19話
武田軍を包囲殲滅した俺は逃げる将達に襲いかかった。
「あれに見えるは六文銭!真田の隊でございます!」
高虎が前方の敵を指差して言う。
「わかった!追うぞ!」
流石は信州馬、なかなか早いが伯父上から頂いた俺の最高級の馬には勝てるはずもなかった。
「片っ端から討ち取ってやらぁッ!」
最後尾の騎馬兵を俺は薙刀で叩き落とす。
さらに襲いかかってきた足軽も難なく叩き潰した。
「オラオラオラァッ!織田弾正忠信長が甥、津田阿波守とは俺の事だ!真田の者共よ!震えて眠れ!」
「ええぃ!小癪な!ワシが相手をいたそう!」
そう言って兜に六文銭の飾りをつけた男が立ちはだかった。
「信州真田家次男!真田兵部昌輝!我を手柄と致せ!」
ちっ、当主じゃないということは足止めする気か。まあどの道叩き潰す!
「待たれい!阿波守が家臣、藤堂与右衛門がお相手いたそう!」
「待っ、待て高虎……。」
俺の前に悠然と立ちはだかる高虎に耳打ちする。
「七兵衛様は当主の左衛門尉(信綱)をお討ち取りください。逃げる前にはよう!」
「分かった、ここは任せたぞ高虎!」
俺は高虎の肩を叩くと真田信綱目掛けて馬廻りと共に馬を走らせた。
止めようとする真田兵は既にボロボロであり信綱の元にたどり着くのは簡単な事だった。
「はぁはぁはぁ……。貴殿は津田阿波守殿か……。」
「左様、真田左衛門尉だな。その御首、頂戴いたす。」
俺は刀を抜きながら駆け寄る。
どうやら信綱は手負いのようで隣に落ちる3尺を超える大太刀を持ち上げるほどの力は残っていないようだ。
「どうやら我が命運はここで尽きたようだ。その首をとって功と致せ……。」
俺は警戒しながらも信綱に近寄る。
そしてあとわずかと言うところで……。
「ただで死ぬと思ったか!キサマと刺し違えてくれるわ!」
信綱が脇差で俺の懐に突っ込む。
あぶねぇ!
俺は寸前のところでかわし後ろの首筋に一気に刀を振りかざした。
信綱の首と胴体が離れ崩れ落ちる。
「ふぅ……真田左衛門尉、津田阿波守が討ち取ったぞ!」
「七兵衛様……ご無事ですか!?」
昌輝の首を抱えた高虎が駆け寄る。
「おう、無事だ。お前らこれを伯父上に届けてくれ。」
近くの足軽に真田兄弟の首を引き渡すと俺と高虎はさらに追撃を始めた。
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設楽原 武田勝頼
「長坂……何故、何故、佐久間は寝返らぬッ!」
俺は長坂を蹴飛ばす。
「もっ、申し訳ありませぬ!ならばここでこの腹、見事かっきって見せましょう!」
「黙れ!そなた1人が死んで何とかなる問題ではないわ!」
さらに長坂に一撃を繰り出そうとしたところで曽根が青ざめた顔でやってきた。
「大変です!山県殿、真田兄弟が討死!内藤隊や土屋隊も壊滅致しました!」
「……!!」
「なっ、なんと!御館様、直ぐに撤退の準備を!」
喜兵衛が駆け寄る。
兄2人が死んだというのに……。
「さては、長坂!キサマ織田と内通していたかッ!」
跡部が刀を抜く。
「おっ、お待ちくだされ!それはないかと。恐らく長坂殿は騙されたのです!」
「武藤殿、それで謝れば済む問題では無いわッ!」
「長坂殿を断罪するのは戦が終わってからでしょう!今は御館様を逃がすことこそ最優先!」
「跡部殿、ここは撤退が先ですぞ。」
口論する跡部と喜兵衛に曽根が割って入る。
「くっ、皆の者、撤退の狼煙を上げよ!御館様を逃がせ!」
刀をしまった跡部がそう命じると近習たちが俺に駆け寄り俺を陣から引き剥がした。
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設楽原中央 内藤昌豊隊
「土屋隊が壊滅したか……。」
昌豊は後方を見て呟いた。
「既に我ら以外の中央部隊は壊滅しておりますぞ。」
「どうやらここらが関のようだ。ワシは腹を斬る。」
昌豊はその場で馬に降りると甲冑を外し上着を脱いだ。
「我の首、決して他のものに渡すでないぞ!」
そう言うと昌豊は腹を十字に切り裂きその場で果てた……。
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設楽原北 馬場信春隊
「2人とも逝ったか……。」
信春は南を見ながら呟いた。
「どうすんだ爺さん。撤退の命令も出てるぞ?」
信玄の弟の一条信龍が言う。
「四郎を逃がすためにワシは織田軍を多く道連れにして果てるつもりよ。ガキはどうするつもりだ?」
「爺さんの最期を見届けてやるよ。四郎には俺から報告してやる。」
「言ったからには必ず生き延びろよ。全軍、我らも撤退する!捨てがまりにて織田を1人でも多く道連れにせい!」
ついに設楽原の武田軍は全軍が撤退を開始した。