雨と恋心
突然だがみんなはどんな天気が好きだ?
晴れ?曇り?はたまた雨?
正直言って人それぞれだと思うが俺は曇りが好きだ。
晴れだと日の光が当たって暑いしまぶしいし、
かといって雨だと濡れるしじめじめしてるし、
なので消去法で曇りだ。
とまぁそんな話しても意味ないんだけどね。
だって東京の空はもう一か月も雨以外の表情を見せていないのだから……。
俺はすっかりいつも通りになってしまった雨もようを定位置である教室左隅で見ていると
「今日もまた雨だねー」
聞きなれた声が俺の鼓膜に届いた。
俺は視線を窓の外から声の主に向けるとやはりそこには学級委員長のひまりがいた。
ひまりは学級委員長というだけあって面倒見がよく、一人でいる機会の多い俺によく話かけてきてくれる。
「そうだね……」
「今日の雨はどんな表情してる?」
ブフッ!
平然と臭い発言を放つひまりと対照的に俺は顔を赤面させ思わず吹いてしまった。
最初に言っておくがひまりはポエマーではないし、ましては中二病でもない。
なので今日の雨どんな表情してる?は他の奴の受け売りだ。
そう他の奴の……。
あれは雨が降り初めて間もない頃。
「今日は雨が泣いてる」
屋上には誰もいないという油断か、
はたまたその時の俺には空に大きくかかる雲が悲しい表情に見えたのかもしれない。
だから思わず臭さ120%の激臭発言をしてしまった……。
それでも誰にも聞かれなければよかったのだが……、
「え!君、雨の表情わかるの?」
俺は血の気が引き、青ざめた顔をかたかたと傾けると、そこにはひまりがいた。
「え、いや、あーまーうん」
「すごい!そんな事できる人いるんだ!」
動揺してイェスと言った俺も悪いけど、それを信用するひまりもひまりだろ。
なんだよ、あの屈託のない笑顔。
それに目輝かせすぎ。
俺は突っ込んでくる勢いで迫ってくるひまりをあしらいながら思った……。
こいつ学級委員長のくせに天然だ。
「ねー聞いてる?」
ひまりの一声で俺は意識を高校史に残る黒歴史から現在に戻した。
「聞いてた、聞いてた」
「ほんと?」
「うん、うん」
「じゃー何の話してた?」
「え、あ……」
ひまりが何の話をしていたかは分かっている。
だがあの臭い発言を人がたくさんいるこの教室で言えるかと言われればノーだ。
なので俺はだんまりを決め込んだ。
だがそれを自分の話を聞いてなかったと勘違いしてるひまりは頰を膨らませながら迎撃態勢を取っている。
「やっぱり聞いてないじゃん!」
ひまりはそう言うと俺の弁解も聞かずに自分の席に戻って行ってしまった。
外よりも室内の方が危ないじゃないか……。
まるで春の嵐のように去って行ったひまりを見て心の中で呟いた。
ずっと雨が降っているとじめじめして辛気臭いし良いことないと思うかもしれない。
まー大体そうなんだが、何個か良いこともある。
そのうちの一つが体育の時間だ。
幸いな事に俺の高校には土砂降りの中、陸上をしようとか、プールをしようと言う熱血教師はいない。
なので体育はボッチの俺でも楽しめるバドミントンとか卓球になりがちだ。
今日も今日とてやる気のない教師はバドミントンすると言っていた。
ちょっと楽しみだ。
「今日のバドミントンはダブルスにします。ペアは自分たちで適当に決めてくれ」
前言撤回、雨なんて最悪だ。
ていうか俺の教師やる気なさすぎだろ、何だよ適当に決めろって。ペアぐらい先生が決めろよ。
俺はそんな愚痴をこぼしつつ、同じボッチを探すためせわしなく首を横に振った。
いない、いない。
我らが学級委員長の功績もあってみんな(俺以外)仲良いクラスメイトたちは着々とペアを作っていった。
「余っているなら私とペア組まない?」
いよいよ一人天高くシャトルを打つことを覚悟した時、救いの言葉が確かに俺の鼓膜に届いた。
「あぁ、いいよ……」
振り返るとそこにはまたもひまりがいた。
それを確認した瞬間、俺の顔が歪んでいくことが自分の顔が見えない俺でもわかった。
これは別にひまりがいやという訳ではない。
むしろ一緒にやろと誘ってくれるのはありがたい。
ただボッチの俺はともかくクラスの中心であるひまりがペア決めであぶれる訳がない。
なのにひまりはボッチの俺に気を遣って仕方なく俺とペアを組んでくれている。
「え……?ひまりって……」
「あの二人付き合ってるの?」
みんな仲良しの仲間たちは唯一の敵である俺を見て笑い声をあげている。
まぁそれはいつものことだから我慢……したくないけど出来る。
ただ今回はひまりも巻き込まれている。
それはだめだ。
ひまりはボッチの俺に気を遣ってくれる数少ないと、友達だ。だからひまりを同じ境遇にしたくない。
そんなちっぽけなプライドが空にかかる雲のように俺の本心を覆い被した。
「ごめん、やっぱさっきのなしで」
俺は先程のオーケーを取り消すために比較的大きめのジェスチャーをしながらひまりの誘いを断った。
「え?なんで?」
「いやだって、俺とひまりがペア組んだら変な噂されるし、それはいやだろ?」
「なにそれ?」
「え……あいやだから俺と……」
「ちがう!そんなこと言ってるんじゃない!」
「じゃなんだよ?」
「まるで私のためみたいな君の言い分が腹立つ!私と組みたくないならはっきりそう言えばいいじゃない!」
「別に組みたくないってわけじゃ無いよ!ただひまりが気を遣って俺とペア組んだせいで変な噂されて、ひまりが組みたかった奴とペア組めないってのが俺は嫌なんだよ!」
俺が半分怒鳴るような勢いで言うと先程まで俺と同じく怒鳴り声を上げていたひまりが唐突に固まった。
そしてさっきとは打って変わって今にも消えてしまいそうな声で呟いた。
「気を遣って……?」
「そうだよ、学級委員長としてボッチの俺が孤立しないよういつも声かけてくれてるじゃん」
俺が日頃の感謝の意を込め労うようにそう言うと、ひまりは目に涙を浮かべた。
確かに人に感謝されると嬉しいがそこまでか?
