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再び

エレンとの束の間の再会を経て、ロブは前よりも前向きになることが出来た。

そんな彼の元に、ドミニクが予想だにしない事態を知らせにやって来て……。

羊に変装したエレンと会えたことは、俺の中に大きな変化をもたらしてくれた。

事態は未だ進展せずにそこにあり、俺たちがまた一緒に暮らせる目途はまだ立っていない。


それでも俺は、塞ぎ込むことがだいぶ減ったように思う。

エレンも俺と同じように、俺を恋しがっていることが分かったのが大きかったのかもしれない。

自分だけが苦しい思いを抱えていた気がしてたけど、それは彼女も同じだった。


今俺に出来ることは、一刻も早くトムを見つけ出すことだ。

そして彼との間のわだかまりを解消する。

それが可能かどうかは、実際のところ分からない。


ブーッとスマホが震え、俺はそのメッセージを見て溜息を吐いた。

それを見たシローさんが、俺を肘で小突く。


「エレンちゃん?」

「会いたいよーって?」

「いえ、実家の母です」


季節は冬になっていて、母親からはたびたび帰省の催促じみたメッセージが届くようになっていた。

先週に続き、これで3回目だ。


「えー、ロブってマザコン?」

「違いますよ!」

「前にエレンを紹介して以来、うちの母親、何か舞い上がっちゃってて」

「冬は帰って来るのかってことなんですけど、ほんとのとこ、俺よりもエレンに会いたいってことなんです」


「ははは、いいじゃねーか」

「大切だぞ、自分の母親と彼女の相性ってのはさ」

「オレの彼女なんか、だいたいいつもお袋と折り合いが悪いんだもん……こっちは板挟みだよ」

「あー、それも困りますね……」


そんな他愛もない話をしていた時だった。

オフィスのドアを勢いよく開け、ドミニクが飛び込んできた。


彼は何も言わず、まず真っすぐに俺を見た。

その瞳に宿る色が、何かとんでもないことが起きたことを知らせていた。



『こちら、イーストシティーのブラウンです』

『えー、現在警察や消防が現場に集結し、事態の収拾を図っている模様です』


TV画面の上下にはブレイキングニュースを表す帯が現れ、隣町のショッピングセンターの様子が映し出されていた。

現場にいるというウマのレポーターの後ろには、いつも買い物客で賑わっているはずの、シティーショッピングセンターのエントランスがあった。


今そこにいるのはショッピングに心躍らせている買い物客ではなく、物々しい装備に身を固めた、警察の特殊部隊や消防士たちばかりだった。


「かれこれ1時間前だ」

「警察本部に、イーストシティー、隣町のシティーショッピングセンターに爆弾を仕掛けたっていう電話があってな」

「電話の相手が言う場所を探したら、本当に爆弾が仕掛けてあったらしい」


「客は?」

「うちも突入するんですよね?」


深刻な顔をして、ミカエルはTVに視線を送ったまま尋ねた。

ドミニクがみんなを集めて状況を説明しているところを見ると、十中八九、そういうことになるはずだ。


「取り残された客数は完全には把握出来ていないそうだが数十匹、逃げおおせた者によると、2階フロアの一角に囚われているらしい」

「犯人はある交換条件を出している」


交換条件?

みんなはそちらに関心を向けたけど、俺はそうじゃなかった。

ドミニクが言ったたった一言の中に、俺はすべてを見た気がした。


「ドミニク……今、犯人って言いました?」

「つまり、今回の騒動を起こしているのは、人間ってことですか?」


「……その通りだ、ロブ」

「そしてその犯人は、ショッピングセンターの客と交換に、おまえが現場に入ることを指示している」

「彼は自分を……」


「トム、だと?」

「彼は、そう名乗りましたか?」


いや、相手はトムなんてやつじゃない。

ドミニクがそう言ってくれるのを、俺はどこかで期待していたと思う。


「……ああ」

「オレはトムだ、ロブを連れて来いとのことだよ」


おおよその事情はみんな知っていても、詳しいことを知っているのはムースとドミニクだけだった。

みんなの視線が、今度は俺に集中している。


来るべき時が、最悪の形で整ってしまった。

爆弾魔がトムであり俺を指名している以上、行かないという選択肢はなかった。

ただそこに、さらに悪い知らせが重なる。


ドミニクが俺をどう行かせようかと頭を捻る中、スマホが鳴った。

画面にはいつ振りか、フラワー・ベアンハルトの文字が浮き出ている。

俺はエレンじゃないかという気がして、咄嗟に電話に出た。


「もしもし?」

『ロブくんかい? ベアンハルトだが……TV見たかい?』

「ショッピングセンターの件ですが?」


『そ、そうなんだ』

『実はね、エレンがまだあそこにいるかもしれないんだよ!』

「え!?」


『仕事で使う材料が必要になって、彼女にお使いを頼んでね』

『いつもの店に品物がなかったから、ショッピングセンターまで足を運んでみるって電話があって……』

「そんな……」


電話を耳に当てたまま、俺はTV画面に釘付けになった。

いつ爆発してもおかしくない火薬庫のような場所に、今、エレンがいるって?

電話口ではベアンハルトさんがまだ何か言っていたけど、俺の耳にはその声は届かなかった。

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