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番外編①レオの憂鬱ざる憂鬱

番外編その①


ある日のレオは、ロイとエレナのバースデーパーティーに招待される。

ロブに対して複雑な心境を抱く一方で、レオは2匹の子どもに妙に好かれていて……。

「レオおじさんっ!」

「おじさーーーん!」


ドアを開けるや否や、2匹の丸っこくて黒い塊が脚にまとわり付いてきた。

今日はロイとエレナの誕生日会をやるとかで、俺はエレンから来るように言われていたのだ。

柄にもなく、ファンシーな模様の付いた包装紙の包みを手にして。


「ほらほら、レオおじさんをお部屋に案内してあげてよ?」

「はーーい」


エレンがキッチンから声をかけると、2匹は俺をソファまで引っ張っていく。

エレンの髪と同じ真っ黒な毛をして、同じく彼女譲りのブルーの瞳を輝かせている。


エレンがロブと結婚し、あいつらの間に子どもが生まれた。

人間と獣の間にどんな者が生まれるのか考えるとおぞましかったが、蓋を開けて見れば、真っ黒のチビオオカミ2匹が出て来ただけだった。

俺はエレンの兄という設定に戻り(戻るというのも変な話ではあるが)、チビたちの伯父というポジションに収まった。


「あー、ほら、これ」

「誕生日のプレゼント」


俺が包みを手渡すと、2匹は包みを頭上に抱えてそこらをグルグルと走り回る。

エレンに礼を言うように言われ、2匹とも行儀よく頭を下げた。


「レオ、ありがとう」

「ん」


俺はロブからそう言われ、何だかむず痒い。

エレンがこいつと結婚するという報告をしてきても、俺は何とも思わなかった。


かつて俺は彼女にキスをし、それで彼らの仲がこじれかけたこともあったみたいだ。

でもそれは彼女に妹以上の感情を抱いていたからというよりは、単に、オオカミのヤツをからかってやろうという気持ちからだった。


だから、彼女が誰と結婚すると言っても、別に胸が痛むわけじゃない。

ただその相手がロブとあっては、多少の気まずさを感じずにはいられなかったわけだが。


そして今こいつらの間には子どもが生まれ、俺は子どもの伯父になった。

必然的に、ロブとも顔を合わせる機会が多くなる。

あいつを憎むほど嫌いってわけじゃないけど、好き好んで会いたい相手でもない。

今俺が置かれているこの状況は、憂鬱と言えば憂鬱だ。


「ぼく、おじさんのとなりに座る!」

「ロイばっかずるい、あたしもあたしもーー」


どういうわけか、俺はこの2匹にやたらと好かれている。

特段甘やかしているわけでもないのに、たまにしか来ないせいか、会えばべったりという有様だった。


2匹に囲まれている俺を、エレンが微笑んで見ている。

長生きはしてみるものよね。

そんな風に言われている気がした。


今でも忘れることのない、収容所での日々。

あそこでの生活、そして、そこから逃げ出したあの雪の日。


あの日もし、収容所の奴らに捕まっていたとしたら?

俺は座り心地のいいソファで、こんな小さなオオカミたちに囲まれてはいなかっただろう。


「ロイ、エレナ!」

「もうお食事だから、手を洗ってテーブルにおいで」


エレンにそう言われ、チビたちは跳ねるようにしてバスルームに消えた。

やがて手をロクに拭かないまま戻って来て、エレンに叱られる。


おじさーんと逃げるように、俺の足元にまとわり付くチビたち。

今ここにいる時間も、案外悪いものではない。

憂鬱ではあるけど、思ったよりは憂鬱でもない。


つい、口元が緩む。

俺は2匹の頭をぶっきらぼうに撫でてやるのだった。

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