こぐまのウーフー②
小グマの世話に疲れ果てるロブだったが、当初の予定通り、エレンと長い夜を楽しもうと試みる。
いよいよという時に、彼はベッドの中である物を見つけて……。
「大丈夫?」
ソファにぐったりと寝そべる俺に、エレンがグラスに入った水を持ってくる。
風呂に入ってさっぱりとしたウーフーは、TVでお気に入りだというアニメを見ていた。
クマっ子との入浴は、俺が想像していたよりもはるかに大仕事だった。
そのせいで、俺はすっかりのぼせてしまったのだ。
時たま床に転がって大笑いしながらTVを見ているクマの子を、俺は恨めし気に見つめる。
まず、バスタブに入れるまでが大変だった。
せっかく泡風呂にしたのに、ウーフーはなかなか入ろうとしない。
「オレ、おねえちゃんと入りたかった」
「毛むくじゃらのおじさんとは、やだ」
そんなことを言う。
俺だって、きみじゃなくおねえちゃんと入りたかったよと思ったけど、もちろん口には出さなかった。
そもそも、俺が【おじさん】ってのはどうしたもんだよ。
エレンが【おねえちゃん】なのは、いいとしよう。
その彼女よりも11歳年下の俺が、どういうわけでおじさんになるわけ?
クマの子に言っても仕方ないから黙ってたけど、釈然としなかった。
「毛むくじゃらって……きみだって毛だらけだぞ」
「さあ、早く入らないと風邪引くから」
「やーだあーー」
バスルームで、小さな黒いクマと大きなオオカミが対峙する。
俺が捕まえようとすると、ウーフーはキャッキャと言って逃げてしまう。
俺は溜息を吐いた。
今度のは、間違いなく気掛かりなことがあっての溜息だ。
「このっ……」
こうなれば、力づくでバスタブに引っ張り込むしかない。
そう思った俺は、ぐっと腕を伸ばして彼を掴もうとした。
リーチの長さじゃ、こっちに分があるに決まってる。
黒くて子どもらしいふくよかな体を捕まえようとした瞬間、それは逆に俺に向かってきた。
あろうことか、ロケットのように真っすぐ、股間に向かって。
その後は、誰に語らずとも分かることだろう……。
呻きながらも、俺は悪ガキをバスタブに連れ込んだ。
坊や、特犯を、舐めるんじゃない。
伊達に、血反吐を吐くようなトレーニングをやってるわけじゃないんだぞ……ウッ……。
そこからも大変だった。
ウーフーはあっちへ行ったりこっちへ行ったりで、決して広くはないバスタブの中を縦横無尽といった具合だった。
それを待て待てと追いかけ回しているうちに、こっちの目が回ったというわけだ。
アニメを見終わったウーフーは、今はエレンの膝枕で歯磨きをしてもらっている。
なぜかエレンにはとても懐いていて、ニコニコしながら大きく口を開けている。
歯磨きしてくれってわけじゃないけど、俺だって膝枕をしてもらいたかった。
クマっ子が現れさえしなければ、そうなるはずだった。
カレーがシチューになることもなかったし、バスルームで股間を強打することも、風呂でのぼせることもなかったはずだ。
俺は夕食にカレーを食べ、泡風呂でエレンといちゃつき、そのまま服も着ずにベッドに入るはずだったのに……!
