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ロブ、ベッドを買う?

ランチの時、フローリアンに家具屋を知らないかと尋ねたロブ。

彼は、エレンが寝るためのベッドを探していた。

そこには実は、言いにくい理由があって……。

「いきなりで何だけど、この街の家具屋でどこかいいとこある?」

「え?」

「何、藪から棒に」


体の調子も元に戻り、正式に復学してしばらく経った頃のことだった。

いつもの面々とランチに集まった学食で、俺は切り出した。


「家具って、何買うの?」

「……ベッド」

「何で急に……って、あー! そういうこと?」


フローリアンの目が、急にきらきらっと光を放った。

彼の思考回路は、おそらく間違った繋がり方をしているに違いない。


「あれでしょ?」

「彼女と寝るのに、もっと大きなベッドにしようってことでしょ?」


「違う」

「えー、違うの?」


フローリアンはつまらなそうな顔をしたけど、実は全くハズレというわけでもなかった。

エレンと寝るベッドじゃなく、()()()()寝るベッドが必要なんだよ。


「でもさ、どうせ新しいの買うなら、大きいのにしなよー」

「大きいに越したことはなくない? いつかは一緒に寝るでしょ?」

「フローリアン、ロブのヤツには一生無理かもしれねーぞ?」


フローリアンと話していると、遅れたチャドが姿を現した。

小脇に、授業のテキストを抱えている。


「無理って何だよ?」

「だーかーら、おまえみたいな根性なしには、メスと寝る機会はないってことぉー」


「何だと、ケンカ売ってんのか?」

「やーいやーい、根性なしの童貞やーい!」

「もう童貞じゃねーし!」


そう急き込んでから、俺はしまったと思った。

あっと思って口を押えても時すでに遅しで、友達2匹は目を真ん丸にしてこちらを見ている。


「……もう?」

「もう、って言ったよね?」


嫌な沈黙が辺りを包む。

それが急に弾けるように、2匹はわっと歓声を上げた。


「そうなの、そうなの!?」

「エレンとだよね?」

「ロブ、コノヤロー! とうとう致しやがったか!!」


俺はもう、何も言えなくなってしまった。

これは、俺が一番避けたいと思っていた展開じゃないか……。


「え、じゃあ、ベッド買うっていうのは?」

「やっぱり、一緒に寝るためじゃないの?」

「どうせそうなんだろ、素直に認めろ」


「だから、違うんだよ」

「何が違うの?」

「いや、実は……」


「何だよ?」

「つまり、その……俺が壊しちゃって」

「壊したって、何を?」


「だから、ベッド」

「ベッドって、きみの?」

「……エレンの」


んん? という顔をして、フローリアンはにわかには理解出来ないみたいだった。

それは、そうだろう。

フローリアンみたいな落ち着いたイケパカには、おそらく起こり得ないことだろうし。

こういうことをやるとしたら、おそらくそれは。


「ははーん、分かったぜ」

「つまりだ、()()()()()()()()おまえが、彼女のベッドをぶっ壊したってことだろ?」

「ん? 違うか?」


こういう時のチャドの直感力には、恐ろしい正確さがある。

まさしく、その通りだった。

俺が反論出来ずに黙っていると、フローリアンがぽかっと口を開けた。


「えー、そういうこと?」

「ロブがね……そうなんだ」


この草食獣の友の眼差しは、決して俺を軽蔑するようなものじゃなかったはずだ。

それでも俺は胸がギュッと締めつけられるのを感じ、思わず両手で顔を覆った。


「ほんと、自分でもどうかしてると思うんだよな」

「最近、チャド化の進行が止められなくて……」


「チャド化って何だよ」

「オレを病気みたいに言うんじゃねーよ」


チャドは憤慨した様子だったけど、これはもう、チャド化としか言いようのない現象だと思う。

エレンと初めて寝て以来、俺はどうにもダメだった。

何というか、彼女への気持ちが抑えられなくなってきている。

気持ちと言えば何だか聞こえはいいが、要は、()()()()()()が抑えられなくなってきているということに他ならない。


付き合うようになってからも数々のお預けを乗り越え、それでやっと結ばれた。

その期間に溜まりに溜まっていた何かが、一気に噴出しているといってもいいかもしれない。

それで先日、エレンの部屋に泊まった時にやらかしてしまったというわけだ。


元々、彼女の部屋に泊まる予定はなかった。

ただそういう雰囲気になってしまい、もちろん俺がという意味だけど、なし崩し的にそうなった。


彼女の小さいベッドは言うまでもなく、大きなオオカミが寝ることを想定して設計されているわけじゃない。

じゃあ、そこに大きなオオカミが乗って、かつ激しく動いたりしたらどうなるか?


もちろん、壊れる。

そして、壊れた。


バキッという音がして、左上の脚が折れたのだった。

睡眠中でこそなかったけど、行為中の前後不覚状態はそれに等しいと言える。

がくんと傾いたベッドの上、正確にはエレンの上で、俺は目をぱちくりするしかなかった。


「……最初にソファでしたのは、正解だったかもね」


ナイトウェアを羽織ってベッドを検分したエレンにそう言われ、俺は立つ瀬がなかった。

頭を床に擦りつけて、すみません、すみませんと、ひたすら謝り続けたのだった。


あの時のことを思い出すと、体中がぞわぞわと落ち着かない気持ちになる。

穴があったら入りたいとは、まさにこのことだと思った。


そういうわけで、俺はベッドを探していた。

エレンはマットを使うから必要ないと言ったけど、壊した俺としてはそういうわけにもいかなかった。

ちょっと座って壊れたならまだしも、あんなガツガツした感じで壊したんだから……。


「まあ何にせよ、深刻そうだね」

「ベッド壊すとか、どんだけガッついてんだよ」

「これだから、()()は困るよなぁ~」

「しーんーそーつーはぁ~~」


どれだけチャドにねちっこくイジられようとも、今は耐えるしかない。

これは、欲に溺れてエレンのベッドを壊した、俺への天罰だといっても過言じゃないのだから……。

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