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 第1話  出発

「陛下! 私、本日をもって騎士団を辞めさせていただきたいと存じます」


 俺は玉座に対して平伏している。

 玉座には我が国、アレスティナ帝国の皇帝陛下であるアウローラ様がお掛けになっている。


「面を上げよ、ユリクス。言いたいことは大体わかっている。どうせ冒険者にでもなりたいのだろう? 昔から言っていたな」


「はい……」


 俺は少し強張った顔で返事をする。



 精鋭揃いの帝国騎士団だが、その数は少なく、俺が離脱すれば無論、戦力に影響が出るだろう。

 おまけに冒険者という仕事は主に魔物を倒すことが目的である冒険者と、魔物との共存を目指している帝国ではあまり相性が良くない。

 その証拠に、帝国には冒険者ギルドというものが存在せず、冒険者が外からやってくることもほとんどない。

 俺が冒険者になることは帝国にとって少々痛手になってしまうはずだ。



「いいだろう。これからは冒険者として成長を積んでいくと良い」


 あれこれと心配していた俺を余所に、陛下は意外とあっさり許してくださり、俺はようやく顔を上げた。

 すると陛下は思いの外穏やかな表情を浮かべられていた。


「か……感謝します」


「まったく君は怖がりすぎだ、らしくない。端から君を帝国に閉じこめる気などないというのに……。

 それと、1つ忠告だが他所ではお前が帝国の人間であることは極力控えると良い」


 それについては俺もわかっている。

 人々にとって魔物は脅威であり、排除すべき対象だ。

 それらとの共存を目指す帝国の人間だと知られれば最悪、処刑されちまうんじゃねーだろうか……。

 

 まぁ、俺自身魔物と共存できたら最高だろうなと思ってはいるが、魔物を排除したいと言う気持ちも分からないこともない。


「ええ、分かっております、陛下」


 ようやく緊張がほぐれてきた

 

「フフ、それじゃあ話は終わりだ。無職になった君と違って、私は暇じゃないのでね」


 陛下は冗談交じりに言う。

 

「はい! 今まで本当にお世話になりました!」


 今度は笑顔で返事を返し、俺は玉座の間を出た。




「騎士団やめちまうんだってなぁ、ユリクス」


 廊下に出た途端、身長の高いおっさんに声をかけられた。


「バロンか……ってか聞いてたのかよ」


 バロンは俺と同じく帝国騎士段の一員であり、一番の戦友だ。


「いやぁアウローラ様の顔を拝みに来たらたまたまな」


「またかよ……。言っとくが、多分バレてんぞそれ」


「まじかよ! バレてんのに追い出されねぇってことは俺のこと気に入ってくださってんのか」


 相変わらずポジティブな奴だな……。



 アウローラ様は皇帝でありながら自らが前線に立ち、これまでの戦争で勝利に大きく貢献してきた。

 オマケに黒髪の似合う超がつくほどの美人だ。

 顔が見たくなるのは分からなくもない。



「ハハ、冗談だよ。それよりなんで冒険者になろうと思ったんだ?」


「昔からの夢だ。それに、やりたいことがやっと見つかってな」


「そうか……。まあいい、とにかく絶対に死ぬんじゃねぇぞ! お前は無駄にお人好しなとこあるからな」


 バロンはそう言って俺の背中を軽く叩く


「ご心配感謝するよ。またいつか会おうな!」


 俺はそう言ってバロンと別れた。


「ったくもう出発すんのかよ……。もうちょいゆっくりしていきゃいいのに」


 バロンは少し寂しげな表情を浮かべていた。



 バロンの話によると俺は幼い頃に森で魔物に襲われているところを帝国騎士に助けられ、保護されたらしい。

 それ以降は帝国で鍛錬を積み、騎士となった。

 だがそれより前の記憶は一切ないのだ。

 俺の「ユリクス」って名前も帝国から授かったものだしな。


 

 寂しい気持ちと共に助けてくれた騎士団に対する罪悪感が込み上げてきた。

 

 ま、今そんなこと考えても仕方ねぇよな。







「ホッホー」


 家で荷物を整理していると真っ黒な梟が俺の肩に止まった。


「お前も来てくれんのかクロハ! ありがとな」


 クロハは騎士時代の俺の主な遊び相手と同時に俺が唯一テイムしている魔物だ。

 まぁいわゆる相棒だな。



--------------------------------------------------------------------

クロハ

種族:デスオウル

rank:B

【知能が高く、状態異常で狙った獲物の動きを封じ、

〖デス〗を用いて確実に仕留める。】

【可愛いらしい見た目の反面、多くの魔力を宿しており、幾多の冒険者の命を奪っている。】

--------------------------------------------------------------------



 当時はこんなに物騒な魔物だとは思ってなかったのだが……。

 ってかこんなに可愛い魔物に即死魔法連発されるとかトラウマもんだろうな。



 俺の職業はテイマーである。

 この魔物やアイテムの情報がわかる〖ガイド〗はテイマー専用スキルだと思っていたが、どうやら持っているのは俺だけらしい。

 

 また、テイマーである俺が前衛で活躍できているのもどうやら異様な光景らしい。

 テイマーという職業は世間から弱いと言うイメージを持たれているのだ。



「俺が活躍できてたのはお前のおかげでもあるんだけどな、クロハ」


「…………」


 クロハは肩の上で静止したままだった。


 そこはなんか反応してくれよ……。



 俺は世界のことをもっと知りたい。

 それに何故帝国に拾われる前の記憶がないのか、何故俺には優れたスキルがあるのか、その辺も気になっている。

 冒険者になればその答えにも近づけるんじゃねーだろうか。



「そんじゃ行くか」

 

 荷物の整理を終え、俺は出口に向かう。



 アレスティナ帝国を出る途中、世話になった奴らや騎士団仲間達と別れを告げる。


「騎士様!」


 門を出かかった時、1人の少女が走ってきた。


 俺が辞めるって噂を聞いて駆けつけてくれたのだろうか。


「その……今まで護ってくださってありがとう!」


 少女は照れたように、しかしはっきりとした口調で言う。


「どういたしまして。わざわざ見送ってくれてありがとな」


「えへへ、どうかお気をつけて!」


 少女はそう言って手を振ってくれた。

 俺も笑顔で手を振りかえした。


 こんな子も俺を慕ってくれてたんだと思うとめちゃくちゃ嬉しい。

 帝国内で俺と親しいのバロンくらいだったからな。

 いやまぁ別にバロンが悪いわけじゃないんだけど。


 ──と、突然クロハが俺の肩を羽で叩き出した。


「あぁ、その、親しいのお前もだったな」


「ホッホー」


 俺は余韻に浸りながらようやく帝国を出た。




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