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36話

信成の言っていた通りに伯父上は本当に倒れてしまい三日たっても目覚めない。

殿は混乱を抑えるために隠そうとしたのだがそれが裏目に出て信長暗殺という噂が畿内に流れた。

医者の曲直瀬道三曰く頭に血が詰まっているそうで目覚めるかは五分五分のようだ。

この信長暗殺の噂は関東や九州にも流れた。

それまで従属の姿勢を示していた北条家は5万もの大軍を率いて上野の滝川に襲い掛かり薩摩の島津家は毛利家と同盟し織田家と毛利家を挟撃する予定だった大友家に攻めかかった。

長宗我部元親は四国における支配を固め甲信では大規模な一揆が発生し河尻や勝蔵らは這う這うの体で美濃へ撤退。

最悪なことにそこに徳川家康が侵入し甲信を支配してしまったのである。


「おいおい、どうすんだよこれ。」


報告を受けた俺は頭を抱えてしまった。


「殿、茶を持ってまいりました。」


そんな俺の元にやってきたなは安房守の息子の源次郎だ。

人質として俺の小姓になっている。


「ああ。そこに置いてくれ。」


「私の父はどうなりました?」


「北条と上杉に挟まれてかなり大変なようだ。上野の滝川は伊勢に撤退し甲信から織田は完全に締め出された。さらに足利義昭が北条と徳川に織田家討伐すら命じているらしい。」


「徳川家は動くでしょうか?」


「いや、今は動かんだろうがこちらが油断したらまた暴れるに違いない。とはいえ今の織田家に徳川家に甲信を返せと言う力はない。」


「ではどうすれば……。」


「まずは上杉を叩く。毛利、長宗我部、上杉で叩くのが1番楽なのは上杉だ。その次に二方面作戦で毛利と長宗我部を叩き徳川に織田家はまだ健在と示す。それで背後を安全にしたら九州に攻め込む。これが王道の道だろうな。」


「しかし上手くいくのですか?」


「そこだ。まず毛利と長宗我部にはそれなりに譲歩する必要がある。今の俺たちでは滅ぼすまで追い込むのは不可能だ。問題はそれを殿が認める可能性は極めて低い!」


「頑固な方だと父から聞きました。」


「そうだ、だから困っている。伯父上が倒れられた今あの方は誰も止められん。」


「そうですか……。もし父が裏切ったとなったら私は……。」


「安心しろ。俺が必ず守ってやる。安房守との約束だ。」


「しかし私のため阿波守様にご迷惑がかかるのは……。」


「良いんだ。馬鹿げた理由で若い蕾が狩られるこの世がおかしいんだ。」


伯父上が倒れて以降俺は織田家を守るというのもそうだが戦を無くしたいと思うようになってきた。

それが伯父上の目指した日ノ本であり全ての人の望みだろう。

しかしそれを言ったところで大名は言うことを聞かない。

そしてその原因が誰なのか俺ははっきりと分かっていた。


「殿、少しよろしいですか?」


安土城に入った俺はその原因を報告するために殿の所に行った。


「なんだ、また手緩いことを言うのでは無いだろうな?」


「いえ、私なりにこの謀反を手引きした人物を調べておきました。その結果、ある人物が深く関与していることがわかりました。」


「ほう、申してみよ。」


「足利幕府15代将軍、足利義昭です。」


うん、やっぱ驚いてないね。

薄々殿も勘づいてたんだろう。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

では本当にそうなのかと言うとまずは毛利家を見てみよう。

信長が倒れ1週間後、備後鞆に拠点を構える足利義昭に備中高松城で羽柴秀吉と睨み合っていた毛利家の当主輝元は呼び出された。重要な事なので叔父の吉川元春と小早川隆景も連れてこいとの命令だったため全軍の指揮は歳の近い叔父の穂井田元清に任せ3人は僅かな供回りを連れて鞆に入った。


「公方様、お久しぶりでございます。」


居候の身とはいえ相手は将軍。

3人は畏まって頭を下げる。


「ご苦労。世間話のひとつでもしたいところだがそれどころでは無い。信長が暗殺されたそうじゃ。」


「なっ!」


3人に激震が走る。


「今までのツケが回ってきたか!今こそ復讐の時!叩きのめすぞ!」


反織田筆頭の吉川元春がそう言うが2人は乗り気ではない。


「ご無礼を承知でお聞き致しますがそれは誠なのですか?」


「よう聞いてくれた小早川。ワシと親しい公家によれば1週間前まで普通に顔を出しておった信長が急に姿を表さなくなったのだ。しかも信長の宿所に曲直瀬道三が入っていくのが見えた。恐らくかなりの深手をおったのだろう。」


浅はかだ……!

