トハンにて、その2 「不明」
翌日ミューが目を覚ますと、横でトーゴがまた本を読んでいた。ティマエラと交わった翌日に大失敗を犯したトーゴは、誰かと、まぁティマエラしか居ないのだが、一緒に寝るときは急いでいるとき以外、相手が目を覚ますまで横で待つようにしていた。
まだ空が白まない時刻だが、トーゴの眼ならば読書にはなんとか足る明かりだった。その本を閉じ、ミューに手を伸ばして寝癖をふわりと整える。それがミューには擽ったくて気持ちよくて、また朝から高鳴る胸を持て余す。衝動に任せて思い切り擦り付きたいのをなんとか堪え、おはよう、と寝起きの緩んだ声でミューは挨拶を口にした。
「おはよう。痒いところは無いか?」
「無い……かな? なんで?」
半身を起こし、腰から上をグリグリと捻って確認するミュー。肌が赤くなっているかどうかまでは分からないが、多分ないだろう。
「南京虫だ。噛まれると痒い」
「あー。」
二人で一緒に外に出て、毛布と厚布を干す。腕をさすりつつ屋内へ戻って来ても、隙間風で尚寒いのではないかと思わせる。朝早い時間なので殊更だ。トーゴが暖炉にすぐさま薪を放り込んで火を点けるが、湿っているようで中々大きくならない。ミューはえい、と杖無しで火の魔術を少し使って焚き付ける。しかしやり過ぎてしまったようでぼふぼふと火が大きく広がり、慌ててトーゴが結界で閉じ込める処置を行う。火傷はしていないものの、ミューはトーゴに軽く怒られてしまった。だがミューは逞しかった。咄嗟にそこまでして心配されたのが嬉しくて、つい暖かくなっていく暖炉を前ににやにやとしていたら、それを見たトーゴが首を傾げるという光景が、温もりを増していく室内にて繰り広げられる。
ごそごそとした物音を立てた後にトーカァが起きてくる。既に着替えていて、白いエプロンを身に着けていあ。時刻はまだ四時を少し過ぎただけであり随分早起きだとは思うが、夜も朝も早いのがこの世界の人々だった。魔力光のランプなどと言う高級なものは農村にはまず無く、暗くなったらもう寝るのが普通である。それを差し引いてもトーカァは早起きだが。
「お早いですね。もう朝食を取られますか?」
「えぇ、お願いします」
「先にホットミルク欲しいな」
「はい、只今。」
彪の顔でにこりと笑い、トーカァはてきぱきと作業を進める。数分もしない内にホットミルクが出てきた。
山羊のミルクを温めたものにシナモンスティックを浸からせ、大き目のマグカップに入れてあるもの。それをミューはちびちびと飲む。癖のある山羊の乳は好みが分かれるがミューにとっては中々に美味しくて、ほっとする。敢えて蜂蜜は入れないのがこだわりだった。
朝食を取り荷物の準備を済ませ、盗賊退治の依頼、その出発時間が近づきいよいよ装備を着用していく。薄い金属の胸当てを着け、ミューはいざと張り切る。きちんと依頼をこなすのは久しぶりな上、危険な任務と言う事で新しく買ったものだ。勇むミューを横目で微笑ましげに見つつトーゴはクレイモアを、夕号、震洋と交差させるように背負う。
役場前に集合し、まず二台の荷馬車と二人の御者、そして商人と顔合わせをする。直前まで不安げな表情をしていたが、冒険者であるトーゴをみて少し安堵した様だった。これだけで冒険者の信頼度が伺えるというものだ。他の国ではどうか、二人には分からないが。
一台目の馬車に荷物を積み、後続の二台目に商人と乗り込む。幌があるせいで周りの確認は簡単ではないが、トーゴはその五感が人のものと比べてかなり優れている。幌が風を切る音や馬蹄と車輪の立てる音に隠れるミューの心音すら、触れずとも聞こえる程に。それは頼りになるとミューはトーゴに身を任せ、暫し揺れる荷台で寛いだ。
