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いつかベランダできみと ~自分が嫌いなオオカミは年上美女の青い目で過去の呪縛を解かれるか?~  作者: エタミケイ


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そんな誰か

帰省を終えて街に帰るロブを、駅までエディーが送ってくれた。

列車を待つ間、ロブは彼に、あの事件以来抱えていた気持ちを打ち明ける……。

駆けつけた大人たち中には、俺の母親も混じっていた。

いつになく険しい表情をしていた彼女を、妙によく覚えている。


後処理はひとまず他に任せ、母さんは俺の手当てに取り掛かった。

車に乗せられ、村の診療所で傷の手当てを受けた。

縫うほどの傷じゃなく、包帯を巻かれるだけで済んだのは運がよかった。


診療所からの帰り、車を降りたところで俺は嘔吐した。

母さんは俺に何も聞かなかったし、俺も何も言わなかった。

それから高い熱を出して、2日間寝込んだ。


トムとその母親は、それからどうなったか。

彼らは、村を出て行くことになった。


村の面々は、トムたちに差別感を抱いていたわけじゃなかった。

それでも、人間が獣を傷つけたとなれば話は別だった。

ホテルのオーナーは、申し訳なく思いつつも彼らを追い出すことになった。


それからの彼らがどうなったかは、もう誰にも分からなかった。


*****


俺がふーっと吐き出した息は、白い雲のように束の間漂っていた。

それも風に揉まれて、すぐに消え去った。


寒さを感じて、思わず身震いする。

少し、体を冷やし過ぎたかもしれない。

帰省中に風邪を引いたなんて馬鹿らしいので、さっさとうちに帰ることにした。



1週間の帰省も終わり、年明けに俺はまた街に帰ることになった。

相変わらずの雪だったけど、駅までエディーが運転手役を買って出てくれたので助かった。

万一のことがあってはいけないので、ララとはうちで別れた。


「ロブ、ごめん」


ホームで並んで列車を待つ間に、エディーがぽつりと呟いた。

見ると、とてもばつの悪そうな顔をしている。


「何、どうしたの?」

「いや、この前の話」


「何で人間を選んだんだよってやつ」

「ああ……」


「後でララに怒られたよ」

「あんなこと、言うべきじゃなかったって」


その時のことを思い出したのか、エディーは苦笑いして頭を掻いた。

彼は、日常のあらゆることでララに頭が上がらないんだろう。


「気にしてないよ」

「悪気があって言ったんじゃないのも、ちゃんと分かってる」

「さすが、ロブくん」


ちょっと茶化したエディーは、それでも少しは安心したみたいだった。

列車は、もう5分ほどで着くはずだ。

俺は一度唇をつぐんでから、彼に言った。


「あの時も言ったけど、俺、別に人間が嫌いになったわけじゃない」

「あの事件がきっかけで俺が誰かを憎んだり嫌いになったりしたとしたら、それは俺自身なんだ」

「え?」


「ナイフを振りかざしたトムは、もちろん怖かった」

「でもそれ以上に、簡単に誰かを傷つけてしまう自分が怖かったんだ」


俺は、自分の手の平を見つめる。

それがトムに切られた右手だということは、エディーもよく知っている。


「だから俺は、なれるものなら俺以外の誰かになりたかった」

「傷つけられても傷つけたりはしない、そんな誰かになりたかったんだと思う」


「それは今でも変わってなくて、やっぱり自分て嫌だなって思うこともあるんだ」

「そんな俺を、ありのままで受け入れてくれたのが彼女だった」


「エレン……さん?」

「うん」


「傷つけたのも仕方なかった、気に病むことはないって」

「苦しい気持ちを、半分引き受けるとも言ってくれた」

「人間である彼女に受け入れられたことで、俺は少しは救われたんだ」


しばらくの沈黙。

列車が来ることを伝えるアナウンスが、寒空の下に響く。


「……ま、オレたちが心配することはなさそうだったな」

「ぞっこんなんだろ?」

「さあ、どうかな……」


俺は、答えをはぐらかした。

もちろん、本当のところどうなのかは、自分が一番よく知っている。


街への特急が、ホームに滑り込んで来る。

次は夏に会おうと、エディーは手を振った。

子どもが生まれたら、きっと知らせるとも。


街に着いたら、エレンに電話をしてみよう。

バッグの中には、彼女への土産もある。

ふとスマホを取り出したら、彼女からメッセージが届いていたのに気付く。


『新年おめでとう』

『そちらはどう?』

『昨日は、こっちでも雪が降ったのよ』


彼女らしい、飾らない文章。

ふっと、口元が緩む。


返事を返そうかとも思ったけど、俺は思い切って電話をしてみた。

3度目のコールの後、エレンは電話に出た。


『もしもし、ロブ?』

「うん……あの、新年おめでとう」

『おめでとう』


『メッセージ見た?』

「そっちでも雪が降ったんだって?」

『ほんの少しだけだったけどね』


村には掃いても捨て切れないほど雪があって、それでも毎日降り続いていたと言うと、彼女はおかしそうに笑った。

他愛ないお喋りが、心に温かく滲みる。


「よければ、近いうちに会わない?」

「お土産もあるし」


自分でも驚くほど、さらっと誘いの言葉が出て来た。

そうねと、エレンも快く応じてくれた。


電話を切った後、俺は座席にゆったりと座って窓の外を眺めていた。

彼女とは、明後日に会うことになった。

窓に現れては消えてゆく風景を見ながら、俺は満たされていた。

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