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いつかベランダできみと ~自分が嫌いなオオカミは年上美女の青い目で過去の呪縛を解かれるか?~  作者: エタミケイ


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ノヴフェストとロブの告白

ウェストシティーカレッジで最も盛り上がるイベントが始まった。

ロブはエレンを誘って、ノヴフェストを回る。

最終日の夕方、ロブはエレンに……。

11月初め。

大学生活1年間で一番盛り上がるイベント、2日間に及ぶ本学祭のノヴフェストが始まろうとしている。


「イエーイ、盛り上がっていこうぜぇ~~」

「ロブ、今回は倒れんなよ!」


いつもテンション高めのエリオットさんは、今日も絶好調だ。

来年4年生になる(予定の)彼は、今年こそ楽しみ納めと考えてるみたいだった。

4年生になれば卒業論文のこともあるし、11月に就職先が決まってなかったらノヴフェストどころじゃないかららしい。


俺とエリオットさんは、今回も店を出すことにした。

9月末くらいからゆっくりと考え始め、クリスマスのスワッグを売ることに決めたのだ。



「スワッグ?」

「これ何ですか? 可愛いー」


学祭が始まって間もなく、早速何匹かの獣が足を止めて店を覗いていく。

針葉樹の葉を他の飾りと束ねたスワッグはしかし、気にはなっても何かは分からないみたいだ。


「スワッグっていうのは、壁飾りのことなんです」

「クリスマスシーズンに、ドアに飾ってもおしゃれですよ」


俺の説明に、じゃあ買おうかといくつかが売れた。

スワッグは俺の提案だったから、素直に嬉しい。

冬の帰省の時に実家に掛かっていたのを覚えていて、それをヒントにしたのは正解だったな。


「売行きいいじゃん」

「この調子なら、オレは安心してエンケンを去れるよ……」


客の応対が途切れた時、エリオットさんは妙に真面目くさった顔でそう言った。

サークル活動は、基本的に3年生までになっている。

たった1匹きりの先輩でありメンバーである彼がいなくなるのは、俺も寂しい。


そして同時に、不安だった。

俺は、ちゃんとエンケンを引っ張っていけるんだろうか。

新入部員の勧誘で、春は大忙しになりそうだな……。


「お疲れさま」

「どう、流行ってる?」


少ししんみりとした雰囲気を打ち破ったのは、エレンだった。

厚めの上着は深い緑色で、ロングブーツの中にジーンズの裾をたくし込んでいる。

髪は上の方で、丸くまとめていた。


彼女の私服姿はずいぶん見慣れたと思ってたけど……。

正直言って、かなり可愛い。


「こっちはひと段落してるし、先に休憩行って来いよ」


ニヤッと笑ったエリオットさんは、肘で俺を小突く。

今回の学祭では、暇を見て交代で休憩時間を取ろうということにしていた。


「ありがとうございます」

「じゃあ、お先に……」


エリオットさんの厚意に甘えて、俺は先に休憩を取ることにした。

エレンは、俺の準備が出来るのをテントの外で待ってくれている。


エリオットさんには、彼女と付き合っていることは言っていない。

彼もエレンを知ってるけど、わざわざ報告するのもおかしい気がしたからだ。

それでも、先輩はどこかで分かってくれているみたいだった。



「わたし、大学って初めて」

「こんなにたくさん、獣がいるのね」


俺の隣を歩きながら、エレンはいろんなものを興味深そうに見ていた。

ノヴフェストには学生や大学関係者だけじゃなく、近隣に住む獣もやって来る。

お年寄りから子どもまで、様々な年齢層がいる。


「気に入った?」

「うん、楽しい」


にっこりと俺に微笑みかける彼女に、表情がだらりと崩れそうになる。

ヘラヘラしたい気持ちをぐっと抑え、俺も行儀のいい笑顔を返すに留める。


獣の群れに視線を戻した時、その一角にボック先生の姿を見つけた。

大学のスタッフらしき獣たちと、飲み物を片手に談笑している。


そんな教授の姿を目で追っていると、彼もまた、俺に気付いたみたいだった。

軽く片手を上げて、穏やかな顔で微笑んだ。

俺も手を上げて応じると、またエレンと歩き出す。


「知ってる獣?」

「うん」

「俺が歴史学習ってる先生なんだ」


そういえば、今まで大学のことはあまり話していなかった気がする。

歴史学? と言いたそうなエレンに、俺はかいつまんで説明することにした。


「歴史学っていうのは」