馬車はやがて山へと入り、ぐんぐんと木々の茂る坂道を登っていく。馬はロシャーチと呼ばれる種で、速度は出ないが馬力が秀でるという特性を持っていた。平地と変わらぬ速度で道程を消費していると、トーゴは複数人が無造作に走り、地面を踏み鳴らす音を耳にした。気配を隠す様子もなく、灌木を蹴り散らしてこちらへ向かって来る。十人以上はいる、案外大きな集団だ。それを御者に伝え、馬車の速度を落としてもらう。トーゴはミューを抱えて荷台から飛び降り、二台の馬車の中間に位置どった。
数秒と経てばぐるりと囲むように現れるならず者ども、数えて九人。それを見たトーゴは思わずうわ、と声を漏らす。風呂に入っていないのが丸わかりの、脂に塗れてベッタリとした髪を散らかす頭、何処かしら欠けた歯と指、汚い爪、錆びた武器。正直言って、剣越しにですら触りたくない。トーゴは現代日本の衛生概念を未だ引き摺っていた。
トーゴは仕方無しとばかりに溜息をつきミューに援護を頼み、不機嫌な声色で尋ねた。
「ミュー、加速と防御。おい、お前らの名はなんだ?」
「あぁ!? んなもんねぇよボケ! さっさと荷を全部降ろせ!」
「ひっ、ぼ、冒険者さん!」
「大丈夫、伏せていて下さい」
やはりというか、そうすれば返事と共に罵倒が飛んできた。何故初っ端からそんなに怒っているのか分からないが、小物に共通する威嚇方法なのだろうか。無名らしいのでさっさと倒してしまおうとトーゴは二度目の溜息をつく。耳を澄ましてみれば近くに隠れた仲間が四人、それもそれぞれ逃げやすいよう異なる方角にいるが問題ない。
「【庫蜂】」
いつの間にか抜いたクレイモアを深く地面に突き立て、隠れた四人、そして姿を表した複数人、数えたところ九人の足元から衝撃を噴出させる。三メートルほど上空に吹き飛んだ彼らは、皆その時点で足が折れていた。
大勢の人が一斉に空を舞うという光景に、怯えていた御者や商人は口を開けて呆ける。ミューだけはまた出番が無かったとふくれていたが。
どかどかと落下してきた盗賊達の悲鳴が、閑静な森に木霊する。
「がぁっ!? い、いでえぇえ!」
トーゴは顔を顰める。何となしに攻撃したが、やはりトーゴは人を傷つけるのにあまり向いていないのだ。ヴァンズのような実力者ならまだしも、こんな弱い者虐めの様な、一方的な行為はあまりしたくないと思っている。それに心が痛む訳ではない、単にこの世界に来た時、目の前で死んでいった名も知らぬ人々を思い出すからだ。それによって、ただ不愉快な気分になるからだ。死の瘴気に当てられた哀れな彼ら。トーゴとて殺したくてやった訳では、勿論無い。運がなかったと言えばそれまでで、この目の前の盗賊もそうだ。だからさっさと心にケリをつけねばならないとトーゴは分かっていた。
「ロープは……足り無さそうだな」
「蔦から作るよ、ちょっと待ってて」
「助かる」
テキパキと盗賊を縛りあげ、一列に繋ぐ。魔術を阻害する術をかけてあるロープだ。その間にも逃げ出そうとする者には、トーゴが手頃な石を投げて頭に命中させた。放物線を描いているのを見れば、それに力が入っていないことがわかる。ただそれでも痛い事は痛い。一人残らず、脱走を画策したものは大きなたんこぶを作る羽目になった。
彼らは死んだように項垂れるか絶えず暴言を垂れ流すかしていて、トーゴもミューも後者をどうにか痛めつけずに黙らせる方法は無いものかと思案していた。
その瞬間、トーゴの背後からその首の後ろ、項の下あたりを狙い撃つように弾丸のようなものが放たれた。
