俺の飼い主がなんどいってもだまされまくるんだけど、どうしたらいいんだよ!
『おい、俺いったよな?』
ついつい荒くなる口調に、目の前の金髪がふるふると震えだす。
「だけどね、ツバメさん」
チコは恐る恐るだが、俺へいいわけしようとする。
『んあぁぁ!?』
俺としたことがついついチンピラみたいな声をだしてしまったな。
だがいっておくが俺は絶対に悪くない。
目の前の金髪は、チコ=シスネロス。シスネ王国元第二王子。現在は臣籍降下して公爵位を得ている。
領地は南の端っこにあるパルティダ公領。つまりチコはパルティダ公爵と呼ばれるわけだ。
歳は十六。この国では今年成人になる歳だ。
背は百七十前後。体つきはやや細め。真っ直ぐでくせのないサラサラでツヤツヤな金髪は、肩で切りそろえられている。
顔は透明感のある白い肌で頬と唇はピンク色だ。小ぶりのツンとした鼻に、海のような青い目を濃い金色のまつ毛が縁取っている。
まぁ、イケメンというよりは美人系だな。とても俺と同じものがついてるとは思えないな。
たぶん性別を間違えて生まれてきたんだろう。
これが俺の飼い主だ。飼い主なんだよ。
俺、いまはツバメだからな。ってことは俺と同じものがついてるわけがない。いまの俺には穴しかないからな。
俺とチコが会ったのは本当に偶然だった。
朝起きたと思ったら素っ裸で森にいるわ、ツバメになってるわ、町は異世界に変わってるわ、クソガキが火の玉を打ってくるわ。
そんなんで真っ白になってた俺は、鷹に狙われて追いかけられているうちにチコと出会った。
そんときのチコはやらかしたせいで銅像にされて、噴水広場に立ってたんだ。
その原因は魅了魔術による精神操作だな。絶対に転生者がからんでると思うぞ。
ただチコもなぁ。人を疑うことを知らないっていうか、簡単にいうと世間知らずのお坊っちゃんだよな。
危うくオーク一家に宝石をだまし取られるとこだったぜ。
ただこれがホントにたちが悪い。いわれるままに自分の財産を放出しようとすんだ。ほどこすとか寄付するとかいうレベルじゃないんだぞ。
この領地に着くまでにもいろいろあった。
馬車の前に飛び出してきた十歳くらいの子どもが、道ばたに倒れこんで涙ながらに慰謝料を要求してきた。
チコは医者に連れてこうとすんだけど、かたくなに金だけでいいって言い張るんだぜ。あれはプロの当たり屋だな。まぁ演技のできは最悪だったが。
そのときのやり取りがこうだ。
「ヒヒーン、ブルルッ」
街中をゆっくり走っていた馬車が、いななきとともにガタゴトと揺れて止まった。
馬車につながれた馬が前肢を振り上げて、苦しそうにもがいている。それを御者が慌てて手綱を引いて、暴れないように制御しようとしていた。
道ばたには薄汚れた子どもが尻もちをついていて、人の目が集まったところで泣きはじめた。
「痛い。いたいよ~」
右足首あたりをおさえて大きな声をだしているが、涙はかけらもでてないな。
「アバロスなにがあったんだい」
チコがその声に驚いて、御者に呼びかけるために馬車を降りた。
「この小僧が急に飛びだしてきまして」
御者がおきたことを説明しようと前にでる。
「足がいたいよ~。医者にいかないと。でもお金なんてないよ~。わ~ん」
子どもは御者のことばをさえぎるように、足をおさえてチコにアピールしはじめた。
『なんだこれ、こいつにだまされるやついんのかよ』
日本の子役のほうがもっと演技はできるな。
「それは大変だね。すぐに連れていってあげよう」
チコは子どものそばに片膝をついて、ハンカチをだしている。
『いたー! すげー近くにいた!』
さすがだまされやすさ国一番の王子だな。
これじゃあ攻略対象者としてターゲットにされんのも当たり前だぞ。
『おい、チ――』
「貴族さまにそんなことをされたら親方に殺される! 貴族さま、医者にかかるお金だけ欲しいです!」
『うおっ! 金が欲しいとか、はっきりいいやがった』
子どもは俺の言葉をさえぎって、チコを上目使いでみつめると、ここでようやく涙を流した。まぁ、頑張ったら一粒ころがったみたいだな。
「そんなことをいっても、その足では医師のところまで歩けないだろう?」
「大丈夫です! 知りあいのところでみてもらいますから。お金だけで十分です! そしたらひかれたなんて誰にもいいませんから!」
「でも本当に大丈夫なの?」
おい、いわれたからってホイホイ財布をだすなって。しかもひかれたとか、さらっと嘘ついたぞ。
俺はチコをめがけて飛び立ち、すれ違いざまに財布を奪ってやった。
「あぁ! くそ! おいらの金だぞ! 待て~!」
痛む足はどうしたよ。そいつは俺を追いかけてきた。いや追いかけたのは財布をだな。
俺は適当に飛び回り、そいつを路地にある木箱の方に誘導した。
「ガッッ」
「うわぁ~」
俺をみあげていたそいつは、まんまと木箱にぶつかり転がった。
「ちくしょう! いってぇ~」
すねへの強打は普通の痛みじゃないからな。反省しろよ!
