第4話 襲撃
しばらく森を進むと木造の大きな建物が見えてきた。
質素な作りだがかなり広く、4人くらいなら余裕で住めそうだ。
俺達は少し離れた茂みから建物の様子を伺っている。
「クロハ、偵察頼めるか?」
俺がクロハに目を向けるとすぐに建物の方へ飛んでいった。
俺はクロハと視覚を共有し、中の様子を確認する。
入口から入ってすぐの広い部屋では男達の笑い声が響いている。
「だから言っただろ? この時間は警備が甘いって」
「さすがリーダーだぜ! そんで、あの娘はどうすんだ?」
「ある程度遊んだらあとは魔物の餌にでもすりゃいいだろ」
「ハハッ、そうだな」
本当に救いようもねー奴らだ。
周囲を確認すると部屋の奥で少女が横たわっていた。
あの子がルネか……。
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ルネ
種族:アルラウネ
rank:A
【人間の女性の形をした非常に珍しい植物の魔物】
【成長したアルラウネの攻撃は非常に強力で、自然を荒らす者には容赦しない】
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俺は視覚共有を解除し、中の様子をガロとヤンに伝える。
「入口近くの大部屋に男が4人、敵はそれで全員です。ルネも意識はないがまだ無事です」
「4人か……正面から行くのは危険そうだな……」
「俺が正面から敵を引き付けます。ガロさんとヤンはその隙に上から侵入してルネを回収して貰えませんか?」
「相手はCランクパーティだぞ、本当に大丈夫か?」
「分かっています。俺を信じてください」
「分かった……ヤンとルネは俺が必ず守るからな」
「僕も、頑張ります」
ガロ達そう言って建物の裏側へ向かった。
俺はタイミングを図り、建物の正面から突入した。
男達は驚いている様子だ。
「悪いけどその子、引き渡してくれねぇか? 俺の仲間なんだ」
「勝手に入ってきてなんだてめぇ! 殺されに来たのか?」
「いや、だからその子を……」
と言いかけた途端リーダーの男が殴りかかってきた。
流石に話が通じるわけねぇか……。
俺は男のみぞおちにカウンターをかます。
苦しそうに崩れ落ちる男に追撃しようとすると……
「〖ウォーターバレット〗」
魔導士らしき男が横から水の玉を連射してくる。
俺はアイテムボックスからクレイモアを取り出し、水の玉を弾く。
「ヘッ、かかったな! サンダ……」
「〖ファイアスピア〗」
男が〖サンダーを〗唱えるより前に俺はファイアスピアで胸を貫いた。
屋内に叫び声が響いた。
男は胸元を押さえながら床を転げ回っている。
俺を感電させようって魂胆なんだろうが……露骨すぎだ。
「たまたま当たったからって調子に乗ってんじゃねぇ!」
先程まで倒れていたリーダーの男は短剣を持って飛びかかってくる。
バカめ! 自分からクレイモアの間合いに入ってくるとは。
俺は胸元に剣を突き刺そうとするが男は空中で軌道を変え、低姿勢から切りかかってきた。
身体を捻り、なんとか致命傷は避けたが俺は横腹を貫かれてしまった。
「どうやってここまで来たのか知らねぇが俺はBランクだぜ? そこらの奴に負けるわけねーんだよ!」
Cランクパーティと言っても全員がCランクって訳じゃねーのか……,。
男は背後で軌道を変え再び斬り掛かってきた。
今度は冷静にかわし、剣を構え直す。
たしかに速ぇけど、当たらなければ消耗するだけだ。
その後も俺は連撃を捌きつつ、隙をついて攻撃を繰り返す。
「うぜぇんだよ! さっさとやられやがれ!」
男が勢いをつけて飛びかかってきた。
ついに理性が飛んだな。
俺は同時に間合いを詰め、男の腹に剣を突き刺した。
「……っ」
「自分の力を過信しすぎだ。お前が冷静に戦える奴だったら、もうちょい苦戦してたかもな。」
俺は剣を引き抜き、男が死なない様念の為〖キュア〗をかけて出血を止めた。
「おい、それ以上動いて見ろ! この娘の命はねぇぞ!」
柄の悪い男がルネに剣を突きつけている。
そう来るとは思わなかった……。
「〖ウィンドカッター〗」
──と、突然階段の上からヤンの声が聞こえた。
男の手首は突然切り刻まれ、剣を地面に落とした。
「てめぇクソガキ!」
男は激昂してヤンに近づいて行くが……。
上から現れた男から飛び蹴りを食らい、後ろの壁に激突した。
ガロだ。
ガロは倒れた男の太腿の付け根を切りつけた。
「ガハッ……痛てぇ! おい回復! 何突っ立ってやがる!」
隣に立つ男を睨む
「違……動けねぇ……」
「ホッホー!」
どうやらクロハの〖パラライズ〗で麻痺している様子だ。
「襲撃成功だ! ありがとな」
「ユリクスが引き付けてくれていたお陰だ。本当に強いんだなお前は」
「ホホ!」
取り敢えず作戦成功だな。
「ルネ!」
ヤンは階段を降りて真っ先にルネに駆け寄った。
ルネは意識は無いものの無事な様子だ。
それどころか傷一つない。
アルラウネの自然治癒力だろうか。
俺は一応ルネに〖ハイキュア〗をかけてやった。
「無事でよかったな、ヤン」
ガロはヤンの頭に手を乗せて言った。
「ガロさん、ユリクスさん、本当に……本当にありがとうございました」
ヤンは目に涙を滲ませている。
「ユリクス、その傷は大丈夫か?」
ガロは俺の横腹を見て言った。
「えぇ、大丈夫ですよ」
俺は自分に〖ハイキュア〗をかけるとすぐに傷が塞がった。
「こいつらはどうするんですか?」
「とりあえず街に運んで処罰するつもりだ。ここに来る途中に仲間を呼んでおいた。直に来るだろう」
「てめぇら、クソッぶっ殺す……」
太ももから血を流す柄の悪い男がもがいているが、麻痺している治癒士は諦めている様子、他2人は意識がないようだ。
しばらくすると、3人の警備が入ってきた
「ガロさん、おまたせしました」
「あぁ、彼らの協力のお陰だ」
「ご協力感謝致します!」
警備達は俺たちに頭を下げると慣れた手つきで倒れている男たちを縛り、そのまま荷車に強引に乗せ、街の方へ向かった。
ヤンはルネを背負い、俺達3人も街へ戻った。
「おいユリクス、今日の活躍に免じて特別に街へ入れてやる。お前の身分証もこちらで用意しておく」
「いいんですか?」
「あぁ、そこの梟が何よりの証拠だ。にしても、俺はテイマーを少し誤解してたようだ……っと、着いたな」
最初に来た時は暗くてよく分からなかったが、俺の目に広大な街が映った。
「ようこそ! 冒険者の街ナルシュへ」