射撃音の伴わないそれが風を切る音だけを聴き、あっさりと摘んで受け止める。それはやけに硬質な石だった。握り砕くのに少々力がいる。それは良いのだが、肝心なのはトーゴの鋭敏な五感で捉えられなかった者が居たと言う事だ。かなり隠密に長けているのか、最初から動かなかったのか。そしてこの石、魔術によって放たれたものであろうが土の属性では無いようだ。厳密には土や地の属性を含んではいるが、それが主要なものでは無い。何か別の属性を主軸として構築された魔術の産物である。
「ふぅん……」
「おにーさん?」
「攻撃された、多分魔導士だ。商人殿は馬車に隠れていてください。で、ミュー。石を飛ばしてきたんだが、どうも大地の系譜の属性じゃ無いようで、っと」
殊更暢気に言を交わしていれば、気に食わないとばかりに二発目が放たれた。先程とは全く違う方向から、次は三つ。磨り減ったように丸みを帯びて幾つか小さな穴の開いた石だ。その内二発はするりと抜いた柄の長い短剣で砕き伏せ、一発はわざと腕に受けてみる。少々痛いが何の事は無い、ただの投石程度の威力だった。それもトーゴにとってはの話で、仮にこれをそこに縛られ転がる盗賊の一人が受けたのならば、腕を貫通し肋骨を粉砕し心臓なんかの大事な器官を抉って背後へ抜けるだろう。
そんな凄まじいと言えるがあまりその実感の湧かない攻撃を見て、ミューは少々気づく所があったようで。
「なんか……どっかで見た事あるよ、この石」
「うん? じゃあゆっくりで良い、落ち着いて思い出してみてくれ。」
「落ち着いてって、今殺されようとしてるのに。呆れたおにーさんだね」
「伊達に神様やってないさ」
なんせ死ぬ気のしない攻撃だ、それは力も抜けるだろう。こう話している最中も何発も何発も石が飛んできた。ゆらゆらと躱しつつミューに当たりそうなものははたき落とし、そろそろ得体の知れないこの攻撃の主を見つけ出し捉える事を本格的にやろうかと、トーゴは五感を極限まで研ぎ澄ませる。
そうすればまず盗賊どもの不潔な臭いがして、涙目になる。体内の魔力を堰き止め、嗅覚を遮断。未だむかつく肺の中を清めようと葉巻を吸う。香りなど一切しない筈なのにと思い込みの力を憂いた。
「おにーさん、あたしにも一本」
「ん、ほら」
ミューに煙草を渡す間にも、四方から同時に襲い来る石礫。それでは駄目だと独り言を噛み砕く。ミューの頭上を吹き抜ける様に回し蹴りをすれば、更に大きさを増した拳大の岩とも呼べるそれはトーゴの義足によって砕かれた。高さをほぼ一定に射撃してしまっては、折角の多方向同時攻撃も簡単に対処されてしまう。なのでタイミングをずらすだとか、角度に緩急を付けるだとかをした方が、等と敵に送る塩を誰に言うでもなく胸中に呟く。
そこからはまた五感、今は四感に感覚を集中させる。因みにトーゴは迎撃の最中にミューに火をくれてやった。指をパチンと鳴らせば蝋燭のような小さな火が空中に浮かび上がり、そこからミューは熱を頂いた。ラムの薫り付けのしてある火で、苦いように思える味をした薬草の煙も今回は悪くなさげにミューは楽しむ。
そんなミューへと、今度は本当に小粒な礫が散弾銃の如く襲い掛かった。それを眺め、トーゴは放っておく。
見捨てた訳ではなく。
「わっ、びっくりした!」
「うん。流石」
「もー、言ってよ!」
「もしそうしたら滅茶苦茶早口になるぞ。」
「意地悪〜」
ミューの優れた、ティスタお墨付きの防御結界魔術。それならばこんなもの、なんの問題にもなりはしないと信頼していたのだった。同時にミューは自身の身体機能を強化しトップアスリートと並ぶまでの反射神経や動体視力を得ていたのだが、比喩ではなく弾丸の速度を持つ石礫は流石に見切れない。バシバシと破裂に似た音を立てて半円の結界に弾かれた石に、ミューは跳び上がって驚く。