おれはそいつをおいてチコの元に戻った。
『チコ、あんだけ走れるケガ人を見たことあるのか?』
俺はチコに財布を返して聞いてやる。
「そうだね。私はまた間違えたのか」
チコは空気のぬけた風船みたいにしぼんでしまった。
どうにかしてやりたい気持ちはわかるが、金を渡しても解決はしないだろうな。
チコを馬車に押しこめて、俺たちはまた道を進んだ。
あれはストリートチルドレンなのか、胴元がいて使われてるのか、どっちなんだろうな。
途中の街に着いたら着いたでこんどは、人々の暮らしむきが知りたいとかいって、お忍びスタイルで街を歩くだろ。
でもこんなに品のいい平民なんて、どこにもいないっつうの。
お前自分で国中に愚行が知れ渡ってるっていったろ?
どんだけ王都の噴水広場に立ってたのかは知らないけど、顔バレは確実だよな?
チコをだまそうとするやつに対して、ここにいますよって言ってるようなもんだろ。
って言ってるそばからまた怪しげなもんに引っかかりやがって。
起きなくなったモノも、ひとビンでタチどころに元気になるって、それはただの回復薬じゃないだろ。
店の雰囲気からいって夜の回復薬だぞ。店員のいい方もなんか卑猥だったしな。
すごいですねじゃねぇよ。おい、買おうとすんな! 使う予定はないだろ?
これが最後の一本だと?
店の奥の棚にずらっと並べてあるそれはなんなんだよ!
道を歩けば、ババアが胸を押さえてしゃがみこむし。
持病のしゃくだぁ? さっきまでピンシャンしてたろうが。チコが視界にはいったとたんに、目が金貨みたいに光ったぞ。
おい、やめろ! 薬を買ってくるじゃないだろ。薬代が足りるかわからないだと?
よく見ろ、お前の財布を一緒になってのぞきこむほど元気じゃねぇか。
花売りの娘が目をパチパチさせながらいってる花の値段は、花は花でもかごに入ってるやつじゃないからな。
お前の貞操と財布の中身、両方危険な状態だって今すぐ気づけよ!
『アウトー!』
『アウトー!』
『アウトー!』
おら、スリーアウトチェンジだ。さっさと自分のホームに帰れ!
そしてチコ、お前は一生守備に徹しろ!
「ごめんね、ツバメさん」
おいコラ、ゴメンですんだら家令のウィルフレドには育毛剤がいらないだろ。
お前がやらかすたびに頭髪が旅にでてんじゃねぇか! そいつらは戻ってこないんだぞ。
ウィルフレドには病気休暇でも与えてやれよ。それか育毛剤を現物給付だな。
お前がきてからどれだけのものを失ったと思ってんだよ。
『チコ、お前銅像に戻りたくはないだろ?』
「でもね、ツバメさん。とても困っていたんだよ」
でもねじゃねぇよ! 他人が困ることよりも、ウィルフレドが困ってるのを心配しろよ! お前この屋敷から家令が消えたらやっていけねぇだろ!
