表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつかベランダできみと ~自分が嫌いなオオカミは年上美女の青い目で過去の呪縛を解かれるか?~  作者: エタミケイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/118

仲直り

フローリアンの助言を元に、とうとう部屋に帰る決心をしたロブ。

自分と仲直りしようとするエレンの気持ちを汲み取った彼は、エレンに正直な気持ちを告白することにして……。

前日に夜更かししたせいか、起きたら昼前だった。


俺より遅く寝たはずのフローリアンは、しっかり睡眠を取りましたというような清々しい顔で、ブランチをご馳走してくれたのだった。

俺は食事の後片付けを買って出ることで、何となく感じていた罪悪感を帳消しにした。


俺は今、何をすべきなのか。

それはもう、昨日のうちに分かっていた。

それでも俺の足は、真っ直ぐにうちへ向かってはくれないらしい。


エレンにあれだけのことをしてしまった手前、怖気づかずにはいられない。

フローリアンの部屋を出てからも、しばらくは街をぶらついた。


特にあてもなく歩いていると、偶然花屋に出くわした。

めちゃくちゃベタだよなと思いつつも、俺は店の中に吸い寄せられるように入っていくのだった。



部屋の鍵を持つ手が震える。

ガチャッという鍵の回る音が、やけに大きく聞こえた。

そっとドアを開けて中を窺う俺の手には、さっきの花屋で買い求めた、小さなブーケがあった。


入るや否や、エレンに出くわしたらどうしよう。

そんな心配は、取り越し苦労に終わった。

玄関はもちろん、リビングにもキッチンにも、エレンはいなかった。


昨日、俺が泣かせてしまった彼女が駆け込んだ寝室にも、その姿はなかった。

今日は土曜日だけど、仕事だったのか……?