そして、そんなミューを微笑ましく見つつトーゴは目的を達成した。
「微動だにしなかったな、それはそれで凄い事のような気がするが」
本当に一切動きを見せずに、口元だけがぼそぼそと呟き魔術を詠唱していた人物。使用していたのは石をやたらと飛ばす妙な魔術と、千里眼の劣化、近くの風景を透過して映し出す「透視」である。千里眼は発動条件を定める事で多岐に渡る利用を可能とするのだが、透視は見るだけだ。それ以上のことは無い。
そんな人物の色の無い声を捉えるのに、トーゴはほんの少しばかり苦労した。見つけてしまえば寧ろ簡単だったが。黒ローブに眼帯を付ける男が、十メートルばかり離れた木の上でトーゴに簀巻にされている間、ミューは「波よ」を発動して盗賊を全員眠らせた。なかなか優秀なその魔術の実力は、冒険者で言うならば岩級程度は有りそうだが。
黒ローブの男をきちんと縛り直しつつ馬車の近くまで連れて行けば、ぼそぼそとしたものでは無い、まともな声を出してくれた。案外普通に話せる人物だったようだ。
「……バケモンかよ、あんた。なぁ?」
「さっきの魔術、あれはなんだ?」
ただ一言目からまた罵倒だったが。それを極めて無視し、その男に聞きたかったことを聞く。ミューは未だ見覚えのあるような無いような石に頭を捻っていたが、次の瞬間にはこの男の言で表情を一変させることとなる。
「……くそっ、星だよ。星の魔術だ。畜生、頭が痛えぜ……」
「星……魔術」
虹の石英に連れ去られたミューの友人、ミルキィ・ズヴィオーズィの行使していた魔術。その名称を、ミューは久方振りに他人の口から聞いた。
「お前、虹の石英の一員か?」
「あぁ? ちげぇよ、何だってあんなおっとろしい所。」
「……自前の魔術か?」
「いいや、貰った、ってぇのかな」
「……誰にだ」
「そこまでは知らねぇ、本当だ。クソ、もっと優しく結びやがれ……体中痛えったらよ」
この男が嘘や虚言を吐いている可能性はあるが、もうどうやった所で捕らえられた時点で事は終了だ。先程の、雑談混じりにいなされた自らの攻撃を見て実力差は嫌と言うほど分かったはずだ。殺されてもおかしくない状況で、命をベットして嘘を吐くというのは合理的では無い。この世界には「読心」という魔術があるのだ。トーゴは使えないが、その使えないかどうかの判断もこの男にはついていない筈だ。魔力の動きが見えている様子も、照術鏡を使った様子もない。
そんな合理的では無い事をしているのだとしても、情報が足りない為にその判断は付かないのだが。
こんな時、まさにサレンの「読心」が羨ましい。因みに正式名称は「ラリアー・バヴァルダージュ」と言うらしいが、長い、その一言で読心なんて味気無い名称にすげ替えられてしまった。心を読めるだなんて高等魔術を発明したのだから、気合を入れた名前にしてしまうのも分かる。だがそれが思った以上に簡単に使用でき普及してしまった結果、こんな身も蓋もない呼び方になってしまった。同じ理由で、「千里眼」もそうである。
「お前はなんなんだ? それと、『貰った』時の状況を詳しく聞かせろ。」
「俺ぁ頭目だよ、そいつ等を拾ってやったんだ。どうか殺すなら俺一人を――」
「それを決めるのは俺じゃない。話を続けろ」
「……ッたく」
嫌嫌ながらも語られた話を聞けば、この頭目の男はまだ仲間の数も少なかった頃、以前にもこの山道にて「商売」に励んでいた事があったそうだ。