チコの眉はハの字になっていて、俺がいじめている気持ちになるが、甘やかすとためにならないからな。
『ウィルフレド、チコに財布は渡すなよ』
欲しいものがあったら侍従にいえばいいだろ。
『なあ、あの下男だが、なんかおかしくないか?』
領地の屋敷はそんなにデカくはないんだけど、何人か使用人がいる。俺はなんだか不自然な行動をとる下男のことを、家令のウィルフレドに聞いてみた。
「ツバメ様、なにか気になることでもおありですかな」
ウィルフレドは俺のそばまでくると、俺が羽で差したほうに顔をむけた。
『なんかやたらと屋敷内をうろついてんだけど』
この屋敷は最低限の人員でまわしてるから、へんなやつがひとりでもいると目立つんだよな。
「ふむ」
ウィルフレドはしばらく下男の行動をみていたが、いますぐどうこうする気はないみたいだな。
『挙動不審だよな。いかにも悪いことしてますみたいな』
「たしかにそのように見受けられますね」
ウィルフレドは下男の動向に注意しておくといい、チコの執務室へと去っていった。
次の日、俺はまた怪しい行動をとる下男の姿を見つけていた。
『なぁ、ティナ』
俺は近くをとおりかかったメイドに呼びかけた。
「どうかなさいましたか、ツバメ様」
ティナは俺が止まっている窓まで近づいた。
『あそこに下男と一緒にいる男なんだけど……』
俺は裏口にいるふたりの男を羽で示した。
「いえ、この屋敷のものではありませんね」
ティナの眉間に深いシワがよる。年頃の娘がその顔はないだろう。眉毛が太いスナイパーみたいだな。
『なんかいつもこそこそしてるよな』
まわりを気にしているが、二階の窓には気がついていないな。
「そうですね。念のためウィルフレドさんに報告しておきます」
ティナは食い入るように相手の男の顔をみていたが、そういって仕事に戻っていった。
結局その下男はこの屋敷をクビになった。なんでも銀食器を盗もうとしたところを見つかったらしい。
さらに二週間ほど過ぎたころ、散歩に出かけた俺は、いかにもゴロツキだというような、ひょろいモヒカン男に追いかけられていた。
『うわっ! なんだこれ!』
俺は空気の壁にぶつかってはね飛ばされたところを、追ってきた男に取り押さえられた。
裏路地からふたりの男が合流すると、俺は小さな鳥かごに押しこめられ、上からずだ袋を被せられた。
「ギャハハハハ」
「アニキ、あんがいチョロかったっすね」
「おれは風の魔術が得意だからなァ」
『くっそー! アイツ屋敷の下男と一緒にいたやつじゃないか』
辞めさせられたのを逆恨みして、こいつらにリークしたんだな。
「せっかくバカ王子の屋敷にもぐりこんで、金目のものを盗み放題だと思ったのによォ。こいつに邪魔されたからなァ」
ガシャッという音とともに鳥かごに衝撃がはしって、グルグルと回った。たぶん蹴られたんだろう。
「小型の魔生物は、お貴族さまに高値で売れますぜ」
こいつが追いかけてきたひょろ男だな。
「ましてや言語魔術を使うツバメっすよ」
こいつは舎弟か、チビでアフロの男が下男と一緒にいたやつをアニキ呼びしてたな。話し方も下っぱっぽいからな。
「もう少し色鮮やかなほうがうけんだけどなァ」
こいつがリーダーだな。脂ぎった髪をオールバックにしてたチョビヒゲ男だ。それにしても語尾がイラつく話し方だな。
「アニキ、染めちまったらいいんじゃないっすか」
こいつはさっきのアフロか。
「せいぜい稼がせてもらおうぜ」
こいつはひょろ男だったな。
「これからは人族には逆らわねぇで、こびうって生きろやァ」
男たちはギャハギャハと笑いながら部屋をでていった。
『ムカつく~!』
アイツらマジ許さねぇ。
やつらはほかに仲間がいなければ三人だ。
語尾がイラつくチョビヒゲと俺を追ってきたひょろ男、そしてアフロだ。
くちばしで鳥かごの入り口をスライドさせようとしたけど、ぜんぜんうまくいかない。そうしているうちに、三十分ほどでやつらが帰ってきた。
「アニキ、このツバメはだれに売りつけるんっすか?」
