9話
岐阜に到着した俺は早速、伯父上に挨拶した。
「おお、七兵衛。ご苦労であったなぁ。食え!」
そう言って伯父上が金平糖を差し出す。
「ありがとうございます。伯父上が五郎左や明智殿を貸してくれたおかげです。」
「織田家のためなら当たり前よ。それより越前のことは考え直さなければなるまいな。」
「そうですな、経験のある……例えば林か佐久間?」
「いや、あいつらはなぁ……。」
「なら柴田のオヤジか滝川ですな。実力は指折りです。」
「いや、あれを国持ちにすると林と佐久間が不満を持ちおる。」
「ならサルか明智殿?」
「違う、そなたに任せる。」
「はっ?」
いや、俺だけじゃなくて周りに控える万見重元も久太郎も長谷川秀一も目を丸くしている。
「いやー越前だといずれ上杉謙信とぶつかるからやっぱりそこは戦上手のオヤジに任せた方が良いのではないでしょうか?」
自分でも汗が出てるのが気づいた。
絶対越前なんか支配したくねえよ。
「いやー、お前ほど戦上手で頭のいい若者はいないぞ。奇妙よりも優れておるかもしれん。」
「いやぁ……それは奇妙殿が可哀想でしょう。私は戦よりも伯父上のお側にお仕えしたいのです。」
「おお、そうか!ところで蘭奢待って欲しくないか?」
あー、天下人だけが切り取れる奴か。
「いいんじゃないですか?伯父上は既に天下人ですし。」
「おお、そうであろう。今から、関白の二条様にお願いしようと思うのじゃ。そなたも着いて参れ。」
「ははっ!で、越前はオヤジに任せるということで……。」
「いや、そなたに……。」
「殿、私も柴田殿の方が適任かと。」
「私も。」
堀久と秀一も続いてくれた。
「うーむ、お前たちが言うなら仕方あるまいな。では七兵衛にはいずれワシの本拠に近いところに2カ国やろう。」
「有り難き幸せにございます!」
2カ国かー。摂津か大和か播磨か……。どこを貰おうかなー。
「よし、では京に向かうぞ。」
俺は伯父上について行き京の二条邸に入った。
「おお、弾正忠殿。よう来てくれた。」
「二条様、ご無沙汰しております。こちらに控えるは我が甥、七兵衛にございます。」
「津田七兵衛信澄にございます。」
「弾正忠殿の御一門は奇妙殿以外は会ったことはないのう。聡明そうな方でおじゃるな。」
まさか関白様からこのようなことを言っていただけるとは……!
「恐悦至極に存じ奉りまする。」
「ほほほ、弾正忠殿が参議に就任する際に奇妙殿と共に叙任しては如何かな?」
叙任!?俺は無位無官だったぞ……。
「確かに家臣共にも任ずるのに七兵衛に官位を与えないのは不遇ですな。」
「そうであろう。従五位下ですな。」
「ありがとうございます。では阿波守にでもしましょうか。いずれこやつには四国を任せようと思うので。」
ん?俺が四国方面軍の司令官……?歴史が変わってんのか?
「承知した。ところでそれがここに来られた目的かな?」
「いえ、蘭奢待を頂きたいのですが。」
「あー、あの正倉院にあるアレか。帝にお伺いをたてておこう。」
「有り難き幸せにございます。ではどうぞよろしくお願いします。」
そう言って話は円満に終わったが俺はどうも四国という単語が引っかかったので清水山に戻って信成から貰った本を読んだ。
やはりだ……!明智殿の謀反は四国が関わってる……。
少なくともそれが原因の一つなのは間違いない……。
それから多分あの命令……。
それにしても伯父上は天正10年に死ぬってどういうことだ?
病気か?人間五十年っていつも言ってるしなぁ……。
ともかく四国を何とかしないと奇妙殿は助けられないな……。
俺は対策に頭を悩ませるのだった。