毛利輝元は内心そう思った。

彼は例えば2人の叔父や先日同盟した長宗我部元親、これから同盟することになる島津四兄弟に比べれば将としての質は落ちる。しかしそれは彼らと比べたからであって無能でもないしむしろ標準よりは上だ。

そもそも毛利家は家訓として天下を狙わず中国を守るというものがあるため将軍が京に戻るなどどうでも良いのだ。


「早速島津と長宗我部と北条、それに徳川にも文を送った。」


「島津……?」


「左様、島津に大友の背後を突かせそなたらの背後を安定させるのじゃ。そなたら毛利と長宗我部が西より、北条と徳川が東より織田を攻めこれを叩き潰す。どうじゃ?」


まだ足利幕府恩顧の北条と島津は分かるが長宗我部と徳川は下克上で成り上がってきた勢力だ。

そこまで簡単に動くはずがない。

輝元はイライラを抑えられなかった。


「確かに包囲網を築けば織田を追い詰められるやもしれませぬ。信長はともかく息子の岐阜中将に信長ほどの力は無いかと……。」


「小早川!?」


自分と同じ考えだと思っていた叔父のまさかの言葉に輝元は驚いた。


「おお、隆景やっとわかってくれたか!どうだ、輝元。お前はどうする!?」


元春に詰め寄られて輝元はビビってしまった。

昔から輝元は叔父2人を恐れていた。


「はっ、はぁ……。お2人がそう言うのなら仕方ありませんなぁ。」


「よし、よう言うたぞ毛利!早速信長包囲網を作り上げようぞ!」


こうして毛利家はまたもや当主ではなく先代の弟二人の裁定で織田家に敵対することになった。

それから2日後、阿波白地城では。


「皆聞いてくれ。公方様より書状が届いた。」


「どうせ上洛を手伝えというのことでしょ?」


書状を見せる元親に息子の信親は怪訝そうに言う。


「そうだ、もちろん我らは足利様より織田様の方が好きだ。」


「でも織田に勘違いされてるぞ。」


元親の幼なじみで潮江城主の森孝頼が言う。


「左様、我らの目的は四国を支配すること。そのうえで天下の主が誰になろうと別に知ったことではない。だが織田様よりに勘違いされたままなのは心外だ。」


「じゃあどうするんだよ……。」


「まあ焦るな孝頼。まずは情報収集だ。既に忍や家臣を送り込んで探らせているがまだどうなるか分からぬ。しかし戦になる可能性は考えておいてくれ。」


「戦で勝てる見込みがあるのか?」


「森殿!」


マイナス発言をする孝頼を信親は睨みつける。


「私の予想だが織田は阿波と讃岐の両方に毛利攻めと同じ時に攻め込んでくる。」


元親が地図に駒を配置して言う。


「まず織田家の西国担当で厄介なのは明智殿とその婿、羽柴筑前守。そのうち羽柴筑前守は中国担当ゆえ攻めては来ないだろう。となると明智殿だが向こうとて我らの動員力くらい調べてくるだろう。となると明智殿とその与力は本軍となり恐らく阿波に攻め込んでくる。となると讃岐の担当は?」


「そりゃあ一族の誰か……あっ!」


信親も全てを理解したようだ。


「そうだ、戦いに勝つのではない。外交で勝つのだ。」


元親は不敵な笑みを浮かべながら言った。


同じ頃、上杉家と北条家にも報せが入った。

足利義昭からの使者はまだである。

北条はほぼ史実通りに動き上杉は柴田勝家と新発田重家の挟撃でほぼ虫の息である。

その1ヶ月後、浜松城の徳川家康の元に足利義昭の使者が訪れた。


「織田家を討てだと……?」


真っ先に口を開いたのは筆頭家老の石川数正だ。


「馬鹿げたことを言いおる。我が殿と織田様は深い絆で結ばれておる。それは上様が亡くなられでも同じじゃ。」


「石川様の申される通り。我らは織田家と共に天下を取る所存でござる。」


榊原康政が言うと本多忠勝らも続く。


「それは口約束では?織田家としては本拠のすぐ隣に徳川様のような大大名がいるのは不安だしかないですぞ。信康君のことがあるでしょう?」


「きっ、きさま!無礼な!」


井伊直政が刀に手をかける。

家康の嫡男の信康は難癖をつけられて信長に自害させられている。

イライラする徳川家臣団を他所に家康は黙っている。


「ともかく、お引き取り願おう。我らは我らのやり方があるのだ。」


酒井忠次がそう言うと使者は仕方なく帰っていった。

しかし家康の顔には曇りが見えていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] それなりに有能説もあるのに完全にとばっちりで従兄弟に殺された、悲劇の人。 死亡フラグ満載の津田信澄が主人公ってのがいいですね! 史実でも一門の席次はあり得ない程優遇されているポジションなの…
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