俺は道すがら買い求めたコーヒーを、彼女に手渡しながら言った。


「今までに習った一般的な知識を元にして、歴史ってものを自分なりに読み解いて再構築していくための学問なんだ」

「もしかしたらそこには、事実と違うって感じることもあるかもしれない」

「そういうものに出会いたくて、史学科に入ったのかもしれないな……」


そう、俺は、獣と人間の歴史について学び直したかった。

世間一般で言われる人間という存在は、本当にそうあるものなのか。

これほどまでに生き辛くなるようなことを、人間は本当にやったのか。


トム、そしてエレン。

きみたちは、どうしてそこまで蔑まれなくてはいけないのか……。


「ふーん」

「何だ、ちゃんと大学生してるのね」


「え?」

「ちゃんとって何、ちゃんとって?」

「俺、そんなに遊んでるように見えてた?」


「そういうわけじゃないけど」

「園芸ばっかりやってるんだと思ってた」


コーヒーを片手にクスクスと笑う彼女に、俺はわざと膨れてみせた。

彼女もまたわざと意地悪そうに笑って、俺の先を行く。


何だこれ……。

めちゃくちゃ楽しいぞ。


1時間ほどエレンと学祭を回って、俺はエリオットさんと交代した。

俺がいない間もスワッグの売行きはよく、今日の分は売り切れそうで安心した。



ノヴフェスト2日目も、俺とエレンは一緒に過ごした。

学祭を彼女と回る楽しさを、俺はここぞとばかりに噛み締める。

幸い、うるさいチャドと出くわすことがなかったのもよかった。


この日は、大講堂で行われる演劇を見に行った。

素人のやることながら、演劇部の舞台はとてもよかった。

劇場に行ったことがないというエレンも、すっかり演劇部のファンになったみたいだった。


スワッグは、午後早いうちに売り切れた。

店を片付けて、俺とエリオットさんはひとまず解散することになった。

ノヴフェストの閉会イベントをエレンと見られるようにと、彼が気を遣ってくれたに違いない。


セレモニーの行われるステージの周りは、とても混み合っていた。

プログラムを見ると、どうやら何かイベントがあるみたいだった。


「何か始まるの?」

「えーと……公開告白ショーだって」

「何それ」


俺もよく知らないけど、プログラムによると、それはノヴフェストの恒例行事らしかった。

ステージ上で何匹かの獣が告白をし、相手からOKをもらえばカップル成立。

大学生が盛り上がりそうなイベントだ。


俺もエレンも、他のやつの恋路に興味はなかった。

熱気を帯びつつある群れから離れ、俺たちは構内のベンチに腰を下ろす。

ステージから離れても、イベントの興奮は十分伝わってくる。


「疲れた?」

「わたし? そんなことないけど」


そうは言ったけど、エレンは少し疲れているように見えた。

無理もない。

あれだけの獣の中、人間は彼女だけだ。

どうしても、好奇の目の晒されてしまう。


その一方で、俺には思う所があった。

それは、獣たちの視線が、思ったほど悪意のあるものではないということ。

珍しがって見られるのも、エレンにしてみれば愉快なことじゃないはずだけど……。


もしかしたら、一般に考えられているほど、人間の評判は悪くないのかもしれない。

何となくそういう風潮になっているだけで、両者の間には隔たりなんてないのかもしれない。


獣の俺がそんな風に考えるのは、上から目線のような気もした。

だからエレンには言わなかったけど、俺はどこか救われたような気持ちになっている。


「ステージ、すごく盛り上がってるわね」


ワァーッという歓声が、風に乗って運ばれてくる。

告白が成功して、カップルが成立したのかもしれない。


告白。


不意に彼女の手を取った俺を、エレンが見上げる。

俺は視線を泳がせないように注意しながら、彼女を見つめる。


「エレン」

「何?」

「俺、きみのことが好きだ」


タイミングよく、また歓声が聞こえた。

耳に届いたのが、落胆の声じゃなくてよかった。


「ロブ……どうしたの、急に」

「どうしたのっていうか……ずっと言えてなかったし」


「言わなくても通じてる部分はあると思うんだけど、はっきりと言葉で伝えたかった」

「好きだよ、エレン」


たどたどしく今さらな告白に、俺の年上の彼女は目を細めて笑った。

わたしもよとでも言うように、正面から俺にぎゅっと抱きついた。


夜の始まりの下にあるベンチの上で、俺たちはしばらくじっと抱き合っていた。

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