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エレンの誕生日

エレンの誕生日を祝うため、その準備に忙しいロブ。

モテアルパカのフローリアンに、女の子の誕生日に何をあげたらいいのかリサーチするも……。

エレンの誕生日を祝う準備として、まずは手始めにケーキを探すことから始めた。

ホールケーキは華やかでバースデーにはぴったりだけど、俺と彼女だけでは食べきれない。

小さくても存在感があって、それでいて、彼女が喜んでくれそうなものじゃないといけない。


「女の子が好きそうなケーキ?」


俺が助言を求めたのは、もちろんフローリアンだ。

間違っても、チャドには頼まない。


「そうだねー、この街なら【カフェ・アリス】のがおすすめかなぁ」

「あそこのブラックチェリーが載ったタルト、カットは大きいけどさっぱりしてて美味しいよ」


「女の子のバースデーって、緊張するよね」

「僕も最初はドキドキだったもん」


「でもね、一番大切なのは、喜ばせたいっていうロブの気持ちだと思うよ」

「エレンは大人だし、きっとその気持ちに気付いてくれるよ」


フローリアンは、完璧な助言を俺に与えてくれた。

持つべきものは、モテまくりの紳士的なアルパカだ。

下ネタ好きのユキヒョウも友達としては悪くはないけど、こういう時に頼る気は起こらない。


ケーキは何とかなりそうな目途がついた。

しかし、やるべきことはもう一つある。


誕生日といえば、忘れてはならないのがプレゼントだ。

こちらも、ケーキの件と併せてフローリアンからリサーチしておいた。

アクセサリー、スイーツ、服、アロマグッズ、靴、鞄、高級ホテルでのディナーなどなど。


スイーツはケーキを買うから除外、エレンの部屋で会うからホテルディナーも除外だ。

エレンはアクセサリーをほとんど付けないし、アロマってイメージもない。

服、靴、鞄などに至っては、何が欲しいのか分からないので難しそうだ。


「……裏技的なものとして、ランジェリー関係っていうのもアリだよ」


別れ際に、フローリアンが耳元で囁いた。

相手へのプレゼントでもあるし、結果的に自分へのプレゼントにもなるんだけどね、と付け加えて。


彼女の艶めかしい姿を想像してみようと思ったけど、脳が拒否して出来なかった。

何より、童貞の彼氏に下着をプレゼントされても気味が悪いだろうと思い至り、これも却下にした。


俺は迷った挙句、本という新たな選択肢を見つけた。

物語には好みがあっても、写真集なんかはいいかもしれない。

幸運なことに、それを探すのに打ってつけの場所はすぐ傍にある。



「女の子が好きそうな写真集ねえ」


ヒヒ爺さんは真冬の寒さも何のその、相変わらずヨレヨレのランニングを着、右手をズボンの中に入れている。

股間を掻きながら、考えを巡らせているようだった。

彼があの手で触れた本をうっかり買ってしまわないように、くれぐれも注意しないといけない……。


「おまえさんも、ずいぶん色気づき始めたのう」

「ほっほっほっ」


余計なお世話だ。

そうは思ったけど、口に出すのは止めておいた。


「これなんかどうじゃ」

「発情中のメスにはぴったり」


【今熱い体位はこれだ!彼氏におねだりしたい48のポーズ~オールカラー写真付き~】


俺は、発情中のメスに渡すプレゼントとは一言も言ってない。

爺さんが皺くちゃの手で差し出した本を見て、彼に頼ろうとしたのはやっぱり間違いだったと気付いた。

気を抜くと、つい舌打ちまでしてしまいそうだ。


「……自分で探します」


年中色ボケしている爺さんから、これ以上いい案が出て来るとは思えなかった。

俺は、自分で棚を物色し始める。


本はどうかと思いついた時には、我ながらいいアイデアだと思ったのに。

いざ探し始めると、本のプレゼントもまた難しい。


女子(おなご)への贈り物を探す一番いい方法はの」

「相手に聞くのが一番じゃ」


「そりゃそうでしょうけど……俺はサプライズがしたいんです」

「中身が分からない方が、プレゼントはわくわくするものでしょ?」


「バカモン」

「これだから、若いもんは……」


ヒヒ爺さんは、ハアーーッと長い溜息を吐く。


「直接聞くということではないぞ」

「おまえさんの中にいる、相手に聞いてみろということじゃ」

「俺の中の彼女……?」


また始まった。

意味があるのかないのか、この爺さんは急にもっともらしいことを言い出すから困る。

俺の中のエレンに聞くって、どういうことだ?


頭の中に、彼女を思い描いてみる。

ぼーっと視線を移した先にある窓からは、雪がちらついているのが見えた。


俺の頭の中で、何かが小さく弾けた。

それは、まだはっきりとはしていない、アイデアの種かもしれなかった。


その類の本があるのは、この棚だ。

俺は何冊かの本を手に取って眺め、やっとこれだという1冊を見つけることが出来た。

ぱっと顔を輝かせた俺を見て、ヒヒ爺さんは満足そうに頷いていた。



ついに、その日がやって来た。

俺は服装に悩みつつも、結局いつも通りのラフな格好に決めた。

変にバシッと決めるのも、何だかおかしい気がしたからだ。


エレンとは、18時に会う約束をしていた。

彼女の部屋に向かう途中で、【カフェ・アリス】でケーキを買う。

フローリアンおすすめの、ブラックチェリーが載ったタルトを2つ。


「いらっしゃい!」

「寒かったでしょ、さあ入って」


荷物を手に現れた俺を、エレンは部屋に招き入れる。

ここに来るのは、今日が3度目だ。


ケーキを受け取るとありがとうと言って、彼女はにっこりと微笑んだ。

この顔を見られただけでも、ケーキを買った価値はあるってもんだ。


「かんぱーい!」


エレンが用意したシャンパンで乾杯し、食事が始まった。

大したものは作ってないと彼女は謙遜したけど、料理はどれも美味しくてつい食べ過ぎてしまう。

ケーキの入る余裕があるか、心配になるくらいに。


食事の後、彼女の淹れてくれたコーヒーとケーキを食べることにした。

ハッピーバースデーの歌でも歌おうかと思ったけど、エレンがすぐにケーキを食べ始めたので止めた。


「はい、これ」

「え?」


俺は、花柄の包装紙に包まれたプレゼントを手渡す。

【ヒヒ・ブックス】はプレゼント包装なんてしてくれないから、俺が自分で包んだものだ。

決して上手いとは言えないけど、それなりには仕上がったと思う。


「プレゼント?」

「うそ、ありがとう……」

「開けてもいい?」


ロッテは開け口を確認し、ゆっくりと包みを開き始めた。

きっと彼女はドキドキしてると思うけど、同じくらい俺も緊張していた。

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