そんなことを考えながら寝室のドアを閉めた時、微かに香るものに気付いた。


それに気付くと同時に、バスルームから水の跳ねる音が聞こえた。

どうやら彼女は、そこにいるらしい。


寝室からバスルームに向かう途中、手にしていた花束をキッチンのテーブルに置く。

そこにはジャガイモやニンジンといった野菜と共に、カレールウの箱も出してある。

彼女の気持ちに気付いて、俺はバスルームへと急いだ。


バスルームのドアの隙間からは、エレンが好んで使うバスオイルの香りが漂ってきている。

ヴァーベナというハーブのもので、すっきりとしたレモンのような香りだ。

ストレスや疲れに効くんだと、いつか彼女が教えてくれたのを思い出す。


俺はごくんと唾を飲み込むと、勢いよくドアを開けた。

突然のことに、バスタブに寄りかかっていたエレンがはっと身構えるのが見えた。

俺は何も言わずにずんずん進むと、彼女がいるその中に、服も脱がずにざぶりと飛び込んだ。


俺が座り込むと、バスタブの縁から盛大に湯が溢れ出した。

そんなことには構わず、俺は湯を両手ですくって顔を洗った。

濡れた顔を手で拭うと、正面にいるエレンを真っすぐに見た。


俺の突然の奇行に、エレンは目を真ん丸にしていた。

無意識に濡れた髪の毛をかき上げた手首に、昨日俺が付けたらしい指の跡が残っている。


「ごめん!」


俺が上半身を折り曲げて謝ると、バシャッとバスタブの湯が爆ぜた。

水滴に乗ってきたハーブの香りが、鼻腔を優しくくすぐる。


「……ロブ、あの」

「ごめん、先に言わせてほしい」


何か言おうと口を開きかけたエレンを、俺は手を上げて制止した。

エレンはバスタブにもたれるようにして、また体を湯に沈めた。


バスオイルを入れたバスタブの湯は、うっすらと白く濁っている。

傷跡のあるエレンの胸は、浮かぶようにしてそこにある。

半分湯の中に沈んだ彼女を胸を見るのが、俺は好きだった。


「まず、昨日はごめん」

「酔ってたのもあったけど……本当にひどいことしたと思ってる」

「謝っても許してもらえないかもしれないけど、本当に悪かった……」


エレンは相変わらずそのままの姿勢で、じっと俺のことを見ている。

彼女が何か言い出さないうちにと、俺は言葉を継いだ。


「レオときみがキスしたのを見て、本当にショックだったんだ」

「きみがレオのことを兄貴みたいに思ってるのは、もちろん知ってる」

「だけど、ずっとモヤモヤしてた」


「きみが嬉しそうにレオとのことを話す時、俺はずっと、寂しい気持ちでいっぱいだった」

「蔑ろにされてるなんて、そんな風には思ってない」

「だけど、何て言うか……きみには、俺だけを見ててほしいって言うか……」


「下らない嫉妬だってのはよく分かってるし、大らかになれない自分も嫌だ」

「だけど、どうしようもないんだ」

「どうしようもなく、あいつに嫉妬してしまう」

「俺が絶対に入り込めない何かを持ってる、あのレオに……」


「ずっと、それが言えなくて」

「今まで大変な目に遭ってきたきみが、やっと再会した家族と呼べる相手と会うのすら嫌だなんて」

「そんなこと、情けなくて言えなかった……」


「ごめん」

「ほんと、情けなくてごめん……」


言いたいことは、とりあえず言えた。

俺は肩を落とすと、湯から突き出ている自分の膝を見つめた。

まったく、言葉にしてみると、これ以上ないってくらい馬鹿だよな……。


「じゃあ、次はわたしね」


バスタブの中で姿勢を正し、エレンが口を開いた。

少し背を伸ばした時に、白い湯の中で柔らかな胸が弾んだ。


「昨日は……怖かった」

「いつも温厚なロブが、あんな風になるとは思ってなくて」


改めてよく見ると、彼女の首筋にも小さな跡がいくつか付いている。

昨日押し倒した時に、甘噛みしたのを思い出す。

胸がまた、ぎゅっと締めつけられた。


「でもね」

「そうさせてしまったのは、わたしのせいでもあったって分かったの」


「レオとあなたが上手くいってないのは、何となく分かってたはずなのに」

「あなたが彼と会うのを許してくれることに、ずっと甘えてたと思う」


「わたしはわたしで、彼との再会に舞い上がってたのね」

「たとえレオが本当の兄だったとしても、わたしが彼と会うことは、ロブにとっては嫌なことかもしれないって気付けたと思うの」

「ほんの少しでも、冷静になって考えてたとしたらね……」


「知ってたはずなのに」

「ロブなら、わたしのためを思って、嫌なことも我慢するんだろうってこと」


「あなたが何も言わないのをいいことに、わたしも気付かない振りをしてた」

「それで、あんなに追い詰めてしまった」

「謝らないといけないのは、わたしも同じなの……」


エレンは湯の中に滑り込むように、今度は姿勢を崩した。

バスタブの中で、俺たちの膝が付き合う格好になる。

それを見つめながら、エレンは続けた。


「それで今朝、またレオに会いに行ったの」

「何でキスしたのかは、聞かなかった」

「ただ、ずっと言えなかったわたしの過去について、彼に全部話したのよ」


「わたしが保健所を出た後、どうなったか」

「獣に飼われて、どんな目に遭わされたか」

「あまり表情には現れなかったけど、きっと彼もショックだったと思う」


「でもね、それでもわたしは、ロブが好きなんだってことも伝えたの」

「わたしの人生をめちゃくちゃにしたのは確かに獣だけど、それでも同じ獣である彼が好きなんだって」

「ロブはそれだけ、わたしにとって特別なんだって……」


体が火照る。

それは、バスタブの中にいるからってわけじゃない。

俺は今、彼女がどんなに自分を思ってくれているのかを、ひしひしと感じていた。


「わたしたち、お互いにちょっと間違えてただけなのよね」

「だからもう、これでおしまい」

「仲直り、出来る?」


乳白色の湯の中から、ゆっくりとエレンの手が浮き上がってきた。

ヴァーベナの澄んだ香りが移ったその手を、俺はぎゅっと握り返す。

それで俺たちは、ようやく仲直りが出来た。


「さ、いつまでも浸かってたらのぼせちゃうわ」

「今日の夕食って、何だと思う?」

「仲直りの印に、カレーを」


そう言いかけたエレンの口を、俺は自分の唇で塞いだ。

昨日は俺を拒否して固くなった体は、今はゆったりと預けられている。

やっていることは変わらないけど、比べものにならないくらい温かく感じる行為だった。


「カレーもいいけど……」

「もっと、別のやり方はどう?」

「試してみない?」


そっと彼女の頬に手を触れた俺の表情から、エレンはちゃんと察してくれたみたいだった。

片眉をちょっと上げて、意地悪そうに笑ってみせる。


「それも、いいかもね」

「ところで、いつまで濡れた服を着ているつもりなの?」


いつもの調子が戻ったエレンにそう言われ、俺は自分が服を着たままだったことを今さら思い出した。

昨日とは打って変わって狂おしいほどの昂りを感じながら、彼女の気が変わらないうちにと、俺は急いで服を脱ぎ捨てたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