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正直でいたい

エレンと和解したロブは、職場でレオに話しかける。

彼に対して、どうしても言っておきたいことがあって……。

日曜日は、柔らかな朝の光から始まった。

俺はうつ伏せ状態で目を覚ますと、くあーっとひとつ欠伸をした。


背中側にはエレンがいて、まだ眠りの中にいる。

髪と同じ黒い睫毛が被さるようにしてあるのを、俺は横になったまま見つめていた。


ゆっくりと起き上がると、体中を疲労感が包み込んでいることに気付く。

それはまるで、ドミニクの課す、やや無茶なトレーニングをこなした後に似ていた。


()()()()()と疲れるというのは、間違いない。

スポーツだって言われるのも、納得出来る。

フローリアンが大した運動もしていないのにスレンダーなのは、間違いなくそのおかげだ。


ふとナイトテーブルを見ると、小さな箱が目に入った。

いつだったか、俺たちのお付き合い記念にフローリアンとチャドがくれた、例のブツだ。

徳用な上に2箱セットだったそれも、ようやく使いきれそうなところまできていた。


それが()()()()のように思えて、何だか生々しく感じられた。

箱から飛び出していた数個を元通りにしまうと、俺はそれを引き出しに押し込んだのだった。


「ロブ?」


俺が引き出しをガタガタ言わせたものだから、エレンは目を覚ましたみたいだった。

まだ半分は夢の中といった具合で、ぼんやりとした顔で俺を見ている。


「ごめん、起こした?」

「まだ寝ててもいいよ」


俺がそう言う間にも、エレンは覚醒しつつあった。

急に真面目な顔つきになったかと思うと、今度はもぞもぞと布団に潜り込む。


「どうしたの?」

「えっと、何て言うか……」

「うん?」


エレンがゴニョゴニョと何かを呟いているので、俺は体を屈めて、彼女の傍に寄った。

そのことで、一旦は頭を出していたエレンも、また布団の中に潜ってしまった。

まるで、カタツムリみたいだ。


「何? 言ってよ」

「どうしたの?」


俺が促すと、カタツムリになったエレンは再び布団の中から浮上してきた。

それでも鼻のあたりまで布団を引き寄せて、ようやく口を開いた。


「昨日……ね、ふと気付いたのよ」

「うん」


「今まであんまり意識してなかったんだけど」

「わたし、10歳以上も年下の男の子と付き合ってるんだなーって……」


俺は、頭上にクエスチョンマークを浮かべた。

エレンが何を言わんとしているか、最初はまったく分からなかった。


目玉をあっちこっちに泳がせて考えていると、さっきアレを押し込んだ引き出しが視界に入った。

箱を適当に押し込んだものだから、上手く閉まらずに半開きになっている。

ああ、なるほどと、クエスチョンマークはベタな裸電球に変わった。


バスルームで1回、ベッドに移って2回。

エレンが言いたいのは、きっとそういうことだ。


一晩でこんなに回数をこなしたのは、後にも先にもない。

いやまあ、この先はどうだかだけど……。


「……疲れた?」

「少しね」


「ごめん……」

「いいわよ、たまには」


俺たちは、ベッドの中で言葉少なに会話をした。

ものすごく久しぶりってわけでもないのに、この気恥ずかしさはどうしたもんか。

俺たちはまるで初めてベッドインしたカップルのように、お互いに照れを含んだまま笑い合った。


仲直りの時はすごく燃える。

フローリアンの言葉に、嘘はなかった。



「ちょっと、いいですか?」

「エレンのことです」


エレンとレオの一件から、初めての出勤日を迎えた。

俺がレオに話しかけたのを見て、他の連中がおっという顔をしている。

周りに何と思われようとも、俺にはレオと話す必要があったのだ。


レオは相変わらず俺を無視して、ふいっとそっぽを向いただけだった。

それでもエレンの名前が効いたのか、俺が指定した屋上までやって来た。


「はっきり言います」

「今後一切、ああいうことは止めてください」


「あなたとエレンの間にあるものは、俺には到底入り込めないものだって分かってます」

「エレンがあなたを兄のように慕っていて、あなたも多分、同じ気持ちでいるってことも」


「……兄として、妹にキスするのは構わない」

「正直言うと、構わないこともないですけど……」


「俺が止めてほしいと思うのは、エレンを傷つけてほしくないってことです」

「あなたが俺を嫌うのは勝手だけど、それにエレンを巻き込んでもらっちゃ困るんです」


俺はまくし立てるようにそう言ったけど、意外に冷静だったと思う。

レオは腕組みをし、そんな俺をじっと見るだけだった。

顎を少し上げ、目を軽蔑したように細めて。


「じゃあ……今度またそんなことがあったら、どうしようっていうんだよ」


レオからこんなに長い言葉を掛けられたのは、おそらく出会って以来初めてだった。

相変わらず嫌悪感を丸出しにされていたけど、俺は構わずに言った。


「もしまた、気まぐれにエレンを傷つけるような真似をするなら」

「そん時は、俺だってただじゃ済ませない」

「あんたがエレンの兄貴だろうが何だろうが、そんなことは関係ない」


俺はいつになく、鋭い視線をレオに送る。

そうされても、レオは特にどうということもないみたいだった。

フンと鼻で笑うと、俺の横を通り過ぎて行ったのだった。


それでも俺は、どこかすっきりとした気分でもあった。

エレンが自分の気持ちを主張しないのと同じように、俺は俺で、誰かにそうすることは少ない。


自分をさらけ出さないことが円満への道だと考えていた節もあったけど、今はもう違う。

エレンに対しても、他の誰かに対しても、自分の考えていることには正直でいたい。

俺はまた、一歩成長出来たのかな……。

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