7話
「津田様、お待ちしておりました。」
案内役の土橋信鏡と安吾景健が頭を下げる。
「出迎えご苦労。早速戦況を聞かせてもらおうか?」
「はっ。一揆勢は現在、鳥羽野城を包囲しております。私が忍ばせた者によりますと今、一揆勢では内部分裂が起きかけています。」
「土橋殿、詳しく聞かせてくだされ。」
俺よりも先に明智殿が聞く。
「鳥羽野の城主の魚住は元々一揆勢と敵対しておりませんでした。しかし富田がこれを騙し討ちに。それに農民共は不満のようです。」
「ならすぐ終わりそうですな。夜襲をかけて叩きのめしましょうぞ!」
秀吉がそう言うと他のものも頷く。
「うーむ、少し心配だがサルに任せようか。」
「いえ、これは越前で起きた問題。なれば我ら2人にお任せくだされ!」
そう言って土橋と安吾が立ち上がる。
「えっ、あー。じゃあお任せしよう。」
サルは嬉しそうだが俺としては実力がまだ測れてない人間に先鋒を任すのはなぁ……。
早速土橋と安吾は準備に取り掛かりその日の夕刻のうちに鳥羽野の南に布陣した。
「孫八郎(土橋)殿。勝てると思うか?」
「ふん!一揆勢など戦を知らぬ農民共が大半ではないか。あっという間に消し飛ばしてくれる。」
そう言って深夜に攻めかかった越前勢だが……。
「突っ込んでくるのを待っておったのだよ!鉄砲隊放てぃ!」
待ち伏せしていた富田長繁の家臣の毛屋猪介の攻撃により敗走した。
さらに……。
「逃がすな!織田の人間は皆殺しじゃぁっ!」
「まっ、待てい!ワシは朝倉の人間だ!忘れたのか!?」
「そもそもお前が左衛門督様を裏切らねばよかったのだ!」
敗走する越前勢をさらに側面から一揆勢が攻撃し土橋信鏡は討ち取られ安吾は捕まってしまった。
「孫三郎様、お久しゅうございます。」
一揆勢の本陣に連行された安吾に富田長繁は丁寧に挨拶をし縄を解く。
「なぜ織田を攻める……。織田が天下を取ると分からないのか!?」
「普通に考えてみてくだされ。何故孫八郎様でも孫三郎様でもなく桂田なのです?連中は朝倉を軽視しております。」
「それが時の流れなのだ!仕方あるまい!」
「いえ、私は抗います!この戦に勝利した暁には孫三郎様を越前の国守に……。」
と言った感じであっさりと言いくるめられて安吾は敵側になってしまった。
「はぁー?なんでそうなる?」
「どうやら敵を甘く見ていたようですな。我らは富田長繁について何も知りませぬ。」
五郎左の言う通りだ。
富田長繁ってどんな奴だ?
調子乗って一向一揆に殺され……。
あっ!一向一揆どうするんだ!?
魚住が討たれたってことはそろそろ……。
「まずいぞ、加賀の一向一揆が攻めてくるぞ。」
「では加賀を上杉に攻めてもらえば良いのでは?」
「明智様、そんな簡単に上杉が動くとは……。」
サルの言う通りだ。あの上杉がそんな簡単に……。
「しかし救援要請を受けて攻めないのは謙信の道に反するでしょうな。」
五郎左が笑いながら言う。
やはりこいつは裏で色々考えている。
「確かに義によってなんちゃらとか言ってそうだな。よし、すぐに上杉に使者を出そう!」
1週間後、越後春日山城。
「お目通りが願い恐悦至極に存じ奉りまする。津田七兵衛が家臣、藤堂与右衛門高虎にござる。」
「わざわざご苦労。余が上杉弾正謙信である。」
高虎はその風貌に後ずさりすらした。
雰囲気は覇者の風格なのだが見た目は女のような顔なのだ。
それが高虎には不気味でしかなかった。
「ははっ!我が主、津田七兵衛より言付けを預かってまいりました。」
高虎がそう言って書状を差し出す。
「ふむ……。加賀に兵を出せか?」
謙信は書状を見ずに聞く。
「ははっ。左様にございます。越前を早くに平穏にするためには加賀の一向一揆が動けぬようにしないと……。」
「しかしそれで余になんの得がある?」
「……。」
「余は私利私欲の戦をしないと申すものもおるがそれは間違いである。そのような戯言はこの戦の世では通じぬぞ?」
「それは……分かっております。しかし上杉様と当家は固い絆で結ばれており……。」
「そもそもそなたらが一向一揆と対立するのは知らぬが余は一向一揆との講和を考えておる。連中は戦は弱いが断続的な攻撃を繰り出してくる。」
「越中と加賀の国境付近に半年ほど兵を頂いておくだけで構いませぬ。どうか、どうか我ら織田家にお力をお貸しくださいませ!」
「ふふふふ、はっはっはっはっ。織田の者がそこまで頭を下げるほどに一向一揆は恐ろしいか?よかろう、余が力を貸そう!」
「まっ、誠にございますか!?」
「うむ。すぐに兵を出すように命じておく。七兵衛殿に伝えておけ、そなたは良い家臣を持ったとな。」
高虎がその報告を持って帰ってきた時には上杉勢は既に越中に布陣していた。
これにより一向一揆はなかなか動けず農民たちは路頭に迷う事になった。
「おい、どうするだ?加賀の坊様たちは来れないらしいぞ?」
「しかし富田の野郎……関係ない人間まで巻き込みやがる。それに自分が越前の国主になるつもりらしいぜ。」
「それじゃあ何も変わらねえ。俺たちが国を支配するんだ!」
「でも誰が棟梁になるんだ?朝倉の連中じゃあダメだ。」
「ならいっそ、織田の家来にやってもらった方がいいんじゃねえか?」
「馬鹿言え。許されるわけが無い。」
「だから富田と安吾の首を持ってくだよ。」
「なるほど……そいつぁおもしれえ。」
という感じで夜な夜な農民たちは今後の対策を考えていくのだった。