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Part1 大樹-5

「不確定要素は私には管理しきれない。後に裏切られるくらいならば私の目の前で死んでもらった方が遥かにマシだ。私は自身の手を汚そう。たとえ、それが他者の手による死だとしても私は私が殺したのだと深く心に刻み認めよう」


 ……駄目だ。

 冷静で頼りになる人だと思っていたけど、この状況で優葉さんはきっと頭がおかしくなってしまったんだ。


「僕が不確定要素だって? そんなことあるわけが! 何か、証拠でもあるって言うの?」

「……」


 僕の抗議に対し優葉さんは何も言わない。

 まるで、言いたいことは言い尽くしたかのような目である。


「……ほら! 何も無いじゃないか! 僕を敵にすることでより強固な一致団結を目論んでいたようだけどそうはいかない! すぐに山口君だって、金毘羅さんだって僕を助けてくれるさ」


 そうしたらすぐにでも優葉さんを抑えよう。

 僕がリーダーになるのは相変わらず嫌だけれど、それなら山口君と金毘羅さん2人をリーダーに据えればいい。


「山口君! 金毘羅さん! 早く鍵を開けてよ!」

「……悪いな」

「……私は悪くない私は悪くない私は悪くない」


 山口君は苦々しい顔をし、金毘羅山は僕と目を合わそうとしない。


「どうして! なんで優葉さんに従うのさ!?」


 ……このままじゃ埒が明かない。

 防弾ガラスを1人で突破するのは無理そうだ。

 ひ弱な僕では跳ね返されてしまう。


「たつべー、明日香。3人で力を合わせよう!」


 1人で無理なら3人だ!

 たつべーは僕と違い鍛えている。

 さすがに山口君レベルとまではいかなくても、並の男子以上には力がある。


「……大樹」

「……ごめんね」


 しかし2人は動こうとしない。

 本当に申し訳なさそうな顔をし、明日香に至っては涙を流していた。


「……え? 助かりたくないの……? このままじゃ僕達死んじゃうよ!」


 どこかで赤ちゃんが泣いている……気がした。

 時間はもう無い。

 泣き声が前兆なのか僕の中での警鐘なのか。

 どちらにせよ、目の前に見えるマークが一斉に『出産』を始めたらどうなるかは明白だろう。


「証拠……そう、証拠と言うのであれば今がまさにそれだ。誘導尋問でも無く、君は常に自白し続けていたようなものなのだよ」


 不意に優葉さんが口を開いた。


「っ!? 何の話を……」


 もうそんな話をしている場合ではない。

 正面玄関を塞がれたのなら他の出入り口を探さなくては……。


「君の言うたつべーこと竜田宗兵衛、そして坂場明日香はもうこの高校にはいない」

「……え?」


 何を……言っているんだ……?

 優葉さんの言う通りだとしたら僕と共に校舎内から追い出されたたつべーと明日香は誰なのさ。

 だけど、今の状況ならむしろ僕が好転する。


「はは……やっぱり優葉さんはおかしくなってしまったんだ。これで分かっただろう? 山口君、金毘羅さん、早く優葉さんを抑えて、僕を助けてよ」


 僕の正しさを主張すれば、優葉さんが間違っていることを理解させれば2人だって僕の味方だろう。


「ほらたつべーと明日香も、皆に言ってやってよ。自分はちゃんとここにいるって」

「いないよ。他ならぬ君が追い出したんじゃないか。兵頭君、君の嫉妬心が招いた事件を忘れたとでも言うのかい?」


 知らない。

 そんな事件なんて僕は知らない。


 たつべーと明日香はいつも僕の隣にいて……


「隣にいて……僕だけと話して……?」


 あれ……?

 僕以外と2人が話しているのって何時から見ていないんだ……?


 生徒だけでない。

 赤ちゃんにだってたつべーは襲われていなかったし……明日香だって、優葉さんと金毘羅さんがいたから襲われているように見えた……?


