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第二戦 角殻仔香直vs姫木・フォッポリオ・幸子

 ぼろぼろの汚い木刀はその名を『らっはさぱと』と言う。武の道を行きたいというわけではないが、安全神話の蚊帳の外で育った私を守り、共に戦ってくれた相棒。そんなお前が再び美しい姿を取り戻し、輝きを取り戻してくれると言うのならば、私は喜んで戦おう。

「参る」

 何とも珍妙な格好であるな。しかし、こんなに小さな女の子が相手とは。

「はいよー。よろしくねー、おねいさん」

 発音が特徴的でありますな。しかし、才ある兵であれば多少の奇抜さは持ち合わせていると言うもの、惑わされたりはしませんぞ。

(あー、確認しましたー。お二人さんどーぞ)

 開始の合図と共に距離をつめてくる。特に引きを所有しているわけでもなく、特殊能力を用いる素振りもない。こちらは強化された最強の木刀、まずは、懐に入らせないようこちらの間合いで勝負するべきか。動きに合わせて間合いを取り、一撃で勝負を付けたい。


 ぶーん。


 真正面から飛び込んでくるところを、バックステップで間合いを取り、白刃一閃、となるはずだったのであるが、どうやら加速能力があるらしい。目の前で不自然に向きを変え、速度を増し、拳を放ってくる。際どく避けることは出来たものの、距離は相手の間合いであることに加えて、バランスを崩してしまったために次の一手が遅れてしまう。

 足元に力を入れてバランスを取り、直前まで相手の動きを見続けることで辛うじて防いでいられるが、反撃をする隙が一切ない。変則的で隙のない変化と加速の連続で攻め込まれる。体重が軽いのではあるが、加速力と的確に急所を狙って打ち込む技術は確かなもので一撃の力も十分だ。

 だが、体重差があるのであれば避けるのではなく、受けてやる方が相手の動きととめることが出来るだろうか。動きが変則的であるので注意が必要ではあるが、上手く受けることができればそのまま反撃できるだろう。


 どーん。


 吹っ飛ぶ体、ひっくり返る空、まわる何だか。あまり色々考えても集中を乱すだけであるようだな。かすっただけでこの威力とは大したものだ。さて、いよいよ追い詰められてしまった。次はないぞ。


 頼むぜ、らっさん。


 そうして相棒を強く握り絞めた瞬間オーラっぽいものが発せられ、相手の追撃を受け止め跳ね返す。

「おねーさん、やるねー」

 その黒い何かは激しく迸り、相手に大きなダメージを与えたようだ。 


 って、えー!!

 ちょっと、それ、困る困る困る!!


 私のらっさんが(驚)!

 私のらっさんが(戸惑)!

 私のらっさんが(悲)!


 とは言え、戦いの最中待ったをかけるわけにも行きませんな。この力がなければ勝てそうにもないのは認めざる終えない。


 こんなはずじゃなかったのに(呟)。

 こんなはずじゃなかったのに(嘆)。

 こんなはずじゃなかったのに(怒)。


 そんな思いとは裏腹に、激しさを増す黒い何かは刀身を覆い、もはやらっさんの姿は見えなくなってしまった。

「こんな姿になってもお前は私の側にいてくれるか」

 ぐぬぬ。泣いてはおらぬぞ、泣いてはおらぬぞ、泣いてなんかないんだからね!

 黒い何かは私の動きに応じてサポートし、攻防一体の動きを作り出す。素早く動かせば黒い塊を飛ばすことも出来るようだ。どうやら飛び道具が使えるらしい。変則的な動きは出来ないものの、広い攻撃範囲を上手く用いれば対等に戦うことができるようだ。

 さて、どうやって勝負を決めようか。互いに攻めあぐねてきたところで、恐らく相手もそうなのであろうが、何か仕掛けたい衝動に襲われる。敵と向かい合っている以上、それを打ち倒したい、そう言う気持ちは多かれ少なかれあるものだ。我慢比べは嫌いではないが、好きでもない。らっさんに変な能力が付加されてしまった精神的ショックを考えると、出来れば心を磨り減らす戦略は避けたいところだ。軽率な判断はするべきではないが、何か策があればやるべきだ。


 醜く黒い塊と化した彼と向きあうには私の精神力はあまりに貧弱であった。


 ひとまず相手のスピードと変化に対応するためにらっさんを無理に振り回さず、黒くて汚いものをコントロールしながら最小限の動きで対応する。相手の動きの傾向と言えば、不自然な速度変化、死角をつく動き、圧倒的な手数とフェイントの多さ。しかし、素直な攻撃が少ない分、意表をついてくる確率が高いことは理解できる。黒くて得体の知れないもののお陰でスピードやテンポは速いが重い一撃を打ってこない。捕まることを恐れているのだろう、選択肢を絞るに連れて、勘に任せても悪くないと思えるようになってきた。狙い目は相手が動きを変えた瞬間、すなわち次に変化する前に叩ききるために先読みして一撃をいれる訳だ。外せばこちらの負けであろう。しかし、今の感覚では悪い賭けではない。


 悔しいがどす黒い何かはとても役に立っているようだ。

 

 悟られないよう通常より強く足を踏ん張り体重を乗せて、全身を使ってバランスを取りながら、体重を乗せて・・・・・・、

「いっけー!!」

 いるのは相手も同じらしい。気があうね。でも、真っ向勝負なら負けはしない! このまま勢いを殺すことなく全力でぶつかるのみ!


 鋭い闇の閃光は鈍い音を轟かせ狂気の叫びを解き放つ。

 それは暗黒面の美しさ。

 なんて、認めないんだからね!!


(あー、お疲れさん。怪我とか大丈夫ー? 大丈夫だよねー。はいはい、じゃあ、おーしまい)

 何とか勝つことが出来た。勝つことは出来たが、

「ごめんよらっさん。ごめんよらっさん。ごめんよ・・・・・・えっぐ」

「おねーさん、どーしたの? 勝ったのおねーさんだよ」

 そういう問題ではないのだ。私が不甲斐無いばかりにこんなに醜い姿を・・・・・・。

「ふわーん」

 大泣きした。

「ちょっと、ちょっと」

 困っている小さい女の子を前に、人目をはばからず、おお泣きしてしまった。


 もっと、私が強くなればいい。

 必ず強くなって美しい貴方の側に。

 そう、もっと強くなるからね。


「ああ、もう、しょーがないなー。負けたのアタシなのに」 

 ちびっ子の胸の中で泣く私。

「世話の焼ける・・・・・・」

 ごめんなさい。

 

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