健康プラント
――私は今、巨大な魔性の植物が生い茂る、危険な森の中にいる。
その植物は、知能を持ち、人を食物とするという。しかも巨大だ。
気を抜けば、私などあっという間に彼らの栄養にされてしまうだろう。
では、私はどうしてそんな森にやってきているのか――。
答えは簡単だ。
彼らが行商人などを襲い、その宝物を溜め込んでいると聞いたからだ。
つまりは、一攫千金を狙って、というわけだ。
そして……彼らの包囲を首尾良く潜り抜けた私は、奪った宝物を保管している洞窟を探り当てた。
しかし積み重ねられた木箱は、中身が何であれ、とても一人で一度に持って帰られる量では無い。
ともかく、特に高価そうな物だけでも持って帰ろうと、中身を確認して私は絶句した。
どの木箱を開けても、入っていたのは……。
植物用の栄養剤だの、除虫剤だのといった、園芸用薬品の類ばかりだったからだ。
――なんだこれは……。
まさか、誰か人間が、この森の危険な植物を育てているというのか?
つまり、これらは貴重な植物のための宝物だと……?
あ然とする私は、誰かに呼ばれた気がして振り返った。
そこには、いつの間にか、件の危険な植物が生えてきていた。
驚きながら私は、ついつい、今感じたばかりの疑問をぶつけてみた。
果たして――。
まさかと思っていたら、植物は答えを返してきた。
「人間ばかり喰っていては栄養が偏るであろうが。
栄養は、バランス良く取らねばならぬ。
そのための補助食品である、それらは」
……植物が、健康を気にしているというのか?
私の発言に、馬鹿にされたように感じたのか、植物は声?を荒くした。
「植物とて生物だ、健康を気にして何が悪い。自己管理の何がいかん。
……大体だな、貴様ら主食たる人間どもが年々マズく、栄養が偏っていくからいかんのだ。
そんなことだから、我らも薬品で栄養を補い、味にも変化をつけねばならなくなるのだ、まったく」
植物はついには呆れかえったのか、しゅるしゅるとまた地面に潜り込んでいく。
……おい。食べないのか……? 私を。
「喰うか。キサマ、食生活が偏っているばかりか、タバコに酒もやっているだろう?
そんな輩を喰ったところで、栄養どころか腹を壊すだけだ。さっさと去ね。
ここまで来る途中、同胞も誰もお前を襲わなかったであろうが。この毒物が」
散々に暴言を吐き散らして、植物は完全に地面に引っ込んでしまった。
毒吐きな植物に毒扱いされた私は、とぼとぼと帰るしかなかった。
言われた通り、帰路も平穏なものだった。
その後の人生も、平穏なものだった――身体を壊して入院生活が長引いたことを除けば。