俺は疑問を持ちながらひまりの顔を覗き込むと口をむくむくとし何かを発しようとしている。
「言いたい事があるしっかり言えよ」
「……君は会った時と何も変わらない」
「へ?」
てっきり嬉しさを表現すると思っていたひまりの口から予想外の言葉が出てきた。
そのせいで俺はすっとんきょうな声を出してしまった。
だがひまりはそんなのものともせず話を続けた。
「勝手に想像して結論を出して……。君は雨の表情も私の気持ちも何一つ分かってない!」
ひまりは言いたい事を言い切ったのか、そう言い終えると授業中だと言うのに体育館を走って出て行ってしまった。
沈黙、集まる視線が俺をぐさぐさと串刺しにした。
何してるの?
早く追いかけろよ!
主張激しい視線達になるべく刺されないよう背を丸めた瞬間、俺の背中に衝撃が走った。
「ッッタ!誰だよ?」
俺は激痛で顔をしかめながら背中を叩いた犯人な顔を拝んでやろうと振り返るとそこにはやる気がないでおなじみの体育教師が立っていた。
体育教師は俺と目が合ったのを確認すると親指を立て体育館の出口を指している。
追えって事かよ、でもの今の俺がなんて……。
俺がひまりを追いかけることを躊躇しているといつの間にか体育教師が再び俺の背後に回っていた。
それに気付いた時には時すでに遅し。
再び衝撃が走った、今度は尻に。
まるで俺の躊躇した足を動かすために叩かれた衝撃をそのままに俺は体育館を走り抜けた。
「いない、いない、ここにもいない」
教室、下駄箱、更衣室、ひまりがいそうな場所をしらみつぶしに探したがひまりの影も見つからない。
ただ教室に行った時にひまりの荷物があるのを確認したのでまだ学校にいる事は分かっている。
でももうひまりに関係のありそうな場所は……。
あった。
「やっぱりここだったか」
俺は立て付けの悪い屋上の扉を開けた。
「何しにきたの?」
ひまりの頰に滴が流れた。
それが涙なのか雨なのかは勝手に想像し結論づける俺には分からない。
だけどそんな俺にもわかることはある。
「俺はな、確かにひまりに言われた通り一人で想像して結論づける、そんな俺に雨の表情もましてやお前の心なんて分かんない」
「なに?自虐しにきたの?」
ひまりが何か言ってるが雨の音が邪魔で聞こえないし、聞こえたとしてもそれを踏まえて話を変えるなんて高度な話術、俺にはない。だから俺らしく
「だけど分かることもある!それは俺の心だ!だから今から俺は自分の心に真っ直ぐになる!
俺はひまりが好きだ!付き合ってください!」
「きゅ、急にどうして?」
「分かったんだ。俺がクラスに一人孤立した時、ひまりが毎回話かけてくれた。それにどれだけ救われたか」
ち、違うよ、私はあの日屋上で一人生き抜く強さをみた。
それに勝手憧れて、近ず来たくて毎回話かけていた。
……でもそれが君のためになったなら
「ぜひ、こちらこそ付き合わせてください」
俺はひまりが差し出した手を握り返した。
気が付くと空に大きくかかっていた雲が消え、太陽の光が見えてきた。
この一ヶ月で初めてのお天気雨だ。
「き、きれい」
ひまりは天に架かる虹を指さしながら呟いた。
太陽の光に虹、それに告白成功も相まって気がつくと俺の心まで晴れていった。
再度言おう。俺は天気の中では曇りが好きだ。
理由は晴れだと日の光が当たって暑いしまぶしいし、
かといって雨だと濡れるしじめじめしてるしから消去法だ。
ただこんなに心を晴らしてくれるお天気雨は嫌いじゃない。