22話
見たいエンドは本能寺エンドor天下統一エンド
どちらですか
清水山城 藤堂高虎
急に殿に呼び出された。
ココ最近は長篠で手に入れた大太刀を振り鍛錬していたので城に登るのは久しぶりだ。
もちろん、久しぶりに見た殿は元気そうで安心した。
「藤堂与右衛門、ただいま参りました。」
「おっすおっす、最近はますます鍛錬に励んでいるようだな。」
殿は喋りが軽い。
どこか親しみやすくもあるがそれ以上に戦の時に見せる顔の方がよっぽど尊敬できる。
「いやー、実はさぁ。本願寺が挙兵して厄介なことになってんだよ。それで一応畿内の諸将に動員かかって俺のところからも兵を出さなきゃいけないんだけどさ。俺、今休暇中だからお前に任せるよ。」
「はっ!?」
唐突の津田軍大将の指名。
全く、この方は何を考えているんだ……。
「いやいや、ここは譜代の誰かに……。」
「譜代はさぁ、浅井の旧臣だから正直信用ならないんだよね。しかも大将って言っても原田の指揮下に入るから特に問題ないよ。」
原田様か……。柴田様や憎き羽柴秀吉に比べたらよっぽどいいな。
「あいつはさぁ、真面目すぎて周りが見えなくなる時がある。だからそこでお前があいつを助けてやって欲しいわけ。」
「しっ、しかし俺ごときにそれが務まるでしょうか?」
「務まるさ。それで俺の予想した本願寺側の攻撃なんだけど。」
殿が地図を広げて説明を始める。
なるほど、確かにこれは向こうがして来そうだ。
「じゃあ、任せたぞ。原田を助けてやってくれ。」
「ははっ!」
翌日、俺は千五百の兵を率いて織田軍の集まる河内若江城に到着した。
「原田様、阿波守様のご命令で与力となることになりました、藤堂与右衛門でございます。」
「おお、大太刀の使い手の藤堂殿か。貴殿がいると頼もしい。よろしく頼むぞ。」
原田様は俺を歓迎してくれた。
他に集まっているのは佐久間様、明智様、細川様、荒木様、蜂屋様辺りか。
俺が末席に座ると原田様が話し始めた。
「各々、此度の我らの目的はただ一つ。本願寺を落とすこと。それに関し上様より命令を預かっている。1つ、本願寺周辺の麦を狩り取る事、
1つ、一般のものは許すので寺を出よとの立て札を立てる事、1つ、坊主は皆殺しにすること。」
「なるほど、今までとは違う攻め方をするわけですな。」
荒木様が感心したように言う。
「荒木殿は北、明智殿と細川殿は南東、私と蜂屋殿が南に砦をそれぞれ建て包囲網を形成する。他の方々は佐久間殿の指揮の元、周辺を完全に封鎖して欲しい。」
兵糧攻めか……。本願寺側は一万とも二万とも言われる大軍、一溜りもないだろうな。
「それでは一同、抜かりなく。」
原田様がそう言って軍議を終えると早速、明智様と細川様が準備を始めた。
さすがは室町幕府にも重用されたお2人。
仕事が早い。
「おお、貴殿が七兵衛様の右腕の藤堂殿か。ワシは蜂屋兵庫頭。以降お見知り置きを。」
そう言って蜂屋様が丁寧な挨拶をしてきた。
俺は畏まって頭を下げる。
「ははっ!蜂屋様のようなお方に話しかけられるとは恐悦至極にございます!」
「ははは、ワシなど大したことはありませんぞ。ともかく、此度は共に備中を補佐しましょうぞ。」
蜂屋様は俺の肩を叩かれると自陣へと戻って行かれた。
なんて器の大きい方なのだろう。俺みたいなほんの前まで農民も大差なかった男に対してあそこまで丁寧な対応ができるとは……。
そう思っていると原田様が戻ってこられた。
「藤堂殿、早速で申し訳ないが貴殿は天王寺に砦を建てて頂きたい。私の兵から千五百を出しますゆえ。」
「合わせて三千……。さような数の軍勢を俺ごときが率いて……。」
と、ここで七兵衛様の言葉を思い出した。
俺の役目は原田様を補佐すること。
ならばやるしかない……!
「お任せくださいませ!この藤堂与右衛門、早速砦を建ててまいります。」
「うむ、任せたぞ!」
原田様の命を受けた俺は三千の兵を率いて天王寺砦の修築に取り掛かった。
以前、浅井家にいた頃に城は四角形より五角形に作った方が良いと聞いた事がある。
あれを試してみるか。
それから数日後、砦の修築が完了すると同時に原田様と蜂屋様が到着された。
「おお、これはなんと見事な……。」
俺の築城に2人とも感嘆の声を漏らされていた。
これは嬉しいな。
「藤堂殿、敵の攻撃は無かったか?」
「いえ、原田様に兵を出して頂いたお陰で何とか。」
「そうか、では早速攻撃に出るべきか……。上様よりそのような命を受けておるゆえ。」
「いえっ、それは危ないかと……。敵は数も多く雑賀の鉄砲も加わっていると聞きます。なれば数が多いことを逆手に取り包囲するのに徹するべきかと。」
「うーむ、藤堂殿の言うことに一理あるなぁ。ここは攻めない方が良いのではないか?」
蜂屋様も続いてくださった。
「2人が言うならそう致そう。されど敵を精神的に追い詰める必要はあるな。」
「ならば夜に鉄砲を撃ち鬨の声を上げるのが良いかと。戦なれしていない民はいずれ寝不足で投降するでしょう。」
「流石は七兵衛様の懐刀じゃ。早速そのように致そう。」
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こうして史実とは全く違う天王寺の戦いが始まりつつあった。