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50話

外征……その言葉を聞いた時俺は最悪の可能性を想像した。

成功したら良いが失敗したらどうなる?

戦続きで諸大名は疲れている。

それこそ秀吉辺りが謀反を起こす可能性がある。

そうなった時、織田家の天下は終わりだ。

俺が生き返った意味が無い。

何としても外征を防がねばならない……。


でもどうやって防ぐ?

いっそ直談判するか?

しかし2カ国を与えられた上で真実か分からないことを聞くのもなぁ。

そう思いながら俺は大坂城へ戻った。

それからは平和な日々が続いた。

しかしその間にも宿老はどんどんと病に倒れていった。

正月に河尻秀隆が、春に勝左と村井貞勝が、夏に滝川が亡くなった。

これが世代交代なのかは分からないがあまりにも勢いが早すぎるゆえ皆驚いてしまっている。


「いやー、まさかあっという間に尾張時代からの同僚達が居なくなってしまうとは寂しいものですなぁ。」


大坂城の茶室にてサルが茶を立てながら言う。


「あと残ってるのはお前と蜂屋くらいか?」


「そうですなぁ。あとは誰か……誰もおりませんな。」


「ん、よく考えたら又左とか内蔵助がいるじゃないか。」


「ああ、忘れとりましたわ。やはり年のようですな。」


人間50年の時代だ。

猿とて老人なのだ。


「それよりも近頃、中国はどうなのだ?」


「いやー、毛利が思ったより素直です助かりますわ。長宗我部も大友も大人しくしとります。」


「本来なら俺が管理するべきところをすまないな。せめて飛び地に代官でも置ければ良いのだが。」


「いやいや、七兵衛様がご無理をするほどのことにゃあございませぬ。実は丹羽家の長束正家というのが若いのですがかなり優秀でしてな。いつも助けて貰っとるのですわ。」


そんなふうに世間話をしていると源次郎がやって来た。


「殿、羽柴様。上様から至急安土に集まるようにとの触れにございます。」


俺はこの時点でとても嫌な予感がした。

安土城の本丸には俺とサルと上様しかいなかった。

俺たちが座ったのを確認すると上様は1枚の地図を広げた。

そこに描かれるのは朝鮮の地図。

やはり……。


「2人ともよく来てくれた。元よりワシは己の威光を世界に広めたいと考えていた。そしてその足がかりになれと朝鮮に使者を送ったがそれを連中は拒否しおった!それゆえ朝鮮を叩きのめす!」


「なりませぬ!何としてもなりませぬ!」


速攻で俺は拒否した。


「何故じゃ!あのような小国が我らにデカい態度を取っていること、我慢ならん!」


「しかし外征など無謀にございます!第一兵站はどうするおつもりですか!」


「おう、それだがな。そなたの所の石田三成と丹羽のところの長束正家を使おうと思う。」


は?これって史実通りじゃないか?


