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史実編 29話

三河は徳川家康にとって故郷である。

その三河を他人に土足で荒らされることなど家康は到底許せるはずがなかった。


「姑殿!信吉がやられた!藤五郎や久太郎も討たれたって話も出てる!」


「そんな訳があるか!向こうは一万、こちらは三万だぞ!」


森長可も池田勝入もこの状況を飲み込むのにしばらくの時間を要した。

そして、徳川家康の刃が目の前に迫りつつあることに気づく。


「迎え撃つしかあるまい!敵中を突破する!皆の者つづけぃ!」


こうして池田勢と徳川勢が激突した。


その頃、信吉敗走の報せを聞いた羽柴本軍は救援のために動き始めた。

が、信澄は細川忠興と共に後詰として楽田に待機していた。


「気の毒だが恒興も勝蔵もダメかもしれん。今の俺は奴らを助けに行くことすら出来ない」


「そうは申されても羽柴様が救出に出向かれたではありませぬか。流石の徳川勢とてあの大軍には叶いませぬ」


そう忠興が言うとドシドシと足音が響き尾藤知宣と神子田正治が転がり込んできた。


「どうした?先程救援に出向いたばかりではないか」


「あのようなバケモノ……勝てるはずがございませぬ!!本多平八郎なるものに我が方の攻撃はいとも簡単につき崩され……」


「まずいことになったな。これで元助も勝蔵も確実に助からん。また幼馴染を失ってしまった」


そう言う信澄だがその事自体は知っていたので妙に塩っけがある。

それに神子田と尾藤は気づかなかったが忠興は不審そうに信澄の顔を見た。


まもなく秀吉達も帰還。

半日後には池田恒興・元助父子及び森長可の死が伝えられた。


その日の夜、羽柴本陣には再度秀吉・秀長・秀政が集まっていた。


「彼奴らには悪いがこれで面倒なヤツらがまた消えてくれた。大儀である、左衛門督」


「有り難きお言葉にございます。この堀左衛門督、羽柴様のためとあらば何でも致しまする」


「しかし兄者、日向守殿は随分と大人しかったですな。もう少し騒がれると思うておりましたが」


「ふん、日向守も自分の立場が分かったなら良いでは無いか。さて、問題は家康をどうするかじゃが……」


「某にさ……あぁ、いや特に何もございませぬ」


「ん?申されよ」


何かを言おうとして黙り込んだ秀政を見て秀長が聞くものの秀政は黙り込んだ。

翌日、諸将を集めて軍議が開かれた。


「まずは昨日、痛ましいことに池田勝入・元助、森武蔵守が討ち取られた。この事は非常に無念である。が……これは功を焦った勝入・長可両名及びそこの大馬鹿者の失態である」


秀吉の視線の先には末席にて雑に頭を丸め目を真っ赤に腫れさせた三好信吉が縮こまっている。


「では池田家と森家は改易ですかな。ああ、こうなると新しく御家老を決めねばなりませぬなぁ」


蒲生氏郷が言うと中川秀政も頷く。

この二人は信長の娘婿なのでてっきり自分たちが家老に任ぜられると思っているらしい。


「蒲生殿なら池田の代役も務まりましょう。賛成でございます」


と、浅野長吉。

この2人は随分と親しいらしい。


「お待ちくだされ!池田殿も森殿も羽柴様の為に大いに尽くされました!何卒寛大な処分をお願い致しまする。森殿に至ってはこのように遺言状も」


その長吉の横に座る尾藤知宣がそう言って森長可の遺言状を差し出す。


「うーむ、確かに覚悟は見て取れますな。森家も鬼武蔵が居なくなった以上、国衆共は分離させて許してやっては如何ですかな。池田家は家老共に所領の内半国与えて残りを輝政殿に継がせては……?」


と、羽柴秀長。

だが秀吉は不満そうだ。


「あっ、あの!恐れながら申し上げまする!!某にこの戦で勝つ策がございます!この策が成功すれば池田殿と森殿の御処分を勘弁して頂けるでしょうか!?」


そう言って出てきたのは末席で縮こまっていたはずの三好信吉である。

これには信澄を始めとした諸将も秀長も目を丸くして驚いている。


「本来なら切腹モノの失態を犯した挙句ワシに意見するか……。申してみい」


「ははっ!此度の戦は徳川家康との戦ではなく織田信雄との戦にございます!なれば徳川に対しては抑えを残し全軍を持って美濃を攻めるべきと存じまする!」


これを聞いて諸将がザワつく。

皆、信吉はアホだと思っていたがそれなりに合理的な策である。


「これは良き策ではありませぬか。某が徳川勢を引き止めますのでは……殿は伊勢の信雄めを叩きましょうぞ」


「殿、某もその策に賛成でございます」


秀政と長谷川秀一が示し合わせたかのように信吉の意見に賛同する。


「くだらぬ芝居は良い。但しその策が上手くいかなければどうなるか分かっておろうな、信吉」


「ははっ!この命など投げ捨てても構いませぬ!」


「よおし!久太郎、藤五郎に加えて細川忠興・日根野弘就は尾張に残り家康を見張れ!軍監として神子田正治をつける!残りの者は撤退するぞ!」


「ははっ!」


諸将が応え羽柴軍は撤退。

信澄たちは尾張に残されたのだった。

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