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史実編 3話

6月12日、軍議が開かれた。


「我らは山崎にて明智殿を倒す。おそらくは町戦じゃ。」


秀吉が地図を指して言う。


「山崎……その北の山の天王山と中央の円明寺川が肝になりそうですな。」


と堀秀政。


「うむ、まずは今日の夜に山崎に入り周辺拠点の制圧、そして明智殿を誘き出す罠を仕掛けたい。その役目は……。」


「俺に任せてください。愚かな義父をこの手で叩きとうございます!」


「我らはこの当たりの地形に詳しい。ワシと右近が津田様をご案内しましょう。」


と中川清秀が言うと高山右近も強く唸づく。


「さすれば先鋒は御三方に任せよう。さて、何をするかじゃが官兵衛よ。」


「はっ。まず津田様と中川殿と高山殿は周辺の集落を制圧しそこに毛利と宇喜多の旗印を設置して頂きたい。天王山には私の手勢を向かわせます。」


「毛利と宇喜多だと……?一体何を考えておる。」


不機嫌そうな声で信孝が聞く。


「毛利と宇喜多が我らの味方だと思わせるのです。さすれば明智方は中国における挟撃作戦が失敗したと分かり士気は著しく下がるでしょう。」


「ちょ、ちょっと待……。」


「承知致した!」


信孝が何か言おうとしたところを信澄がかき消した。

それに続くように高山中川両名も答える。


「明日には右翼に池田様、中央は津田様ら摂津の方々が、天王山は私と小一郎殿が入ります。中央の後方には堀様、その後ろに羽柴様の本軍。そして後詰として神戸様と丹羽様に入って頂きたい。」


「ワシらは後詰というのか……?」


「はい、神戸様。そもそも神戸様と丹羽様の軍勢は兵が散り散りになり士気は下がり僅か四千しか残っておりませぬ。それ故に神戸様を危険な目に合わせたくは無いと考えました。」


「なるほど、良きご配慮じゃ。」


と池田恒興と蜂屋頼隆。


「承知した……。」


官兵衛は信孝に対して裏を返せば総大将でありながら一万五千の兵をまとめきれなかった信孝など戦力外に等しいから外から見ておけという意味なのだが信孝は理解していないようだった。


「丹羽殿、どうか神戸様の事をお願い致す。」


「うっ、うむ。任せておけ筑前。」


唐突に様から殿に呼び方が変わったことに少し驚きながらも丹羽長秀が答えた。

彼は官兵衛の皮肉は理解していたがあくまで無駄な争いを産まないためにスルーしていた。


「この戦、必ず光秀の首を上げ上様と中将様の仇を討ちましょうぞ!」


「おうッ!」


秀吉が言うと一同もそれに答えた。

そしてその日の夜、信澄の三千、中川清秀の二千、高山右近の千五百に秀吉麾下の五百の合計七千の軍勢が山崎まで進撃した。


「やはり明智方は気づいておりませぬ。」


「うむ、偵察ご苦労高山殿。中川殿の方は?」


「はっ。既に周辺の村落は制圧致しました。住民はほとんど逃げております。」


「分かった。もし住民が居たとしても丁重に扱うように。羽柴殿のご命令である。」


「承知致しました。」


2人が頭を下げると堀田秀勝が入ってきた。


「宇喜多と毛利の旗印500本の設置、完了致しました。」


「よし、今回の戦は俺たちの働きにかかっているし羽柴殿もそれを期待しておる。今日は警戒の兵を残して暫し休め。明日の戦で疲れて倒れてしまっては元も子もならん。」


「ははっ!」


こうしてその日の夜が明けた。

そして翌日、明智軍は騒然としていた。


「殿!一大事にございます!あれをご覧くだされ!」


光秀側近の藤田行政が天王山の方を指さす。


「あれは羽柴の旗印か……。流石は羽柴殿、早速天王山を制したか。」


光秀は感心しながら言う。


「感心している場合ではございませぬ。一度撤退し……。」


「ならぬ。都に羽柴殿を入れてはならぬ。それにここ山崎は南東は沼地でかなり狭い地形だ。これを活かせば二分の一程度の兵力の我らでも勝つことが可能だ。良いか、この戦は先に仕掛けた方の負け!必ず羽柴殿は動く。それまでは何としても待つのだ!」


光秀は現状維持を徹底させた。

それは羽柴軍とて同じである。


「承知した。直ちに全軍に命令致しましょう。」


「我が殿は此度の津田様の槍働きにご期待されております。どうぞ抜かりなく。」


と、よく分からん羽柴の若造(将来の加藤清正と分かるのはまだまだ先の話)に軽くとはいえ頭を下げる信澄に堀田はかなり不気味さを感じた。


「あの、ご無礼を承知で申し上げますが明智の乱以降の殿はどこか変わったようにお見受け致します。以前の殿は一言で言えば虎のように過激なお方でした。しかし今の殿は腰が低すぎます。」


「今はこうしておかねばならんのだ。三七は俺を排除したいだろうし羽柴も丹羽ももし俺が必要ないと分かればすぐに切り捨てるぞ。」


「排除って……殿は仮にも上様の弟君のご嫡男。そのような事は……。」


「いつまで織田の世が続くと思っておる。だがサルだろうが五郎左だろうがオヤジだろうが未だ俺の力は有効だろう。だが織田家の内での揉め事が終われば俺は必要無くなる。だから今は出来るだけ刺激しないように大人しくしておくのだ。」


「なるほど、そこまで予想されておられましたか。いやいや、さすがは殿でございます。」


「これくらい予想出来ぬとこれからの時代は生きてはいけぬ。さて、何人が10年後まで今の立場を維持できているかな。」


信澄は後ろにたなびく織田家の家臣たちの旗印を見てニヤリと笑った。

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