「まずはその拠点となる城を肥前当たりに立てる。縄張りは筑前に任せるぞ。」


「……ははっ。」


不満そうにサルが頭を下げる。

やはり外征は反対なのか。


「総大将は少将に任せる。勝蔵と平八を先鋒とし一気に朝鮮を叩き潰せ!」


まさかそこまで見据えて武断派の2人を肥前に……。

どうやら俺が想定するかなり前から唐入りを上様は考えていたようだ。


「ともかくざっとこんなもんじゃ。今回の戦はそなたら2人にかかっておる。しくじるなよ!」


「ははっ。」


クソっ!明智殿の遺言を守らねばならん。

そのためにはどうするべきか……。

ともかくサルに相談することにした。


「今はただ従うしかありませぬ。されどいずれ上様のお考えが変わるかもしれませぬ。それまで待ちましょうぞ……。」


「やはりそうするしかないか。このままでは天下は必ず乱れる。何としても防ぐぞ。」


俺がそう言うとサルも力強く頷いた。


しかしそこから話しはかなり早く進んだ。

サルは肥前に名護屋城たる巨大な城を築き軍の編成や動員兵力まで一斉に触れが飛び西国の諸大名はそれに従い兵を揃えた。

そして翌年の正月には第1陣が出陣することまで決まってしまったのだ。

冬には勝蔵と平八は対馬に入り上様と俺も出馬することになった。


それが決定したあと、俺は再度サルと相談し犬千代、内蔵助、蜂屋を呼び出した。


「さて、皆に集まって頂いたのは他でもない。織田家の今後のことである。」


俺がそう切り出すと全員が察したようである。


「このままでは間違いなく天下は乱れる。そこで何か良い案があれば教えて欲しい。」


サルが言うと皆黙り込む。

しかし全員考えることは恐らく同じだ。


「上様を討つ……。」


誰かの声が聞こえた。


「ちっ、血迷ったか!我ら織田家があったのは信長様のおかげ!そのご嫡男たる上様を討つなど!」


又左がそう怒鳴るが他の者は黙り込んでいる。

いや、又左も分かっているだろう。

それしか方法は無いと。


「しかし近頃の上様は朝廷も無下にされ全てのことを側近や我らに相談せず自分で決められている……。公家の内にも上様への不満が溢れていると聞くが……。」


内蔵助が言う。


「帝はどうお思いか、確認しては?それで帝のお答え次第によって決めるというのは。」


とサル。


「そもそも我ら老臣だけで決めて良いのだろうか?まずは堀久達と協議した上で隠居を進めるというのはどうなのだ?」


又左はまだ嫌そうだった。

やはり主君を討ち取るというのはまずいか……。


「しかし上様が名護屋に行かれる前にケリをつけねばならん。ともかく帝や関白の近衛様には俺から相談する。サルは上様の今後の動向を。残りの3人は名護屋にて諸将の混乱を抑えてくれ。」


「承知致しました。」


猿が言うと蜂屋と内蔵助も頷く。

しかし又左は首を縦に振らない。


「又左、気持ちはわかるがこれは御恩だけで解決する話ではない。分かるだろう?」


「……。承知致しました。ならば七兵衛様に反抗する者が現れれば私が先陣を切ってそれを討ち取りましょう。」


「うむ。任せたぞ。」


ともかく4人と別れた俺は翌日、細川藤孝に頼み込んで内裏に上がることに成功した。

聞くところによれば近頃、上様は帝に譲位を何度も要求しておりもしかすると幼い親王を帝にすることで朝廷を意のままに操りたいのかもしれない。

それを危惧しているのがかつて伯父上と親しくしており現関白の近衛信尹様の父である近衛前久様である。

俺も何度かお目にかかったことがあるので近衛様が出迎えてくれた。


「久しいな、大坂少将殿。」


「近衛様もお元気そうでなによりにございます。早速帝にお話したいことがあるのですが……。」


「右府の外征のことか?今内裏もその話題で持ちきりじゃ。」


「流石近衛様にございます。ともかく話は中で。」


「うむ、ついて参れ。」


俺とて単独で帝に会うのは初めてだ。

身体を震わせながら帝のいる間に入り平伏する。


「津田左近衛少将にございます。此度はお上にお目通りかない恐悦至極にございます。」


「うむ、苦しゅうない。ほれ、近こう近こう。そなたは明智日向守の娘を妻にしておったな。」


「はっ。明智殿には未だ足元にも及びませぬが……。」


「さしずめそなたがここに来たのは外征を止める勅命を出すようにということであろう?しかしそれでは間に合わぬし右府は言うことを聞かぬ。」


「……!しかしそれではッ!!」


「近衛、そなたの孫娘を右府の嫡男の妻とせよ。そして少将はそれを補佐するのじゃ。」


「つまりお上は右府を討つべしと?」


近衛様が聞く。


「それは本人次第じゃ。近衛よ、直ぐに公家を集めて右府弾劾の書を書くのじゃ。少将はそれを持ち右府に命じよ。隠居して政から手を引けと。」


「ははっ。承知致しました。」


「それで断った時は、そなたら武士の好むやり方でやれば良い。」


「承知致しました。」


俺は深々と頭を下げる。

帝は穏やかそうな声とは裏腹にどうやら恐ろしいお方のようだ。

そのまま俺は姿勢をただし部屋を出ようとする。


「少将よ、まもなく麒麟が来るぞ。」


麒麟……明智殿がよく申されていた伝説の生き物か……。


「ははっ。必ずや麒麟を呼んで見せましょう。」


そう言って俺は内裏を後にした。

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