第一話・神の興味
もしも、神と呼ばれる存在が居るのならば、それに相応しい創造力が必要であり、そして創造された者が動物であれば弱肉強食は必然であろう。
それは、神の娯楽か…それとも、神は案外孤独であったのか、それに準ずる感情を持っていたのか………。
神は動物たちの生態が進化する過程で、一部の個体…いや、知的生命体である人間というものが誕生する軌跡を見た。
人間たちは、自分のテリトリーを守るためお互いを殺し合った。
生きる為に殺すという質素さではなく、お互いが相容れない為に殺し合うという愚かな歴史の始まりを…。
神は思いついた。
神は三つの保険を人間に向けてかける事とした。
自分ほどの実力を持った人間であり人間の身体能力を超えた長寿の存在を一つ。
滅亡を呼ぶ石を二つ。
人間たちが望むなら、これらを駆使して自滅させればよい。
自分の手は汚さない。
これが神の思惑だった。
そして、1200年あまりの月日が流れた…。
エレンディア。
市場も盛んで、軍事力も高いまさしく平和を象徴している国。
世界各国からも年号はエレン歴と称され、今はエレン歴1220年である。
その中でも富豪貴族、ルナの屋敷はエレンディア王国首都、中心部にあった。
さらさらの黒髪に赤い眼をしている容姿端麗の一人の少年は、その屋敷の中で、座学に勤しんでいた。
教鞭をふるうのはブロンドの髪が美しいロングヘアーの女性、外見としては20歳だろうか。
その女性は黒髪の少年に問いかける。
「では、宝石術の基礎からお話しましょうか、宝玉くん」
「はい、プロフェッサー」
宝玉と呼ばれた黒髪の少年は、プロフェッサーなる金髪の美女に頷く。そしてプロフェッサーは少年に問いかけた
「宝石術とはなんでしょう?」
「宝石術は、宝石などの鉱物から宝石恩恵なる力を引き出し、未知の力を扱う事です」
「正解。じゃあ、エレン歴999年から1000年にかけての問題と現在各国が抱えている問題を」
「200年前、ジュエルコンデンセート<宝石凝縮体>の演算が狂ってしまって宝石、宝石術の持つジュエルパワーが不安定になった事です。
これを1000年問題とされました」
「結果?」
「魔物が宝石恩恵の力を借り、更なる狂暴化をしましたが、エレンディア軍の功績により多少は鎮圧化されています」
「合格よ、宝玉くん」
「ですが、プロフェッサー」
「なぁに?」
「魔物ってどうやったら出来るのですか?」
「動物が紛れ込んでジュエルパワーを大量摂取して、変異体になる事が一般的には知られているわね」
「200年もの間も……」
「…では…今日の授業はおしまい。私は美知ちゃんを見に行くわ」
宝玉は、筆を置いて一息つき、お茶を飲んだ。
その美知というのは、妹の美知・ルナ。さらさらの黒髪にして美刀士を絵に描いたような人物。血は繋がっていないが、宝玉へは周りから見るに風当たりが強かった。
そもそも宝玉は養子であるのに兄という、ルナ家の跡継ぎになったのだから仕方ないだろうと、そう思うと首を横に振って雑念を取り払った。
そして、裏庭に広く建てられている道場では…
「美知ちゃん」
「はい、素振りなら千本済ませております」
「私と戦う?」
「わたくしの望みは……兄君を…」
殺意とも呪詛とも呼べる声音で美知は呟く。
しかし、プロフェッサーは遮るように口にする。
「そうはならないわ」
「なにゆえでございましょう?」
「あなたは宝玉くんが羨ましくてたまらないから」
「……鍛錬の続きを始めます」
プロフェッサーは少し難しい顔をして、ルナ夫妻に挨拶しに行く事とした。
「おお、プロフェッサー殿」
「ルドラム卿もお元気そうで何よりです。それに、エイリアス夫人も」
「私の事は放っておいて頂戴」
どうやらプロフェッサーはエイリアス・ルナに変な誤解を受けているらしい。
だが、弁明すればするほどルドラム卿との仲に誤解を与えるだけだ。
「宝玉くんの座学、美知ちゃんの鍛錬を見てきました」
そこでエイリアス夫人は、およよと泣き始めた。
「なんで私たちの実の娘がどことも知らない男より悪い待遇を受けているの!?私…私……」
そこでルドラム卿が声を荒げる。
「みっともないぞ、来たるべき時が来ないようにであろう!」
「ですが、あなた!」
付き合ってられない……そう思ったプロフェッサーは、
「まあまあ今回は、夫婦水入らずでお二人で外食にでも……」
「それはよい考えだ」
ルドラム卿は私の助け舟に乗ってくれた。
「行くだろう?エイリアス」
「は、はい…!是非ですわ!」
小さく細い息をつくと、プロフェッサーは「ではこれで」と挨拶し、頭を垂れてその場を後にした。
一方、宝玉と美知はそれを知ってか、時間をずらして別の時刻に食堂で食事を済ませる事にしていた。
「いただきます」
美知が自分を邪険にしているのは知っている。
だが、食べなくては使用人さんたちに悪い。
野菜をフォークで突き刺し、口に入れる。時々肉、パン。そんな豊かな食事だった。
「宝玉様…」
「はい、なんですか?」
「こちらもお食べ下さい」
使用人が額縁からロングソードを引き抜いて、宝玉に襲い掛かる。
……が、その刹那。
「兄君!!」
美知は覗いていたのか知らないが、圧倒的な速度でその使用人の剣を帯刀していた刀で弾いた。
「チィ!!」
「死ね…!」
そのまま心臓部に刺さったであろう刀を引き抜く為に前蹴りする美知。
動き辛そうな着物を着ておきながら相手から刀を抜き……
「次は誰が相手でございましょうね…一人で逃げ切れるはず……、……!
兄君、地下へ行きましょう。ここは目立ちます」
「だ、だけど…美知。入ってはならないって…お義父さんが…」
宝玉の言葉に美知はおおいに腹が立ち、投げ捨てるように言った。
「ならば大人しくここで引導を渡して貰うがよろしいでしょう」
「行くよ、済まない…」
「よいのです。私は兄君を守るための人形として育てられましたから」
その言葉には確実に殺意が募っていた。
そんな美知と、宝玉は地下で進む。
「これを持っていて下さい」
美知が渡したのは、赤いガーネットの宝石だった。
「優れた宝石術士ならば、すぐに使えるようになって戦力にもなります。
宝石恩恵を付与して敵へ宝石術を撃って下さい」
「でも美知、じゃあなんで逃げないで地下になんか?」
宝玉の問いは最もだ。裏庭から逃げればまず見つからない…。
同時に二人は、こげくさい臭いから屋敷に異変を感じた。
「あの賊ども、屋敷に火を放ちましたね…」
「じゃあ、地下に行くのは尚更危険なんじゃ…酸欠になるよ」
「いえ、回収するものがあります」
「……え?」
「それは、脅威なる宝石。
その宝石と、兄君を守る為に、私は生まれて来た」
To Be Continued...