ガタガタと木がぶつかる音といっしょにアフロの声がする。
「魔生物をコレクションしてるお貴族様かァ」
「珍しいものを集めてる商人はどうだ」
「いっそのことバカ王子に売りつけたらいいんじゃねぇかァ」
「ギャハハハハ。そりゃいいっすね」
「おーじさまはァ、ツバメのいうことならなんでも聞くっていうぜェ」
三人は前祝いのつもりなのか、皿をガチャガチャいわせながら飲み食いしているようだ。
『くそ~こんなやつらにチコがバカにされるなんて』
俺は腹立たしさで、床を転げまわりたくなった。
「なぁ、魔生物をコレクションしているヤツに売ろうぜ」
あらかた食い終わったのか、ひょろ男が俺の売り先を提案している。
「なんでだァ」
「こいつをもとの場所に返してやるのが気に入らねぇからな」
「ふん! まァ、それでもいいかァ」
「アニキ、じゃあ暗くなったらこいつを運ぶんっすね」
貴族のコレクションか。
『どうにかして逃げないとな』
結局どうすることもできないまま、俺は貴族の屋敷に運ばれてしまった。途中でずだ袋は外され、小綺麗な布をかけられた。
ノックの音やていねいに話す男の声が続けざまに聞こえたあとは、どこかの部屋にとおされたようだ。
「お前たちか、言語魔術をあやつるという魔生物を持ちこんだのは」
扉を開く音と同時に偉そうなおっさんの声が聞こえた。
「はい。見た目はただのツバメですがことばを話しまさァ」
チョビヒゲは貴族に応えているが、語尾はなおってないな。
「ふん、ご託はいいからさっさと見せるがいい」
偉そうな貴族だな。こいつに飼われんのは絶対に避けないと。
「けっ」
おい、それは聞こえたんじゃないのか。
バサリと布が外され、俺はまぶしさに目が眩んだ。明かりが眩しいのもあるが、部屋の光り物がひでエ。オーク屋敷と似たようなもんだな。
「ふん、みすぼらしい鳥だな」
初対面で失礼なやつだな。俺をジロジロと見下ろしながら貴族の男がそういった。
おい、お前もオークかよ。この国はオークに乗っ取られんじゃないのか?
こいつの指も下品な指輪でいっぱいだ。
しかもこの部屋には動物の剥製があちこちに置いてある。
おいおい、俺をこいつらの仲間にする気じゃないよな。俺は思わずぶるりと震えた。
「おい、こいつは病気じゃないのか? 血がでているではないか!」
オーク貴族は顔を真っ赤にさせて激昂している。
あー鳥かごが開かなかったからな。くちばしの横が切れたんだよな。
「大丈夫でさァ。これから話しをさせるンで聞いて下せェ」
チョビヒゲが鳥かごをガタガタゆすって、小声で俺に指図してきた。
「おい、お前も剥製になりたくなければいうことを聞けよォ」
たしかに剥製はマズいな。黙りこんでやろうかと思っていたが、それは得策ではないようだ。
俺は三人の声をまねて、目の前の貴族に罵詈雑言を浴びせてやった。
『バカな貴族に売りつけてやろうぜ! バカ貴族!』
「はぁ!?」
三人が間抜け面して俺をみてるが、まだ終わらないぜ。
『間抜けは大金を出してくれるだろうなァ。間抜け貴族!』
「アニキそっくりっす」
アフロもそう思うか。俺もなかなかのできに満足だよ。
「おい、だまれ!」
ひょろ男が鳥かごに布をかぶせようとした。
『クズ貴族様様っす。クズっす』
「おれそんなこといってないっすよ!」
アフロは泣き声をあげて否定してるな。
あとはひたすらオークと連呼してやった。
貴族の屋敷は大騒ぎだ。だが俺は鳥かごからでることができない。
『くそっ! こっからでられたら騒ぎにまぎれて逃げんのに』
すると下の階から叫び声が聞こえだした。
しばらくして部屋の扉が大きな音を響かせて開く。そこにいたのは、サラツヤな髪を振り乱しながら肩で息をしているチコだった。
「ツバメさん」
チコは息がきれて声をだすのもおっくうそうだ。
『チコ! なんでここがわかったんだよ』
俺はそばにいきたくても鳥かごにじゃまをされて、ひどくもどかしかった。
「ティナが屋敷を辞めた下男に聞いてくれたんだよ」
