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15話

長篠城 武田勝頼


「御館様、敵の使者を捕らえました。」


喜兵衛が報告する。


「なんと申しておる?」


「援軍が来る、武田ももう終わりだと。」


「ふん、見上げた度胸だ。喜兵衛、援軍は来ないと城に伝えたら褒美は思いのままと伝えよ。」


「はっ、直ちに。」


それを聞いた使者はそれを受けたようだ。


「磔にしろ。もし援軍が来ると言ったら刺し殺せ。」


「ははっ!」


俺の命を受けて長篠城の前に使者が磔にされた。

城兵共がザワついている。

言えっ……!援軍が来ないと……。


「援軍は来るぞッ!それまで持ち答えよッ!」


なっ、なんだと!?


「おっ、おのれぇ。ワシを愚弄しおって!つき殺せェッ!」


「御館様……それでは城兵が……!」


「いや……見せしめにせい!ワシに逆らえばどうなるか教えてやれっ!」


俺が命じると兵たちが使者の脇を槍で突き刺した。


「キサマらッ!ワシを愚弄したらどうなるか分かったであろう!直ちに降伏せいッ!」


怒る城兵達を背に、俺は本陣へ戻った。


「いやー、さすがは若様でございます。あのような不届き者は討ち取ってしまえば良いのです!」


そう言って俺を賞賛するのは長坂光堅。


「いや……やはりまずかったのでは無いか?」


少し不安げなのは跡部勝資。

2人とも俺の重臣だ。


「それより、若様。織田家の重臣、佐久間右衛門尉が我らに内応すると。」


「なっ……!」


「そんな訳があるか。長坂殿は夢でも見ておるのではないか?」


俺が言い返す前に跡部が言う。


「いや、それが佐久間は日頃の信長の横暴に耐えかねておるらしい。」


「だーから、それが嘘ではないかと言うておるのだ。」


そうだ、そうだ。佐久間右衛門が裏切るわけが無い。


「長坂、そなたちと焦っているのではないか?」


「いえ、間違いござらん。奴の血判もほれここに。」


そう言って長坂が書状を差し出す。

むむむ……確かに奴の血判だな。

武士たるもの一度誓ったことは……。

しかし信長ならなぁ。


「曽根と武藤の意見も聞く。奴らを呼んでくれ。」


「お待ちなされ。曽根も武藤も若輩者。我ら宿老で決めましょう。」


「じゃあ馬場殿や内藤殿を……。」


「あれは頭が筋肉で出来ておる。調略など分かりもせんわ。」


この長坂と宿老の馬場信春や内藤昌豊、山県昌景との対立はなんなのだ。

しかしながら長坂は俺に甘く馬場たちは俺に厳しい。

愛ゆえの厳しさなのだろうが良い気分では無い。


「既に佐久間とは戦が始まり、狼煙を撃てば寝返るように伝えております。奴が信長の旗本に斬りかかり我らも突撃すると。」


「かなり現実的な策ですな。これは誠やもしれませぬ。」


跡部の言う通りだ。これは本当なのかも知れない。


「分かった。そなたの言うことを信じよう。」


こうなったらやるしか無い。

こいつを信用しよう。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

三河東部 津田信澄


「へー、武田を騙したのか。」


岡崎を出立して2日後、俺は佐久間の陣で接待を受けていた。


「はい、殿のご命令で。武田の長坂はそれを聞いて喜んで返事を寄越したのです。あれは見栄っ張りな阿呆ですわ。」


「はっはっはっ。武田は真田とか内藤とか賢いのが居たのではないか。」


そう言いながら酒を飲み不意に後ろを見ると陣を出ようとしてる足軽がいた。

ん?


「おい、そこの者。なんで逃げる?」


「いやっ……私は逃げようなど。」


「では何故陣を出ようとしておる。」


俺が質問をする度に兵は顔を下に向ける。


「ん、そなた誰じゃ?ワシの家臣ではないな。」


信盛が立ち上がって言う。


「くっ!」


足軽が走り出す。

武田の間者か!逃がすか!


「待てやゴラっ!」


俺は刀を抜いて全力前進で追いかける。

早い……さすがは武田の者と言った感じか。

だが負けるわけにはいかねえよ。

俺も全力で追いかける。


どんだけ走ったか分からんがかなり走ったようだ。

向こうも疲れてきたしこっちも疲れてきた。


「クソがっ!」


そう言って俺が近くの石を投げつける。

すると見事に間者の頭に石が当たり間者は崩れ落ちた。


「おお、当たった、当たった。俺の勝ちってやつ。」


「なんだお前……。」


「なっ!」


囲まれた!武田軍か……。


「そなた、なかなか良い面構えをしておるな。名をなんと申す。」


敵の将と思わしき男が槍を構えて聞く。


「織田家一門、津田阿波守信澄!」


「ほう……。謀反人信勝の子の七兵衛殿か!」


「父上を侮辱するよりお前も名を名乗ったらどうだ?」


「そうだな。私は武藤喜兵衛昌幸。武田四郎様の旗本じゃ。」


雰囲気が違う……。真正面から戦っては負ける。


「武藤殿……ここで会ったのは偶然だ。俺は佐久間の陣にいた不審者を追いかけてここまで来た。別に武田家の偵察でもなんでもない。ここは矛を納めてくれんか?」


「ふん……死ぬのが怖いか。」


「違う、俺には成し遂げなければならぬ事がある。」


「私も同じだ。もしそなたが剣の使い手なら十人程度の私の供の者では負けるかもしれぬ……。ここは見逃してやろう。」


「次に会った時は、お手合わせ願おう。」


「うむ、その時は見逃さぬぞ。」


俺は武藤に一礼すると足早に陣に戻っていった。

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[一言] 昌幸の言動で、信勝の「弟」ではなく「息子」では?
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