からも音一つなかった。
何もない静かな教室の中で、ななみは黙って頷いて答えた。
すると、フミはふ~んと首を縦に振ってふざけた口調にこう言った。
「なら、問題は無しね。キューピットになってあげる」
「でもいいよ……」
照れ隠しにそう言ったが、実際には心のどこかでうれしく思っている面もあった。
でも、恥ずかしくなって照れくさくなったのだ。
フミはそれを見抜いてか、
ななみの心の中身を鏡に映すかのごとくこう言った。
「そう思ってない。自分に正直になったらどう?」
ななみはそれを聞いて思わず言葉を失ってしまった。
――確かに、ここは接点の少ない彼と、接近できる、チャンスかもそれない。そこは、割り切って一歩すすむんだ――
ななみはそう思って、真剣な顔になってフミにこう言った。
「なら、お願い」
それを聞いて、フミは軽く吹いた。
ななみはそれを見て、頬を膨らました。
「なんで、笑うのよ」
フミはそのななみの言葉を聞いてこう言った。
「ごめん。まさかそこまでマジになってるなんて思わなくって……」
フミはそう言ったあと、顔を笑い顔から真剣な顔に変えてこう言った。
「でも、いいよ。手伝ってあげる」
ななみはそれを聞いて、
今までずっと真っ暗だった道に、見えていなかった、道しるべが見えてきて、
心からうれしくなってきた。
「でも、何で分かってたの?」
ななみはそう、
なぜ今までばれないようにしていて、しかも誰にも言っていないことを彼女が知っているのか疑問に思ったので聞いてみた。
「ずっと見てたでしょ。多分これ知ってるのあたしぐらいだけど。
だから大丈夫よ。誰にもばれてない。誰にも言わないから」
ななみはそれを聞いて、ほっとしてため息をついた。
そして、フミが首を傾げてこうななみに聞いた。
「でも、何で好きなの?今まであったことも筈なのに?」
ななみはそれを聞いてこう答えた。
「同じ中学校だったんだ……それ以上は企業秘密」
「要するに、理由はないって?」
フミの言葉は図星だった。
別に理由なんてなかった。気がついたころには頭の中にずっと彼がいたからだ。
カッコイイからと思ったこともあったが、それ以上に違うものがあった。
でもそれは何だか分からない、でも彼のことが気になっている。要するに好きな理由はないのだ。
ばからしいが、強いて言う理由なら、
よく古典的にいう宿命、運命と言ったところだろう思っている。
ななみは強くこう答えた。
「理由なんてない」
フミはそれを聞いて真面目の顔になってこう言った。
「乙女のときめきね……」
「そんな、真面目な顔して言わないでよ」
ななみはそう言って、思わず笑った。
「ま、がんばりな」
フミはそう言った。と同時に、
教室の中に誰かが入ってきて、二人は話の種を変えた。
「そういえば、ななみ。これ見て」
フミはそう言って大量に紙の入ったファイルを机の中から出した。
「これ、全部あたしの作品よ」
「作品て、なにの?」
「絵よ、絵」
ななみはそれを聞いて、
とりあえず一枚ファイルから取り出して手にとって見てみた。
紙に書かれていたのは、
何かはよく分からないが、アニメーションでほっそりとした、少女マンガに出て来そうな、キャラクターだった。
「へえ、すごい」
ななみは、そう言葉を漏らした。するとフミはこう言った。
「前に言ったあたしの趣味」
ななみはそれを聞いて、こうフミに率直に聞いた。
「漫画家希望?」
フミはそれを聞いて、
首を振った。そしてこう言った。
「アニメーター」
「へえ。すごい」
ななみは、いまいちアニメーターという言葉は知らないが、
簡単に推測して、絵を描く人だろうと思えた。
今度は、フミがこう聞いてきた。
「そういえば……ななみは何か将来の夢とかないの?」
「え……」
ななみはそう首をかしげた。
将来のことなんて考えてみたことがなかったから、答えるのに困ってしまった。
すると、フミはこうにんまりと笑みを浮かべてこう言った。
「お嫁さんでしょ?」
ななみはそれを聞いて、思わず照れくさくなって軽くフミを叩いてこう言った。
「そんなんじゃない」
すると、フミはこう小声で言った。
「桜さん……」
すると、ななみは頬を膨らませてこう言った。
「もぉ、そんなこと言わないでよ」
そして、フミが軽く笑ったのを見て、ななみの軽く笑った。
その日の、6時間目のHRは、遠足の班決めになった。
人数は4人別に誰とでもいいという割合だった。
フミは宣言どおり、矢口と桜を引っぱってきてそれで班が決まった。
遠足は明日で、班は現地に集合することにした。