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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

朽ちた宝箱

作者: カラ箱

ある所に空っぽの朽ちた宝箱がありました。


昔ダンジョンに設置されていた宝箱ですが、攻略に来た冒険者達に開けられ、そのまま放置されていたのでした。


普段であればダンジョンのコアが宝箱を回収し、中身を補充して再設置される所なのですが、なんと宝箱を開けて行った冒険者達がコアを壊してしまったのです。


ダンジョンが停止し、回収されずに残ってしまった宝箱は、後から来た調査団に持ち出されました。


やがて宝箱は削られたり薬品に漬けられるなど散々な目にあい、やがて広くて暗い倉庫にしまわれました。


そこには同じように取り残されたダンジョンのオブジェクト達が所狭しと入れられており、中には札がつけられた物もありました。


どうやら宝石やアイテム以外の「なにかに使えそうなダンジョン製品」が入れられているようで、時折物が減ったり増えたりしました。


やがて年月が流れ、宝箱は倉庫の奥の方へ流されていました。主に木材のようなもので構成されていた本体は湿度こそ低く管理されていた倉庫でも痛みが所々にありました。


物としての限界が近かったのです。


このまま宝箱としての役目を果たせずただ朽ちていくのか。実働歴百数回の宝箱には、いつしかそんな意志が芽生えていました。


そんな時、新たに倉庫で出し入れがあった拍子に宝箱の上に古びたペンダントが落ちてきました。


所々煤けた銀のような装飾に赤く濁った石が付いていました。


最後くらいはこれを中に入れて宝箱として終ろう。


宝箱は上に乗ったペンダントを、すっと蓋を通り抜け、中に収納されました。


ことん。と中に『宝』収まる感覚に宝箱は長年感じていなかった温かさを、ただ静かに感じていました。


じんわりとした充足感が宝箱を満たしていき、いつしか朽ちていた宝箱はダンジョン時代のように綺麗になっていました。


嗚呼、これこそが本懐。宝箱として納めてきた宝が旅立つ日を今か今かと待ち焦がれるこの感覚。


宝箱は最後を感じながらも満たされていました。















満たされてしまいました。








宝箱はダンジョンが停止したあの日から今まで感じてきた、使われないことへの喪失感と虚無感を強く感じてしまったのです。


満たされると同時にこのまま宝箱として存在していたいと渇望してしまいました。


宝箱が再び開けられ、宝が旅立ってしまった瞬間、以前の停滞した時間をまた味合わなければならないのか。また忘れ去られ、朽ちていかなければならないのか。


そんなのは嫌だ。


宝箱は宝を求めました。宝箱としてあるために。宝箱であるために。


宝箱は周りにあるものを取り込み、納めました。


小さな小箱。歪な人形。煤けた金属板。罅割れた空き瓶。刃を潰された小さなナイフ。濁った硝子玉。脚が二本しかない椅子。名状しがたきなにかが描かれた絵。片方しかないピアス。歯車でみたされた容器。読めない言語で書かれた巻物。金属の混じったぬいぐるみetc……


一つが旅立っても宝箱としてあれるように。たくさん旅立っても宝箱としていられるように。


やがて宝箱は倉庫にあった全てを納めました。自身が容量を超えて周りの宝を納め続けたことに疑問を感じることはありませんでした。


もっとたくさん。もっともっと宝を。








倉庫にやってきた職員は驚きました。物音がしたので覗いて見たら、倉庫の中身が殆どなくなっていたのです。壁や床に所狭しと入れられていた物が、小綺麗な膝したくらいの箱を残して消えていました。


職員はここに集められているのはそこまで重要なものではないにしても、無くなっていいものではありません。倉庫には換気用の窓が幾つかありますが、倉庫にあるものを全て持ち出すのは不可能です。


職員は残っていた箱に近づきました。


何故これだけが残ったのか。これだけが持ち出せなかったのか。考えました。


だだっ広くなった倉庫で唯一残った箱。よく見ると表面は木目に鮮やかなラインが幾重にも絡まるように伸びていて、窓から指す光に照らされるそれは見事な『宝箱』でした。


職員は魅せられたかのように宝箱に近づきました。


ほのかに漂う木の香りはさっきまでのあわてた心を落ち着かせ、爽やかな気持ちになりました。


蜜に誘われた蝶のように宝箱以外のことが考えられません。


至高の、何物にも代えられないもの。


嗚呼、これが欲しい。


きっと中には素敵なものが入っているに違いない。


職員は手をそっと伸ばし、優しく、繊細に、壊れ物を扱うように蓋を開けました。









職員がなかなか戻らないことにごうを煮やした別の職員が倉庫へ向かいました。


なにか物色するのに夢中になっているのだろう。


普段の職員を知っている身としてはやれやれといった感じです。


目的地に着くと倉庫の扉は少し開いていました。


不用心な。と思いながら職員の名を呼び扉を開けると、すぐ目の前に膝したくらいの見事な『宝箱』がありました。


一瞬目を奪われましたが、視線をあげると空っぽの倉庫に驚愕の声を上げました。


今まで雑多に詰め込まれていた倉庫が綺麗さっぱり何もなくなっていたのです。


職員はふらふらと歩を進め、脛を宝箱にぶつけてしまいました。


痛みにうずくまっていると、ふと自分に影が指していることに気が付きます。


きっとこの現状が言い出せなくて隠れていたんだなと思い振り返ると…………








。。

。。。



ある所に宝箱がありました。


それは静かにそこにあり、神秘的な雰囲気を醸し出していました。


動物達は宝箱に惹かれてよく傍でゆったりしています。


するとパァン。という音が周りに響き渡り、横たわっていた動物の脳漿が飛び散りました。


ガサガサと出てきた猟師は獲物を仕留めたことに顔を綻ばせ、すぐ側にあった美しい箱が汚れてしまったことに顔を顰めました。


しかし洗い流せばきっと高く売れる。そう思い美しい箱を開けるとなにもありません。


まぁ、箱だけでも高く売れるだろと気を取り直し背を向けた時、後ろからチャリンと澄んだ音がしました。


振り返ると美しい箱の中に輝く金貨があったのです。猟師は歓喜し金貨に手を伸ばしました。


ずるり。猟師は金貨に伸ばしたてが箱の底から生えた真っ白な手に掴まれていることに気づきます。


悲鳴をあげながら振りほどこうとするもピクリともせず、猟師は肩にかけていた猟銃を手に向けました。


その瞬間、猟銃がものすごい力で箱の中へと引き込まれていきました。


猟師は掴まれた手と猟銃を吊るしていたライフルスリングに引き込まれ、瞬く間に箱よりも大きな身体を全て飲み込まれました。


ひと時後、箱から二本の真っ白な長い手が伸び、撃たれた動物に触れると優しく包み込み、箱の中へと納めていきました。


表面に飛び散った血液は染み込むように消えていき、美しい箱、宝箱はパタンと蓋を閉めました。


やがて日が落ちると、宝箱は地面へと吸い込まれるように消えました。

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