冒険者が討伐に来る前にそろそろこの地を発とうとした折、怪し気な二人組がここを通った。安い襤褸馬車にすら乗っていない貧乏人。これはいいカモだと襲い掛かった頭目は見事返り討ちにされ気を失い、目を覚ました時には胸に魔法陣が刻まれていたと言う。何とも言えない話に、眉根を寄せてトーゴは考え込んだ。
「ねぇ、その二人ってどんな格好だった?」
「全身を覆う、丁度俺みたいなローブ着てたよ。顔も分かりゃしねぇ」
虹の石英の特徴、深い赤と焦げ茶色のケープは確認出来なかったそうだ。ならばあの教団が関わっていると考えるのも早計だろうか。
「魔法陣は……これか」
「あっ、あんたこの野郎」
ぴっと服を鎌鼬で切り裂き、件の魔法陣を見る。なる程確かに、肌を掘られて痛々しく刻まれている。入れ墨と言うよりは傷跡だった。何の為にこんな物を与えたのか、一切予想が付かない。
「これを使って星魔術を?」
「あぁそうさ。お陰で仕事は極めて順調、だったのによう。あぁ、最近頭痛がひでぇや」
「……とりあえず、こいつ等を引き渡しに行くか」
愚痴る頭目を無視し、捉えた盗賊の全てを空きの馬車に詰め込む。確認をとったが、仲間は十三人で間違い無いらしい。ここからでは目的地の街よりトハンの方が随分近い為、一旦道を引き返す事にする。簡素な牢があるだけのトハンだが、見栄えのしない盗賊を置いておくには十分だ。下り坂を来た時よりも幾分か速く進み、トハン迄の道のりを消費する。途中左手の人差し指からドゥルジを生み出して街への道程はこいつが護衛すると商人に説明をすれば、あっと言う間にトハンだった。
村長含む役場の者達に未だ眠ったままの盗賊を引き渡し、頭目にまだ何か聞きたいことはあったかと考える。その頭目は道中も、そして今もずっと愚痴を吐き続けているのだが――
「くっそ、頭が、耳鳴りがっ……ぐぶッ……が、ば、あぁ? な、何が、ごぼっ……」
唐突に、溺れる様に血を吐く頭目。ガクガクと痙攣し、膝を折って崩れ落ちる。
困惑の言葉と誰に対してかわからない命乞いを一頻り述べた後、それは悲痛な絶叫へ、そして嗚咽へと変わっていった。眼球がぐりぐりと彼方此方を向き、血の泡を絶えず口から生産し、縛られた手足だけが蛸の様にのたくっている。それもすぐに終わり、そうして呆気なく死んだ。辺りには静寂だけが残る。
トーゴすら何が起こったかわからず硬直していたが、眼帯の下、瞼と眼球があろう場所が薄く発光し、眼球の隙間から白い光が漏れているのをトーゴと他何名かは目撃していた。
「……検分する、残りの盗賊共は急いで牢に。ミュー、あまり見ないほうが」
「……ううん、これは大丈夫、ぽい」
無理している様子はない。少し不安だが、本人がそう言っているのだから大丈夫だろう。何がフラッシュバックやパニックのトリガーとなるのか良くわからないが、今は目先の事を考えよう。
眼帯を剥がす。その下の目は白く濁って失明していると誰もが見て取れるものだったが、その眼球に小さな魔法陣が焼き付けられていた。これを、頭目は知っていたのか知らなかったのか。
「胸のは星魔術でしょ。こっちは……魂魄魔術、かな。」
「魂魄……?」
一つ確かなのは、この魔術阻害のロープで縛られている為に、魔術は一切使えないという事だった。ならば眼球の魔法陣が光ったのは、魔術が発動したからではなく、今まで流れていた魔力が停滞、停止したからである。
魂魄魔術の魔法陣への、魔力流入の停止。因果関係は分からないがそれによる死亡なのだとすれば、頭目は何らかの方法で、魂魄魔術によって延命措置を施されていたのだろうか。星魔術を植え付けたという怪しい二人組がこの魔法陣を刻んだのだろうが、その目的は。
「くそ……」
実態の見えないこの状況に対して、トーゴは歯噛みするしかなかった。




