8話
今日は休日を利用して洲本城へ行って参りました。
ここから仙石秀久が四国を睨んだと思うとロマンがありますね。
一揆勢と睨み合って早三月、上杉謙信の助けもあり加賀の一向一揆の侵入を防いだ俺達だったが土橋信鏡の討死もあり下手に手を出さずにいた。
「野戦となると数で劣るこちらは不利じゃな。」
五郎左がぼやく。
「かと言って包囲できるほど兵力もありませぬぞ。」
と明智殿。
「七兵衛様。佐々成政殿、前田利家殿、金森長近殿、稲葉一鉄殿の兵七千が援軍としてこちらに向かっております。」
長頼の突然の報告に皆驚いた。
「なに!?長島は片付いたのか?」
「長島はまだ……。こちらへの援軍との事で。」
「くっ……時間をかけすぎたか!」
「口を慎め藤吉郎。数の差が埋まるなら援軍が来てくれた方が有難いであろう。」
五郎左の言う通りだ。
そもそも越前を攻める目的は一向一揆を越前に入れないためであり本来の目的は既に達成している。
「サル、そなたのところの乱波と篭城する農民のうち不満があるものを接触させ城の米倉に火をつけよ。五郎左、近くの米を全て買い取れ。」
「兵糧攻めですか……。確かに相手は数も多く兵糧は不足しているようですが……。」
「左様である、明智殿。土橋の仇じゃ。タダでは死なせぬ。」
「承知致しました。すぐに取り掛かります!」
そう言ってサルと五郎左が陣を出ていった。
頼むから上手くいってくれよ……。
3日後、援軍の到着と共に秀吉と接触した内通者が城内の米倉に放火、一気に兵糧は燃え尽きた。
「申し訳ありませぬ。我々が見張っておきながら……。」
燃え尽きた兵糧を眺める富田長繁に毛屋猪介が謝罪する。
「仕方あるまい。敵はどう出る?」
「城を包囲する動きを見せております。既に田畑は焼かれ農民共もこの城に……。」
「兵糧攻めにするつもりか……。もはや勝てまいな。」
「如何致します……?」
「耐えて耐えて耐え抜く。さすれば向こうの士気も落ちるはずよ。」
これが間違いだった。
まだ経験の浅い長繁がもしもかつて朝倉家を支えた朝倉宗滴や山崎吉家程の知恵者だったらこの状況を打破出来たかもしれない。
一月もすると食糧は底を尽き餓死者が出始めた。
「七兵衛様、投降したいという者が。」
俺は高虎からの報告を聞く。
「農民か?」
「はっ。数は100人ほど……。」
「逃がして殺せ、見せしめにしろ。」
「しかし……。」
「伯父上に恥じぬ戦をせねばならぬ。反逆者共は皆殺しじゃ。」
「ははっ、承知仕りました……。」
悪いが手を緩めるわけにはいかないんだ。
悲鳴や怒号が聞こえしばらくすると100人ほどの民が城の前に磔にされた。
「よう聞けい!投降は認めぬ!織田に敵対したことをあの世で悔いるが良い!」
高虎がそう大声でいい腕を振り下ろすと農民たちの腹を槍が突き刺した。
「殿……。」
それを眺める毛屋は富田に何か言いたそうだ。
「仕方あるまい……。これが戦よ。」
これを見て不満に思う人間が1人居た。
安吾である。
助命されて以来一乗谷でなんの不自由もなく過ごしていたこの男は織田に戻らないかを真剣に考えていた。
(ワシの所にいつ米が来なくなるか分からぬ……。ここは富田と毛屋の首を手土産に城を開場させるか……。しかし一度裏切ったものを織田様は……なら七兵衛様にお頼みすれば……。そもそも松永は2度も裏切っておる。よし、やるしかない!)
すぐに安吾は富田に不満を持つ農民を全て集めた。
「皆の者、よく聞け。富田を討ち織田に投降するぞ。それなら我らは許されよう。」
正直疲れていたので皆それに同意した。
そして翌日。
「殿、敵襲でござる!」
「なに!織田が力攻めをしてきたか!?」
「違います!農民共が……!」
「死ねぃ富田!」
農民の竹槍が富田の右胸を貫き富田は毛屋や一族諸共討ち取られた。
そして城を開城させた安吾は入城した織田の諸将を広間の上座に案内した。
「この安吾景健……。敵に潜入し首を取ってまいりました。」
安吾がそう言って敵将の首を差し出す。
裏切り者が今更何を……。
「では何故我らに報告しなかった?そもそも捕らわれたなら腹を斬るのが武士の務めであろう!」
サルが詰め寄る。
「でっ、ですから……。富田が命を助けると言うので……。」
「殿にこのことは報告しておきました。投降次第首を跳ねよと。」
長頼が冷酷に言う。
「おっ、お待ちください……!私はこのようにして……!」
「言い訳など聞きたくない。農民共と共に処刑せよ。」
見苦しい男だ。
武士なら潔く腹を斬れば良かったのに。
「農民は全員殺しますか?」
と、サルが聞いてくる。
「うむ、全員殺せ。女子供など関係ない。織田に刃を向けたもの全員じゃ。」
「ますます殿に似てきましたな。」
「丹羽様の仰る通り!それに比べて三介様と三七様は……。」
「やめよ、藤吉郎。あのお二人とて……。」
「ん、五郎左。どういうことだ?」
確かに三七(信孝)と三介(信雄)は伯父上からの評価は高くない。
しかしそれを秀吉が汲み取る程に表面的になっていたとは……。
「お二人とも、喧嘩をしているばかりで武将としての器量は……。」
「ですから殿はこの戦の暁には七兵衛様を一門の次席にと……。」
そんなアホな話があるか。
実の息子を差し置いて謀反を起こした弟の息子を次席になんて……。
「七兵衛様、殿が戦が終わり次第岐阜城へ来いと。」
援軍としてやってきた佐々成政が言う。
「分かった、直ぐに向かおう。」
俺は越前を五郎左らに任せ岐阜城に向かった。