くどいほど言うけど、俺はワアワア喚いて不平をこぼしたりなんかしない。
心の中では、お菓子を買ってくれとゴネる子どものように、ゴロゴロ転がって大騒ぎしていたにしてもだ。
「オレ、自分でねれるよ」
「うちでも、いっつもそうだもん」
「くらくしても、平気だよ」
そろそろ寝ようかという時、ウーフーは鼻息も荒くそう宣言した。
大方、エレンの隣で寝るんだろうと思っていたのに、自分からゲストルームで寝るなんて言い出したのだ。
5歳の頃の俺は、暗闇が怖くて自分の部屋ではなかなか寝られなかった。
両親の間に挟まっていた自分を思うと、なかなかしっかりしたヤツだと少し見直す気にもなった。
俺たちはおやすみを言い合い、ウーフーがゲストルームのベッドに潜り込むのを見届けた。
そしていつものように、自分たちの寝室に向かったのだった。
「大丈夫かしらね、ウーフー」
「気を遣ったりしたのかな……」
ベッドに下半身を潜り込ませて座り、エレンは心配そうに言った。
俺も、その隣に滑り込む。
「大丈夫なんじゃない?」
「家でもそうしてるって言ってたじゃないか」
「慣れてるんだよ、きっと」
俺はそう言うと、エレンに顔を近付けた。
彼女は目を閉じ、俺からのキスを受け入れる。
そのままゆっくりと覆い被さり、エレンが苦しくない程度に体重を預ける。
またキスをして、首筋を舐めた。
「あ、ん」
エレンは、首筋が弱い。
そのことは、彼女と回数を重ねるうちに気付いたことだった。
彼女の耳元で、優しく息を吐く。
これをされると、ゾクゾクしてじっとしていられないらしい。
エレンは首をよじるようにして、唇をきゅっと結んだ。
「……ねえ、今日は止めた方がいんじゃない?」
「何で?」
「何でって……」
「ウーフーもいるし」
「聞こえ、あ、あ、う、聞こえちゃうかも……」
話している途中で首に舌を這わせたもんだから、エレンの言葉は途切れ途切れになった。
彼女が言いたいことが何なのか、俺にはもちろん分かっている。
分かっているのに、知らない振りを続ける。
「聞こえるって、声がってこと?」
「そんなに大きな声、出すつもりでいるの?」
おやおやという表情で俺が言うもんだから、エレンは口をへの字に曲げた。
実際のところ、怒ってるってわけじゃない。
本当にする気がなかったら、彼女はもっとはっきりと断る。
何となく迷っているようなのは、預かった子どもの手前といったところか。
押せば何とでもなる。
俺はそう確信していた。
よくよく考えれば、クマの子が寝てしまいさえすれば何の問題もない。
いつも通りにエレンを抱き、服をちゃんと着て寝ればいいんだ。
ここは俺たちのうちだし、何を遠慮することがある?
「ん」
「んふ」
音を立てて、エレンとキスを繰り返す。
まるで食ってやるぞとでも言わんばかりに、首筋に牙を立てる。
呼吸こそまだ緩やかで落ち着いているけど、エレンの体は徐々に火照り始めている。
そのことを俺は、唇や舌を通して感じていた。
オスというものは得てして、特にベッドの中では優位に立ちたいらしい。
自分にサドの気があるとは思ってないけど、エレンを妙に苛めたくなる時もある。
そもそも、俺たちに優劣はない。
それでも10歳以上の年の差のせいか、日常ではどこか俺が尻に敷かれているような形になることも多い。
でも、この時ばかりは違う。
体の奥から、じわじわと興奮が滲み出してくるのを感じる。
子どもとはいえ、自分たちのうちに第三者がいる。
大袈裟に言えば非日常的なその状況に、俺は昂っているみたいだ。
もう、今日に限って激しくしないでよ……。
そのうちに、エレンはきっとこう言うだろう。
汗ばんだ額に髪の毛を貼りつかせ、指を噛んで声を堪えながら。
もぞもぞと動かした手が、エレンの剥き出しの膝に触れた。
彼女はそう言えば、今日はネグリジェを着ていたんだった。
そのまま、手を上の方へと滑らせていく。
まだぴったりと閉じられたままの内ももは、きっと汗で湿っているだろう。
さあこれから、ここをどう開かせようか……。
すべすべとしていて柔らかな肉の感触を期待していた手に、何かごわっとしたものが触れた。
どうやらそれは、毛らしい。
人間には髪の毛以外の毛がないと思っていたけど、彼女の体を知った今、それは間違いだと断言出来る。
あるべき場所には、ちゃんとある。
だけどコレは、何ていうか。
こんなに剛毛だった?
俺は興奮しながらも、頭上に小さなクエスチョンマークを浮かべた。
その時だった。