ノワールのサイト
インターネットで手掛かりを探していたロブは、とあるサイトにたどり着く。
それは【ノワール】という管理人によるもので、そこでロブは、ある有力情報を手に入れて……。
そのサイトはバックが黒一色で、やたらに細かい白抜き文字が画面を埋め尽くしていた。
右上には、サイトの管理者として【ノワール】という名前が挙げられている。
『少し前まで金持ちの家で雑用してたんだけど、そこのヤツがちょっとヤバくてさあ』
『どうも人間の女を飼ってて、それで毎晩お楽しみらしいのよ!』
今年に入ってから書かれた記事は、こんな書き出しで始まっていた。
ヤバいという金持ちの家で働いていた彼は、そこでの情報を流す【闇の情報屋(笑)】を名乗っていた。
こんなやつを雇う金持ちとやらも低俗だし、こいつ本体も言うまでもなくそうだ。
自然と苦虫を噛み潰したような顔になりながらも、俺は記事を読み進めた。
『やるだけじゃ飽き足らず、めちゃくちゃしちゃってるらしーんだよな』
『めちゃくちゃって、どういうことかって?』
『言っちゃっていいのかな、これ? オレ、消されちゃうかもー(笑)』
『女とただヤるんじゃなくて、暴力も振るっちゃってるっぽいよ』
『殴ったりなんかは、序の口だろうねー』
『お楽しみ部屋の片付け言いつけられて、中に入ったら血まみれー』
『雑用係のオレ、乙!』
『ほんと、金持ちの業は深いわ』
『金がありゃ、何やってもいいと思ってるもんね』
『とか言うけど、オレもそういうの嫌いじゃないんだけども!』
『昔読んだんだけど、痛めつけられながらスると、女も結構クセになるらしーよ』
『自分から、お願いしますって頼むんだって』
『キャー、ウラヤマチィーーッ!』
俺は急いでバスルームに駆け込むと、トイレに屈み込んで嘔吐した。
エレンがせっかく作ってくれたカレーは、何の役にも立たずに俺の体から押し出された。
咳込みながら、洗面所で口をゆすいで顔を洗った。
鏡に映る俺は、ライムの言う通り酷い顔をしていた。
ふらふらとした足取りで食器棚からグラスを取り出し、そこに水道の水を注いだ。
それを傍らに置いて、俺は再びパソコンの前に座る。
『よければ、感想聞かせてね!』
やつのプロフィールの下には、そんなお決まりのフレーズが書かれている。
そこからメールフォームに飛べるようになっていたので、俺はキーを打った。
『初めまして、ノワールさん』
『サイト、見させていただきました』
『俺はオオカミなんですが、前々から人間の女っていいなと思ってたんです』
『ノワールさんの記事読んで、とても興奮しました』
『もっと、他の情報はないですか?』
『Rより』
俺は、特別に想像力の逞しい方じゃないと思う。
それでも、もし自分がとんでもないクソ野郎ならこう書くんじゃないかと考えて、ノワールに感想のメールを送ったのだった。
ほどなくして、返事が送られてきた。
『初めまして、Rさん』
『メールありがとね、サイトも楽しんでもらえて何よりだよ』
『やっぱ、こういう情報って需要あるよね?』
『みんな人間と共存しましょうなんてスカした顔してやがるけど、心の中ではあいつらのことなんてゴミ程度にしか見てないんだよね』
『自分の欲望に忠実なRさんは偉いよ! スゴイスゴイ』
どうやらノワールは、とんだ間抜けらしかった。
一体どんな顔して、持論を展開してるんだ?
同胞を見つけた喜びに鼻息を荒くしているやつを思うと、俺は口の端に笑みすら浮かべてしまう。
『他の情報ってのは、人間の女をヤれる場所ってことでいいのかな?』
『そうだねー、基本的に風俗に行けばまずヤれるよ』
『獣の店みたいに本番がどうとか、人間の女たちはうるさいこと言わないからね』
『言わないってか、言えないんだけど(笑)』
返事は、そこで終わっていた。
俺の得たい情報については、全く書かれていない。
俺は舌打ちをすると、再びキーボードに向かって返事を書いた。
『俺が聞きたいのは、ノワールさんが働いてたっていう金持ちの家の話です』
『部屋が血まみれになるなんて、どんなプレイだったのか興味あります』
このメールへの返事は、さっきよりももっと早かった。
きっと、俺からの反応を画面の前で待ち焦がれていたんだろう。
クソッたれの変態野郎が。
『Rさん、がっつき過ぎー(笑)』
『もう、我慢出来ないよーって感じなの?』
『焦らすようで悪いけど、ちょっと提案があるんだ』
『オレ達、一度会ってみない?』
『異常性癖同士、親交を深めようよ』
この提案に、俺は思わず目を丸くした。
いっそ会った方が手っ取り早そうだと考えた矢先に、向こうからほいほいと提案してくるとは。
呆れるを通り越して、笑えてくる。
『そうしましょう』
『俺はウエストシティーに住んでるんですが、ノワールさんはどこですか?』
『会う場所は、決めてもらって大丈夫です』
『お話を聞けるのを、楽しみにしています』
ノワールからの返事を待たずに、俺はパソコンを閉じた。
ものすごく疲れた。
イカレたやつに合わせるのも、イカレたやつを演じるのも。
あんなクズでも、エレンの失踪と繋がりがないとは言えない。
人間の女を飼う金持ちというのが、どこかエレンを痛めつけていたライオンと重なっていた。
根拠は、ない。
ただ、今の俺にはこうすることしか出来ない。
もしかしたら全て無意味に終わってしまうかもしれないけど、それでもやってみるしかない。
彼女を取り戻すためなら、どんなクソ野郎だって演じてやるつもりでいた。