表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

91/118

レオの追憶④

出来心で、エレンにキスをしたレオ。

この一件をきっかけに、彼はエレンの過去を知ることになり……。

「話したいことがあるの」

「入ってもいい?」


エレンが突然俺を訪ねてきたのは、キスの翌日だった。

要望通り、俺はあいつを招き入れてやった。


なぜキスをしたのかなんて、エレンは聞いてはこなかった。

ただとうとうと、俺と離れてから、自分の身に何が起こったかを話して聞かせてくれた。

それは、俺がまだ聞いたことのない話だった。


「わたし、ライオンに飼われてたの」

「病気になった、ハンナの治療費を稼ぐためにね」

「レオ、()()()()って、どういう意味か分かるよね……?」


あいつの話に、俺は胃がひっくり返るような感覚に襲われる。

飼われるってことがどういうことを指すのか、もちろん、俺は知っている。


ボロボロになるまで弄ばれて、最後には捨てられたこと。

希望はなくなってしまったけど、それでも、もう一度生きてみようと思ったこと。


「この町へ来て、それで、ロブに出会ったの」

「彼って、ちょっと変わってるでしょ?」

「肉食獣なのに、とっても優しいの」


「ねえ、レオ」

「わたし、ロブのことが好きなの」

「獣にめちゃくちゃにされたわたしだけど、それでも彼が好きなの」


エレンの青い瞳は、何の曇りもなく、真っ直ぐ俺に向けられていた。

それは彼女が、心からそう思っているという証でもあった。


「それでおまえ、その先に何があるっていうんだよ」

「……分からない」

「でも、いつだってそうだったでしょ? 保健所にいた頃からずっと……」


「レオ、わたしがここへ来たのは、知ってほしかっただけなの」

「わたしがどれだけ、彼のことを大切に思っているかってこと」

「わたしにとって、彼は特別なの」


それは、牽制にも聞こえた。

わたしたちは愛し合っている。

だからもう、邪魔はするなと。


あるいは、こうだったか。

わたしはもう、あなたに守ってもらわないといけない、小さな女の子ではない。

だからもう、肩の荷を下ろせばいいのだと。


本当のところ、エレンが俺に何を伝えんとしていたのかは分からない。

俺は分かったとだけ言い、彼女を送り出したのだった。


*****


オフィスに戻ると、オオカミのやつは自分のデスクに齧りついていた。

その斜めにある自分の席に着きながら、俺はふと考えた。


俺はやっぱり、獣が嫌いだ。

それは収容所での生活を通して体に染みついてしまったもので、今後どんな出来事があったにしても、劇的な雪解けを迎えることはなさそうだった。


ただ分かるのは、俺はもう、2度とあいつにキスをしないということだった。

そう思っても、別に悲しくはならなかった。


あの雪の日に手を引いた彼女は、今では別のやつの手を取って生きている。

そこに一抹の寂しさを覚えはしても、悔しさはもうない。

あの甘ったれなオオカミ野郎のことは好きになれないが、エレンが幸せに生きることに不満はない。


ずいぶんとこじれた思いだと、自分で考えて可笑しくなった。

もちろん、表情には少しも見せるわけはないが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