6話
「伯父上!すぐに援軍を出すべきでございます!」
すぐに俺は越前救援の兵を送るように進言した。
「しかし今は武田が美濃に手を出してきておる。兵を出す訳には行かぬ。」
「なんと弱腰な!ただでさえ守護代の桂田が討たれたというのにこのまま土橋や安吾も見捨てるおつもりか!」
「あの、七兵衛殿……。」
義父上が止めようとするがダメだ。
こんなんだから本願寺ごときに舐められるんだ。
「伯父上がいかないなら俺だけでやります!加賀の本願寺が攻めて来る前に早々に始末しておくべきです!」
そう、ここが問題なのだ。
今はまだ朝倉旧臣の富田長繁らの土一揆なのだがここから加賀の一向一揆が攻めてくる。
そこがめんどくさいのだ。
「良いか、その前に長島の一向一揆を殲滅せねばならぬのだ。」
「それは尾張、大和、伊勢の兵を使えば良いでしょう。若狭と近江の兵だけでもどうか……!」
「殿、私も七兵衛様の意見に賛成です。せっかく取った越前を取られては諸大名も織田家を嘲笑うでしょう。」
そう進言したのは側近の長谷川秀一だ。
「私も藤五郎に同じく。」
堀久も続く。
「お主らがそこまで言うなら仕方あるまいな。若狭の五郎左、長浜のサル、坂本の十兵衛を付けよう。他にも必要なものがあればいつでも申せ。」
「ははっ!有り難き幸せにございます!」
俺が総大将……なのか?
「ところで某が総大将を務めても良いのですか?まだ初陣から1年経ってませんが。」
「はぁ?お前誰かに任せるつもりだったのか。三十郎は伊勢方面におるし三七も三介もお前より餓鬼だからな。」
「じゃあ……。」
「お前がやれ。奇妙は長島に連れて行く。」
くっそーー。俺が大将なんてなんかなぁ。
そう思いながら俺は伯父上に頭を下げ清水山に戻り戦の準備を始めた。
「此度はワシも出陣致しますぞ。七兵衛殿をしっかりと補佐致すゆえご安心くだされ。」
「ありがとうございます、義父上。姉川の戦いのように一揆勢を粉砕してくだされ。」
「お任せくだされ!」
こういう時、義父上ほど頼もしい存在はない。
普段は中年のおっさんだが戦となれば鬼神のごとく戦うのだろう。
そう思いながら俺は最前線の若狭後勢山城に到着した。
「七兵衛様、お待ちしておりましたぞ。」
「五郎左、出迎えご苦労。」
五郎左こと丹羽長秀。織田家随一の智将で伯父上からの信頼も厚い。
「サルと明智殿は既に?」
「いや、明智殿は来ているが藤吉郎は来ておりませぬ。」
ちなみになんで明智殿だけ殿呼びなのかというと一応元幕臣で将来の舅なので殿呼びで呼んでる。
「またあいつは……。兵はどれくらい集まった?」
「七兵衛様の二千、我らの四千、藤吉郎の五千、明智殿の三千で合わせて一万四千。それに越前の土橋と安吾が合わせて五千、合計で二万弱ですな。」
「案外集まったな。一揆勢はどんくらいだ?」
「私から報告致します。富田長繁率いる一揆勢は三万。しかしこれからどんどん増えていくよしにございます。」
「おお、明智殿。それにしても明智殿と五郎左が居れば百人力だな。」
「滅相にもない。私など丹羽殿の足元にも及びませぬ。」
「ご謙遜を。公方様が絶大な信頼を寄せる明智殿と私など比べ物にもなりませぬ。ハッハッハ。」
こいつら仲良いのか?どっちも目は笑ってないけど。
「いやー、皆様お待たせ致しました!羽柴秀吉、只今参上仕りました!」
そう言って秀吉がやってきた。
「遅いぞ藤吉郎!七兵衛様の方が先につかれておる!」
五郎左がサルを叱責する。
「これは五郎左様、申し訳ございませぬ。このような大軍を率いるのは苦手でしてな。」
黙れ……お前大返しとか言うので三万の兵をとんでもない速さで動かしたんだろ……。
「まあ構わんよ。その代わりに先鋒はサルに任せるから。」
「えーっ!三万相手にワシの五千とはまたまた七兵衛様も恐ろしいことを申される。」
「いや、冗談じゃないから。」
「はっはっはっ。七兵衛様は殿にそっくりですな。」
そう言って明智殿が笑うと皆も笑う。
なんでこれが謀反に至るんだ……?
そう考えれば俺はなんで明智殿が謀反に及んだか分からない。
本来であれば婿である俺がそれにもっと早く気づくべきだったんじゃないか……?
って考えてる時じゃねえな。
未来を知ってるなら防ぐ方法は何個だってある。
「そういえば目付けは誰なんです?」
五郎左が聞く。
そういや誰か聞いてねえな。
来てからのお楽しみってやつか?
「私ですよ。」
そう言ってやってきたのは菅谷長頼だった。
「おお、九郎右衛門か!殿の1番の側近ではないか。」
サルが嬉しそうに言う。
「いずれ殿は北陸の目付けを私にやらせてくださるそうなのでその試験として。」
「そうか、しっかりと我らの功績を殿に報告してくれよ。じゃあ全軍出陣!」
越前救援軍一万四千が若狭から出陣した。