「竜田宗兵衛と坂場明日香は君の幼馴染だった。君達3人の仲の良さは知れ渡っていたよ。だが、去年の夏ごろだったか、2人は晴れて恋人同士となった。どちらからなのか、引き寄せられたのかは知らない。それは君の方が詳しいのだろうさ。そして君は自分で幼馴染という絆を断ち切った」


 およそ最悪な方法でね、と優葉さんは嘆息を付いた。


「この時代、SNSは拡散するには絶好のアイテムであり取り返しの付かない爆弾だ。君は2人の個人情報という個人情報を全て流した。しかも自身には決して繋がらないように緻密に計算をして。確信はしているのに決定的な証拠が無いものだから裁きたくても裁けない。もどかしいと誰もが思ったらしいよ」

「……お前は自分の世界に閉じこもっていたから覚えていないと思うがよ、たつべーは俺にとっても友達だ」

「明日香ちゃんは私の友達でした……」


 親の仇のように……いや、友人の仇とばかりに山口君と金毘羅さんは僕を見る。


「あっという間に拡散されていったから居づらくなったのだろう。2人は去年の秋ごろには転校していった。それから君は……居もしない友人と話すようになったと、私は聞いたよ」


 違う……。

 僕は悪くないんだ。


「悪いのは僕に黙って2人だけの世界を作り出したたつべーと明日香だよ! いつも3人でいようって約束していたのに……3人でいられないのなら2人でいる必要も無いよね。3人バラバラになってまた僕が一から集めればいいんだよ」

「だから妄想で都合の良い友人を作り出したか? 君のイエスマンと過ごす日常はさぞかし幸福だったかい?」

「あーうー」

「っ!?」


 不味い……。

 幻聴でも無くはっきりと聴こえた。

 今度こそ、タイムリミットだ。

 赤ちゃんの『出産』が始まっていく。


「たつべー、明日香! 早いところ校舎内に入ろう。安全な場所でまた3人で笑い合って過ごすんだ」


 2人の方を振り向いてみると……しかしそこには誰もいなかった。


「目を背けていたことをようやく自覚したんだ。君は、彼らが転校したことを自ら認めた。そこにいるのは幻覚幻聴の類だと。幻が……君の何を助けると言うんだい?」


 嫌だ。

 死にたくない。

 1人で惨めに赤ちゃんなんて弱い存在に殺されたくない。


「なんで上手くいかないんだ……別に大成功なんてしなくたっていい。影から脇役のように主人公を支えるポジションで良かったのに……」


 誰かと共にピンチを切り抜ける。

 切り抜ける立役者はあくまでその誰かで、僕は少しばかり手を添えるだけ。

 それだけで良かったのに。


「脇役? 何を言ってるんだ。君は脇役でもましてや主人公でも無いよ。君は、加害者だ。幼馴染の2人という被害者を生み出した加害者そのものだ。罪には罰を受けたまえ」

「あー」

「うー」

「あうあー」

「があぁ」


 会話が終わるのを待っていたとばかりにマークから赤ちゃんが這いずり出る。


「あんぎゃぁぁぁぁ」


 1人の赤ちゃんが大きく泣いた。

 それを皮切りに、一斉に僕の方を大量の瞼の開き切っていない目が見る。


「あ……あ……うわぁぁぁぁ」


 正面玄関を諦め、一瞬だけ校庭を見る。

 最も広く、そして赤ちゃんがいない場所。

 だが……その先に逃げ道はない。


 校庭で延々と鬼ごっこが始まる未来が見えてしまう。


「っ!?」


 そして、その躊躇いという隙を見逃さずに赤ちゃんが僕を囲もうとしていた。


「やだ……どけよ! どけってば!」


 赤ちゃんを蹴り飛ばし道を作る。

 可哀想だとか、倫理観だとかすでに捨て去った。


 僕が生きるためにこいつらは邪魔だ。


「嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁ……あ?」


 視界が傾いた。

 足元に違和感がある。


「何で……僕を狙うのさぁ」


 蹴り飛ばしたはずの赤ちゃんが足にしがみ付いていた。

 それに気づかずに僕は転んでしまった。

 赤ちゃん達が群がり齧りつき始める。


 痛い。

 全身が、体の中が、脳が悲鳴を上げる。


「た……すけて……たつべー……明日香……」


 必死に手を伸ばすが誰も掴んでくれない。

 僕にとってのヒーローもヒロインも、どこにもいないのだ。


 ああ、そうか……。

 僕が自分で捨て去ってしまったのか。

 悪役にヒーロー達は付いてきてくれない。


 とっくに僕は独りぼっちだったのか……。

 ぐしゃりと、耳では無く脳を直接抉り取られる音が響いた。


「どこで間違えたんだろうなぁ……」


主人公死んだので次回から交代します


幼馴染ズが他の生徒と話してる描写ないよね……?

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