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あの頃  作者: 涼木行
11/11

11

 


 夏休みも中盤を過ぎたある日。


「そ、そういえば今更なんだけど、サキちゃんって誕生日いつ?」

 とソワソワしながら渡利が切り出した。


「あー? ……一昨日」


「え? ――ご、ごめん! 全然知らなくて!」


「嘘」


「え……?」


「ほんとは11月」


「……ほ、ほんと?」


「ああ。11月の10日。おしーよなあと一日でゾロ目だったのに」


「ほ、ほんとだね……でもよかったー……ほんとに一昨日だったらどうしようかと思ったよ……」


「ハハハ! お前のことだから心底パニクりそうだな! まー知らなかったんだったらしゃーねーだろ。それよか先月とかのほうが逆に気まずくね? 一昨日だったら二日遅れでーとかなんとかなるし」


「それもそうだね……11月の10日ね。覚えた。ゾロ目じゃないってことで逆に覚えやすいね」


「だろ? お前はいつよ」


「……そ、その……8月の、23……」


「マジ? もうすぐじゃねえか。来週? それでいきなり聞いてきたのな」


「う、そうだけどそうじゃないというか……こう、あとから言ってなんで言わなかったんだってなるのも悪いし……」


「なるなそれは。こっちとしても一週間前に言ってもらえて助かったわ。直前も直後も困るしよ。よーし渡利、何がほしい」


「いや、そんな悪いよ。サキちゃんだっていっぱいバイトしてがんばってお金稼いでるのに」


「んなこと言うなって。誕生日なんて年に一度じゃねえか。そりゃんな高いのは買えねえけどよ、それこそCD一枚くらいなら普通にオッケーよ」


「それだって何千円もするし……それに私は、サキちゃんと一緒ならそれだけでいいし……」


「……お前、ほんとかわいーなー」


「う、そんなことないし……」


「なくはねーだろ。というかかわいー言われてそんなことないってのもおかしくねーかー?」


「でも同意するようなことでもないし……サキちゃんのかわいいはなんかおちょくってる気もするし」


「んなことねーって。マジよマジ? 確かにお前の反応がおもしれーからちといじってる部分はあっけど」


「ほらやっぱり……」


「いーじゃねーか褒めてんだしよー。まーでも確かに逆に物とかじゃねーほうがいいかもな。どっか飯でも食い行くか。たまには少しくらい贅沢して」


「うん、そうだね……そういう方がうれしいかも」


 渡利はそう言ってようやく笑顔を見せた。


「でもなんか意外。意外っていうか不思議っていうか。私のほうがサキちゃんより年上になるなんてね。絶対年下なのに」


「あー、そうだな……渡利よ」


「なに?」


「お前には話しとくけど――実は私一個上なんだわ」


「……どういうこと?」


「いやさ、そのまんま。一つ年上。今16じゃなくて実は既に17」


「……え、でもだってさっき誕生日11月だって」


「それは嘘じゃねーよ。11月に18になんの。いやさ、前に東京いた時親の借金で云々話したじゃん? そん時にさ、母親出てって親父も蒸発して家にも借金取りで、まーそんなんでしばらく学校行けねー時期があってな。それでじーちゃんたちに引き取られてこっち来たタイミングでよ、一年授業遅れてっからって同じ学年もっかいやってんだわ」


「……えっと、それはつまり留年みたいな……?」


「ああ。小学校だけどな。じーちゃんたちとか学校の人とか、あと役所? とかが色々融通きかせてくれてっていうの? まーそんなわけでよ、アタシマジで年上」


「……そ、そうだったんだ……」


「ああ。だからお前誕生日きても年上じゃなくてタメ。それも数ヶ月でまた年下だけど」


「そっか……でも、でもっていうのもなんだけど、なんか納得したなー」


 と渡利は遠慮がちに笑う。


「サキちゃんはやっぱりこう、すごく歳上な感じがあったから。これで私同い年かーサキちゃんは大人っぽくってすごいなー私なんか全然子供でダメダメだなーとか思ってたから」


「ダメじゃねーだろ別に。そりゃ明らかにお前のほうがちーせーけど」


「う、ひどい……サキちゃんが背高すぎるだけだよ。私だって平均くらいはあるし」


「だとしても顔はおさねーよな」


「う、またそうやって気にしてることを……」


「いーじゃねーかそれがお前だろ? ちょっとガキっぽくったってかわいいんだからいーんだよ別に」


「そうかなー……でも、そういうのだと今まで色々大変だったよねやっぱり……」


「てほどでもねーけどな。めんどくせーから自分から話すこともほとんどねーし。逆に一つ上な分体デカくて色々楽だったな。ナメてる男子シメたり」


 と悪魔的な笑みを浮かべる国見。それを見て渡利は、


「やっぱりサキちゃんはそういう人だよね……」


 と呆れた様子でため息をつくのであった。



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