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突入

初めて、大きな現場に出ることになったロブ。

上手くいくかに思われた任務で、彼は思わぬ目に遭って……。

その日、特犯のアタックチームは、とある現場に突入することになっていた。

金持ちを集めたパーティーが開かれ、そこで違法な薬物が売買されているという。

うちが繋がりを持っている情報屋からの、確かなネタだった。


突入を仕掛けるアタックチームは、ドミニク、レオ、ミカエル、そして俺だった。

元々はシローさんが組み込まれていたチームだったけど、彼は直前の任務で負傷してしまったのだ。


大きな現場に入るのは初めてで緊張を覚えたけど、メンバー入りしたことは、それだけの力が付いてきたことだとも思った。

俺はそうやって自分を奮い立たせ、任務に臨んだのだった。



情報屋によると、パーティーが始まるのは20時。

そこから1~2時間の間をおいて、それなりの面子が揃った頃を見計らって、薬物の売買が始められるという。


こういった犯罪は、現行犯で現場を押さえるのが一番いい。

そのためにはまさに今という、違法行為をしていたという現場に踏み入る、絶妙なタイミングが必要になるのだ。


特犯には、殺傷能力のある武器は支給されていない。

アタックチームは身体的な防衛術、攻撃術を身に着ける他、ゴム弾の銃や、電撃を与える武器で身を守るしかない。


俺たちは防刃・防弾チョッキを身に着け、腰のホルダーには感電銃を差している。

会場前で待機し、突入の合図はドミニクのハンドサイン。

ドアの向こうからくぐもった笑い声が聞こえる中、俺の心臓は、今にも飛び出すくらいに大きな鼓動を刻んでいた。


心臓の音、チームの仲間たちがすべてスローモーションの中に入ったみたいだった。

そのゆっくりとした動きの中に、ドミニクのサインを見つける。

行け、今だ!!


先陣を切ったのは、ミカエルだった。

ドアを蹴破り、部屋の中に踊り出る。


「特犯だ!!」

「手を上げろ! 誰も部屋から出るなよ!」


後に続いたドミニクが、腹の底から出るような声で叫んだ。

その後に、俺とレオが続いた。


パーティーに来ていた客たちは、突然の突入に驚きを隠せない。

あたふたと動き回ろうとするも、ドミニクやミカエルに制止される。


「ドミニク!」


ミカエルの鋭い叫びに、瞬時にドミニクが反応した。

部屋の隅には別にドアが設けてあって、ミカエルはそこから姿をくらまそうとする誰かを目撃したらしかった。


その影を追いかけるドミニク、会場の制圧を進めるミカエル。

レオは、徐々に収まりの付いてきたらしい会場をぐるりと眺めている。

俺はというと、未だに激しい鼓動が収まらない。


「情報に間違いはなかったみたいだな」

「今回の逮捕で、大方の……」


ミカエルがそう言った時、大きな唸り声が突然会場を包んだ。

先ほど何者かが去っていったドアを跳ね飛ばし、何か大きな者が飛び出して来た。

そいつの攻撃をすんでのところでかわしていたのは、追跡に向かっていたドミニクだった。


「……こりゃあ、完全にイッちまってるな」

「情報にあったか? こういうのは」


体勢を立て直したドミニクが言うのは、彼が対峙する大きなゴリラのことだった。

薬漬けになっているのか、目の焦点が合わず、絶えず口から涎を垂れ流している。


指令が下される前に飛び出したのは、レオだった。

彼は細身を活かした俊敏な攻撃が得意で、俺はトレーニングで彼と組む時は、未だに勝てたことがなかった。


理性を失っているとはいえ、相手は巨体のゴリラ。

スピードで勝るレオに、分があると思われた。

事実、彼はゴリラを押している。


問題だったのは、そんなゴリラが1体じゃなかったってことだった。

もう1体が蹴破られたドアから不意に現れ、レオを狙って突き進んでいく。

それを防ぐべく、ドミニクとミカエルが応戦するも、位置が悪いの有効な攻撃を与えられていない。


気付いた時には、俺は走り出していた。

腰から感電銃を抜き、2頭目のゴリラに放つ。

一瞬ひるむ様子を見せたゴリラだったが、大したダメージは受けていないと見えた。


こん棒のような腕を振り回し、俺に殴りかかってくる。

ドミニクとの戦いを思い出せば、どうってことはなかった。

当たればダメージを食らうだろうけど、逃げるのが精いっぱいってほどの攻撃でもない。


やれる、と確かに思えた。

それは、俺が特犯で得た、初めての自信だったかもしれない。


レオほどじゃないけど、俺もゴリラよりは俊敏だ。

相手がドカッと床に拳を打ち込んでくるのを誘い、さっと飛び上がって、首の後ろに強烈な蹴りをお見舞いしてやった。

首筋に衝撃を受けたゴリラは、ぐるっと白目を剥いて、床に崩れ落ちた。


「ロブ、やるじゃないか」


ミカエルがそう言ってくれた時、レオもまた、最初のゴリラをいなしたところだった。

俺と目が合うと、フンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


「まー、ちょっと予定外のことはあったけど、これでいい結果に収まったな」

「さっき逃げたのは?」

「このパーティーの主催者で、裏社会の……」


ドミニクとミカエルが話していた時、レオの背後でむくりと何かが動いた。

レオの攻撃を受けて失神したかに思われたゴリラが、猛然と彼に突進する。


レオは振り返ったけど、多分、間に合わない。

そう思うのと同時に、俺の体は勝手に走り出していた。


俺は攻撃の矢面に滑り込み、ゴリラの攻撃をまともに受けた。

体の質量がなくなったかのように、俺の体は横にすっ飛んで行く。

その先は、窓だった。


ガシャンという音と、割れたガラスがまとわり付く感覚。

そして俺はどこか冷静に、ここが建物の3階にあることを思い出していたのだった。

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