17話
長篠城 武田勝頼
「申し上げます!設楽原に織田軍が現れました。その数およそ4万!」
伝令が報告する。4万か……。かなり多いな。
「御館様、直ちに撤退するべきでございます。数の差で我らは圧倒的に不利。勝ち目はありませぬ。」
宿将の馬場が言う。
「左様、下手にぶつかるより軍勢を再編成して侵攻するべきでございます!」
内藤昌豊も続く。
「いや、我に秘策あり。ここは撤退すべきではない!」
「何を言う、長坂。また我らに何も言わずコソコソとやっていたのか?」
馬場が睨みつける。
「ふん、織田家家老の佐久間信盛が内通を約束した!」
「は!?」
話を聞かされてなかった連中は皆拍子抜けしている。
「そんなもん、信長の策略に決まっとるわ!お主は馬鹿なのか!?」
「馬場殿の言う通りじゃ!そのような虫のいい話がある訳なかろう!喜兵衛、そなたの所の忍びはなんと言っておるのだ!?」
昌豊が喜兵衛に聞く。
「私と出浦で調べましたが忍びを討たれました……。」
「分からないなら撤退した方が良いですなぁ。」
小山田信茂が目を擦りながら言う。
やはり真偽不明なら撤退か……。しかし長坂を信用しない訳にも……。
「そもそも、武田騎馬隊が尾張の弱兵に負けると思っているのか?」
「くっ……。」
長坂のその言葉に皆、黙り込んだ。
もし武田騎馬隊が尾張兵より弱いと認めるとそれは父上への冒涜になる。
それだけは奴らも出来ないはずだ。
「御館様、決戦でよろしいですな。」
「うっ、うむ……。ただし全軍、無理はするなよ。」
「ははっー!」
こうして武田軍が動き出した。
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設楽原織田軍本陣 津田信澄
「武田軍、1万ほどしか動員してないみたいですよ。案外楽勝じゃないんですか?」
俺は伯父上に聞く。
「実はワシもちょっとそれ思ったんだが殲滅したいのじゃ。」
「つまり東国の諸大名に織田の戦を披露するのですな。」
奇妙殿が言う。
「そうじゃ!北条、上杉、佐竹に家康。こやつらにワシに逆らうとどうなるのか教えてやるのじゃ。」
大丈夫です、上杉以外のちのち従います。
「それより七兵衛よ。そなた嫁はまだであったな。」
「はっ。まあそろそろ欲しいところですな。しかし問題は義父上に女子が……。」
「うーむ、もう近江も治まってきた事じゃし磯野は追放する。そなたには十兵衛の娘を嫁がせよう。」
えっ、義父上追放するの?なんか早くないか?
もしかして、歴史が変わってる?
「義父上は……。」
「ああ、そなたは奴を慕っておるからな。ならば一度、家督を譲るようにワシから伝えておく。それで断ったら追放じゃ。」
「分かりました……。」
「それより、父上。先程から変な太鼓の音が聞こえませんか?」
確かに……うっすらとだが太鼓と子供の笑い声が聞こえる。
「太鼓……笑い声……。来たか勝頼!七兵衛、そなたは自陣に戻れ!」
「ははっ!」
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設楽原 織田軍最前線 原田直政
「殿、諏訪太鼓です。武田軍が接近しております。」
「全軍構え!よう引き付けて撃てい!」
原田隊が鉄砲を構えると佐々隊、前田隊らも続く。
「向かってくるのは内藤修理(昌豊)らの三千!まもなく衝突します!」
武田騎馬隊はものすごい勢いで原田隊に迫っていく。
「まだだ……まだだ……。まだ引き付けよ。」
そして内藤隊と原田隊の距離が20メートルを切ったところで。
「放てぃ!武田軍を叩き潰せ!」
いっせいに鉄砲が火を噴く。
同じように南の徳川隊と山県隊、北の滝川、羽柴隊と馬場、真田隊も激突した。
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設楽原南 山県昌景隊
「全軍、柵を崩せ!縄を投げい!」
山県が命じると武田兵が縄を投げ柵を引き倒す。
「怯むな!数はこちらが優位だ!」
徳川隊の本多忠勝も負けじと押し返す。
「殿、山県勢突っ込んで参りました!平八郎が迎え撃ち一進一退です。」
榊原康政が家康に報告する。
「始まったか……。ここで山県を討ち三方ヶ原の悪夢を消し去る!全軍で迎え撃て!」
家康は立ち上がると采配を振った。
こうして設楽原の戦いは始まった。