『まさか色仕掛けか!』
ありえる。俺だったら百パーひっかかる。
「歯は折れたけど、骨は折ってないっていっていたよ」
『物理的なお話しあいか!』
俺はティナを敵にまわすのだけは、絶対にやめようと心に誓った。きっとむしられる。
「ツバメさんが無事でよかった」
チコはほっと息をつくと、俺が閉じこめられている鳥かごのそばに腰をおろした。
疲れたようすのチコに俺は胸が痛くなった。
『ごめんな、チコ』
俺が人前でもお前を叱るから、他のやつらからなめられるんだよな。考えが足りなかったよ。
だからお前はごめんとしか言い様がなかったんだな。チコの立場を考えて注意すべきだったよな。
俺はあんなやつらからバカにされる原因を作った自分自身に、猛烈に腹が立っていた。
「ツバメさんは私を導いてくれるのだよね」
チコは鳥かごを開けて俺をその指に止まらせると、血が出たところをなでながら、深い海のような青色で俺をのぞきこんだ。
チコは俺にはいまの俺のまま、変わらずにそばにいて欲しいと言った。
俺の目からは汗が流れたが、チコの萌え袖かってくらいひらひらしたレースの袖口に隠れていたから、誰にも見られることはなかった。
貴族とゴロツキはチコといっしょにきた騎士団に連行されていった。きっとこの国の法で裁かれるのだろう。
『おかしいんだよなぁ』
夢だからか? よくわからないな。
「どうしたのかな? ツバメさん」
自分のことがよくわからなくてウンウンいってたら、チコが心配して声をかけてきた。
だから俺が悩んでることを聞いてみた。もう何日も経っているのに便意がないことや、食事もとろうと思えば食べられるけど、特に空腹を感じないことをだ。
「えっ? ツバメさんは魔生物だと思うのだけど」
チコは人差し指をあごにあてて、不思議そうに俺をみていった。
『はぁ?』
あぁ、そういえば俺を売り払おうとしてたやつらも、そんなことをいってたな。
「ツバメさんは卵からかえったの?」
『いや、気づいたら木の上だったな』
「それならその時に発生したのだと思うよ」
『発生……』
どうやら俺は普通の鳥ではないらしいな。なら尻の穴はなんのためにあるんだ?
チコは魔素がどうとか言ってたが、俺は考えるのをやめた。目が覚めたらそこで終了の設定だからな。
俺の深層心理はどうなってんだろうな。ネット小説の影響だけじゃ、こんな夢みない気がするんだけどな。
『まぁ、よく眠れてるし問題ないな』
数日後チコは外出先から帰ると、楽しそうに小さなビンを俺に見せた。
「ツバメさん、安眠できる薬をわけてもらったよ」
ひとビンで金貨十枚だった。ツバメさんがよく眠れるように買ったのだと、嬉しそうにチコが報告してくる。
『おい、チコに財布は持たせるなって俺いったよな』
家令以下、侍従やメイドにいたるまで俺から目をそらす。
『チコ、残念だけどまただまされてるぞ』
「そんなことはないよ。今回はちゃんと効き目を確認したんだよ。店の人が一滴水槽に垂らしただけで、泳いでいた魚が眠ったんだ」
チコは自信たっぷりに胸をはってそういった。
『アウトー!』
ふざけんな、俺を殺す気かよ!
『チコ、それは安眠じゃない。永眠っていうんだ』
だいたい、ひとビンで金貨十枚だと。それだけあれば平民四人家族が二十日は暮らせるんだぞ。
ん? 家令がキョドってるな。
『チコ、まさかお前大金貨十枚じゃないよな』
小金貨だってけっこうな額だぞ。
「えっと」
チコの目が泳ぎだす。金メダルも狙えるターンを繰り返してるな。
『その金貨にはなにが彫られてた?』
頼む花だ、国花だといってくれ!
「その、父上の横顔が……」
『アウトー!』
それ国王陛下だろ! 大金貨じゃねぇか! ホントいい加減にしないとケツの毛までむしられるぞ。
いつまでたってもだまされまくるやつがご主人様だなんて、俺はどうしたらいいんだよ!
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。