麒麟児の来世にご期待ください
麒麟児の先祖を知っていますか?
その村には天才がいた。
彼が自らの力の片鱗に気がついたのはわずか7歳の時。
風邪をひいた母の頭にいい子いい子をすると、たちまち熱が引き、翌日には元気に動き回れるようになったのだ。
驚くことに彼は知らず知らずのうちに回復魔法を使っていた。もっとも、彼の保有する膨大な魔力が体から溢れ出ていたものがたまたま魔力の波長が合う肉親に癒しを与えていただけで、回復魔法と呼べるような上等なものではないが。
しかし、驚くべきことだと言うことに変わりはない。身体から溢れるほどに魔力が多いものはそうそういないだろうから。
それから9年経った今では彼はほとんど完璧に近く自分の魔力を使いこなしている。回復魔法は勿論、攻撃の呪文も覚えた。
魔法を使って今夜の夕食を狩り、明日の憂いになる魔獣の子供を倒し、昨日から風邪で寝込んでいる友人を治した。
ある時、彼は幼馴染に告白された。ずっとあなたの事が好きでした、どうか私と付き合ってください。もしあなたが受け入れてくれれば、私は一生をあなたに捧げます。と。
彼は一晩寝ることなく悩んだ。そして翌日、こう言った。はい。と。こちらこそお願いします。と。
その言葉を発した時の幼馴染の笑顔は、今まで見た中で一番輝いていて、一番可愛かった。彼は彼女の笑顔に恋をした。その笑顔の後、緊張が切れた彼女はすぐ泣き出してしまったが。
それから2年も付き合えば彼は婚約を申し出た。彼女は何度も頷いてくれたし、村中がお祝いムードになった。その時既に彼女はお腹に子供を身ごもっていた。
彼の妻のお腹にいたのは2人の男女だった。双子を身篭っていたのだ。夫妻は丁寧に丁寧に、宝石を扱う様に子供を育てた。
彼は老いた。かつて張りのあった肌は皺くちゃに縮み、眼球は濁って一寸先が見えない。妻はとうに他界していた。2人の子供もそれぞれ結婚し、血が途絶える心配はない。
そしてそろそろ彼にも旅つ時がやってきた。傍に控えるすっかり大きくなった2人の涙が止まらない。まだまだ子供だな、と彼は考える。彼の手を握る小さい手の主は状況がよく飲めていないようだ。時折首を傾げて母親の頭をいい子いい子した。
それから一刻も経たずに彼は旅立った。
かつて麒麟児と呼ばれた男は死んだ。その生には村の男の子が胸を踊らせる壮絶な冒険譚も、女の子がうっとりする絵本のようにロマンチックな物語もない。彼が生み出したのはささやかな家族と存在で、彼が残したのは血筋と今に消える存在。
───この村には昔、伝説の勇者にも劣らない天才がいまして。
そう語られたのは昔の話。今ここにあるのは雑草とまぁまぁ大きな木が1つ2つ。
ヴァーゼン王国オウトク子爵領第3開拓村
僕は先祖のことはこれっぽちも知らないし、子孫に自分を知られたいとは思いません。




